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空想お散歩紀行 ホーリーナイト

その場所だけ空気が違うようだった。
冬の刺すような極寒の空気が、さらに鋭さを増しているように思えた。
そこにいるのは何十、何百にも及ぶ人。
男もいれば女もいる。
しかし共通していることがある。
全員が赤を基調とした服に身を包んでいること。そしてこの氷のような空気の中でも一切の心のぶれを出していないその目であった。
整列する彼らの前に、巨漢の男が立った。小さな踏み台に乗っているだけなのに、彼らよりずっと頭が高い所にあるように感じる。
大男は一度全体を見回すと、目をつむり息を吸う。
そして、目を開くと同時に話し始めた。
「諸君!いよいよこの日を迎えた」
マイクも何も使っていないはずなのに、その声はそこにいる全員、一番後ろの列にまではっきりと響き渡った。
「この日のために、お前たちは訓練を続けてきた。傷を負わない日は無かっただろう。教官に怒鳴られない日は無かっただろう。だが、その全てを乗り越えてお前たちは今ここに立っている!!」
空気を震わす大男の声にも全ての者はわずかにも体を動かすことはない。
「全ては今日、いや今夜だけのためだ!このクリスマスイブの夜の数時間だけのために我らの部隊は存在する!」
聖夜防衛特別部隊。それが彼らの持つ名前だった。赤い服と腰に携えた剣が彼らのトレードマークだ。
「今宵。サンタクロースたちが世界中を回る。プレゼントを配るために。だが、それを妨害するものたちがいる」
大男、その部隊の隊長である彼は、一度そこで間を取った。ここからさらに自分の想いを込めるためだ。
「サンタクロースたちを襲撃する悪魔ども。やつらからプレゼントを守ることが我々の使命だ!プレゼントが配られなければ世界から希望が失われるも同義!子供たちの絶望こそ悪魔どもの最高のエサだ。そんなものをやつらに与える必要はない!!」
隊長の言葉が連なると共に、最初は鋭く冷静だった隊員たちの目にも力強い炎が宿るのが雰囲気で伝わってきた。
「お前たちの目的はただ一つ!悪魔どもを斬って斬って斬りまくれ!聖なる夜は子供たちだけのものでいい。お前たちは目の前の敵を倒すことだけを考えろ!その赤の戦闘服を悪魔どもの血でさらに紅く染めて帰ってこい!」
そして隊長は静かに自分の腰に下げていた鞘から大剣を抜き、天へと掲げる。そして隊員たちも自分の剣を同じように天へと向ける。
「きよしこの夜!サンタとトナカイのソリの前に立ちふさがる全ての悪鬼に、我らが剣の制裁をッ!」
「「「「メリークリスマスッッ!!」」」」
隊員全ての声が、凍り付きそうな空気にひびを入れんばかりの勢いで爆散した。
そして聖なる夜を守る騎士たちが世界中へと散る。白い雪と赤い血が交じり合う星空の戦いが始まる。全てはプレゼントという希望を守るために。

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