見出し画像

空想お散歩紀行 いつかその場所に

ここは?私は隣に座っている運転手に尋ねる。
運転手と言っても、現在は自動運転に任せているから操縦桿は握っていない。
魂の還る場所だと、彼は言った。
宇宙を行く一人旅。なるべく旅費を浮かすためにヒッチハイクを試みたところ、少し不愛想だが親切な人の船に乗せてもらうことになった。
彼が言う魂の還る場所とやらを窓から覗いてみると、時折大き目の小惑星が見えたりするが、基本はどこでも見れるような宇宙空間が広がっているだけだ。
私は改めて、何でここが魂の還る場所なのか聞いた。
彼は言った。あらゆる惑星や恒星、星々は流れを作っている。それは重力場や電磁波やらとも違う、人の技術では観測できない何からしい。
ともかくそれらの流れは宇宙全体を巡っていて、その終着点の一つがこの辺りなのだそうだ。
確かに、特に何もない空間のはずなのに、私は最初に、彼にここはどこだと尋ねた。
ここが何か特別な場所だと私の中の何かがきづいたのだろうか。
彼は続けた。人間も動物も、この宇宙のあらゆる命は、死ぬとその魂は宇宙の流れに乗り、ここに来るのだそうだ。そしてここからまた、宇宙ではないどこかへ旅立つのだそうだ。
もうワープ航法も、記憶移植による半不老不死も、科学が解き明かした今の時代において何ともスピリチュアルな話だと思う。
だが、彼の話を否定する気にはなれなかった。
何となくだが、この場所を懐かしいと思っている自分がいるのだ。もしかしたら私の魂がここを知っているのかもしれない。
そう思うと、時々見える小惑星が何かの道しるべのように見えた。ここへ戻ってきて、そしてまた旅立つ、その時のための道しるべに。
船はやがて、その宙域を離れていく。
魂の還る場所。旅は目的地よりも、その道中で思いがけないおもしろいものを見つけるものだと私は思ったのだった。

その他の物語
https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?