マガジンのカバー画像

空想お散歩紀行 物語の道

1,152
空想の世界の日常を自由に描いています。
運営しているクリエイター

2021年12月の記事一覧

空想お散歩紀行 一年の終わり

空想お散歩紀行 一年の終わり

今年も一年が終わろうとしている。あらゆる世界で。
魔法が存在する世界で。宇宙を行きかう人々がいる世界で。人の言葉を話す獣がいる世界で。科学と神秘が共存する世界で。
どんな世界だろうと共通するのは、時間が流れ、全ては過去となり、今を経て、未来へと繋がっていくこと。
一年が終わろうとしている今この瞬間だけは、どんな世界だろうと、人も神も悪魔も全ての存在は静かに歩みを止め、振り返り、そしてまた明日からの

もっとみる
空想お散歩紀行 魂の欠片

空想お散歩紀行 魂の欠片

健全な魂は健全な肉体に宿ると言う。
でもそれだと、肉体の方が上って感じがするので私はあんまり好きじゃない。
正確には、健全な魂は健全な肉体に宿るけど、健全な魂が健全な肉体を作り得る、だと思う。
それが私たち、魔導生命体を作る者たちに共通する考え方だ。
「はい!採って来たわよ!」
私はドンと机の上に力を込めて一つの瓶を叩きつける。そこには私なりの抗議の意味もこもっていた。
だけどそんな私の気持ちを知

もっとみる
空想お散歩紀行 年の瀬は心の中も大掃除

空想お散歩紀行 年の瀬は心の中も大掃除

自分の力を活かして人生を生きることができるというのは素晴らしいことだ。
だが、そんな力も同じ使い方ばかりしていたら、いつしかマンネリ化して退屈になる。
だから、たまには違う使い方をするのがいい。
作品を作って商売をする漫画家が、何も考えずに落書きをするようなものだ。
「まいどあり~。どう?スッキリしました?」
「え、ええ。たぶん、まあ」
中年のおじさんは不思議そうに頭を搔いている。今日ここに来た目

もっとみる
空想お散歩紀行 その魔法は保護されています

空想お散歩紀行 その魔法は保護されています

大勢の人、無数の車が流れる都会の喧騒の中を、一本と糸がその間隙を縫うように一台の自転車がすり抜けていく。
自転車に乗っているのは一人の少女。動きやすいスポーツウェアにヘルメット、背中にはその体に不釣り合いなほど大きなカバンを背負っている。
彼女は今、自転車で様々な物を配達するサービスのバイト真っ最中だった。
どんなに華麗にスイスイと自転車を操っても、赤信号には叶わない。その度に足を止められることに

もっとみる
空想お散歩紀行 見える世界

空想お散歩紀行 見える世界

「やっと手に入ったか」
ネットでは販売されておらず、本屋を5店舗も回ってようやく目的の物を見つけた。
それが目に入ったときは、それだけで心が満足したほどだった。
先程まで、世の中に絶望したような顔をしていたのに今は一転、真冬真っ只中の今、一人だけ春が来たかのような笑顔の青年がそこにいた。
ホクホク顔の青年の隣にいる友人。彼は今日半ば無理やり買い物に付き合わされた形なので少々不満顔である。
「なあ。

もっとみる
空想お散歩紀行 管理システムの息抜き

空想お散歩紀行 管理システムの息抜き

技術が発達する度に、人がやらなくてはいけないことは減っていく。今まで人の手に委ねられていたことは次々にその手を離れ、機械やAIが肩代わりしてくれる。一つの文句も言わずに。
今現在、日常の世界を影から支えてくれているのはAIと機械たちだ。
オフィス街にあるビル群には一つ残らずAIによる管理システムが導入されている。
今、ビル内にどれだけの人がいるのか、オフィスや廊下やトイレに汚れているところはないか

もっとみる
空想お散歩紀行 歩き続けるその足元

空想お散歩紀行 歩き続けるその足元

男は宝を求め、宇宙中を飛び回っていた。
そしてある時とある情報を得た。
果てしなく宝石で埋め尽くされた大地が広がる惑星があると。
男は長い調査と情報収集の末についにその惑星を見つけ出した。
そして辿り着いた時、最初に降り立ったのは砂漠だった。
男は歩き出した。まだ見ぬ宝石が広がる大地を目指して。
しかしその旅は過酷なものだった。砂漠はどこまでも広く、この砂漠の砂はやけにチカチカと太陽の光を反射して

もっとみる
空想お散歩紀行 ホーリーナイト

空想お散歩紀行 ホーリーナイト

その場所だけ空気が違うようだった。
冬の刺すような極寒の空気が、さらに鋭さを増しているように思えた。
そこにいるのは何十、何百にも及ぶ人。
男もいれば女もいる。
しかし共通していることがある。
全員が赤を基調とした服に身を包んでいること。そしてこの氷のような空気の中でも一切の心のぶれを出していないその目であった。
整列する彼らの前に、巨漢の男が立った。小さな踏み台に乗っているだけなのに、彼らよりず

もっとみる
空想お散歩紀行 崩壊阻止リアルタイムアタック

空想お散歩紀行 崩壊阻止リアルタイムアタック

「ふぅ、またここからか」
既にうんざりとかがっかりとか、そんな気持ちはどこかに置き去りにしてしまった。
ベッドから起き上がると、枕元に置いておいたノートにさっそくいろいろと書き出す。これも完全に習慣になってしまった。
「やっぱり、力を持ってるからって安易にあんな連中に助力を求めるんじゃなかったか。でもそうなると他に都合のいい手があるか・・・?」
しばらくベッドの中で思案にふけった後、起き上がり、顔

もっとみる
空想お散歩紀行 ドッグトレーナーの苦悩

空想お散歩紀行 ドッグトレーナーの苦悩

古くから人の相棒として、傍らに存在し続けてきた動物、犬。
現在はペットとして家族の一員のように扱われることが多いが、今でも人間の仕事を支える犬も多くいる。
警察犬、盲導犬、麻薬探知犬など、様々な仕事をこなす犬たちがいる。
しかし、そんな犬たちも最初からそれぞれの仕事ができるわけではない。
犬たちに仕事を覚えさせ、訓練させる必要がある。
それをするのがトレーナーと呼ばれる者たちだ。
彼らは一匹一匹の

もっとみる
空想お散歩紀行 そうだ、京都行こう

空想お散歩紀行 そうだ、京都行こう

日本の古都、奈良京都。数多くの寺院があり、旅行の定番地として長らく愛されている土地。
その歴史あふれる町の中に、一つの寺があった。
観光ガイドブックにも載らないような普通の古寺。
しかしそこから実に満足そうな顔で出てくる若者がいた。
金髪に青い目をした彼は、傍から見れば日本好きの外国人観光客に見えただろう。
「いやあ、良かったなあ。ここも」
彼は誰かに言うでもなく一人じっくりと自分の言葉を心に刻み

もっとみる
空想お散歩紀行 永遠の命

空想お散歩紀行 永遠の命

最初は単に人の形を模した作り物に過ぎなかった義手や義足。人の体の代替品はその後の技術の進歩に合わせ、より複雑により精密になっていき、最終的に人が自らの意志で、自分の体のように自由に動かせるまでに至った。
それは人の体が機械の部品と交換可能なパーツと位置づけられることと同義だった。
それまでは事故や病気などで仕方なく代替品を使うのが普通だったが、今や自分から肉体を捨て、機械に換装することも別段不思議

もっとみる
空想お散歩紀行 世界揺るがすカードバトル

空想お散歩紀行 世界揺るがすカードバトル

「やったー!クラッシュガン出たー!」
「ちぇっ、ビッグガイだ。これ持ってる」
ショッピングモールのおもちゃ屋の前で小学生くらいの子供たちが騒いでいる。
手に持っているのは、開けられた袋と10枚ほどのカード。
トレーディングカードバトルゲーム『ジャスティスオーダー』
数千という数を超えるカードを集め、それらを駆使してバトルをするという、いつの時代でも似たようようなものが存在する子供向けのホビー商品で

もっとみる
空想お散歩紀行 納まるべき場所

空想お散歩紀行 納まるべき場所

世界は平和になった。
それは実に多くの人間の力が合わせられた結果と言えるだろう。
勇者と呼ばれる者は決して一人ではない。この戦いに立ち向かった全ての人間は等しく勇者なのかもしれない。
そして俺もそんな勇者の末席に名を連ねていると多少の自負はあった。
今俺が背負っている剣。こいつと共に過酷な戦いを乗り越えてきた。
戦いは終わった・・・
のだが、俺の旅はまだ続いている。
「なあ、まだ次の町には着かない

もっとみる