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空想お散歩紀行 魂の欠片

健全な魂は健全な肉体に宿ると言う。
でもそれだと、肉体の方が上って感じがするので私はあんまり好きじゃない。
正確には、健全な魂は健全な肉体に宿るけど、健全な魂が健全な肉体を作り得る、だと思う。
それが私たち、魔導生命体を作る者たちに共通する考え方だ。
「はい!採って来たわよ!」
私はドンと机の上に力を込めて一つの瓶を叩きつける。そこには私なりの抗議の意味もこもっていた。
だけどそんな私の気持ちを知ってか知らずか、目の前にいる白髭の老人、私の祖父は瓶を手に取ってその中身を眺めている。
「ほっほっ、こりゃまたたくさん採ってきたの。ま、ヴァルハの森ならこれくらいは集まるか」
「あのねえおじいちゃん、それだけ集めるのにどんだけ苦労したか分かる?あそこかなり危ない魔物もウヨウヨしてんのよ」
「ほいほい、分かっとるよ。でもな、最近は勇者さんのおかげであの辺りの邪気はかなり減っとるはずじゃがのう。ワシの若い頃はもっと危険な場所で―――」
「はいはい、分かってるわよ」
お年寄りの昔話は長い。しかもかなり盛ってる可能性が高い。
祖父が私との会話中も目を離さず見ている瓶の中。そこは赤やら緑やら青やらの色が静かに発光しながらいくつも漂っている。
あれらは、魂の欠片と呼ばれているものだ。
人が死ぬと肉体は朽ちて消える。でも、魂は死ぬことは無い。ただその代わり、バラバラ散り散りになって世界中を浮遊している。
その細かく分かたれた魂を見ることができる力を持った者たちがいる。
私の家系も代々その力を受け継いできた。そして魔導生命体を作るという仕事も。
魔導生命体と言うと大仰に聞こえる。周りの人たちは私たちのことを人形使いと呼ぶこともあるが、そっちの方がしっくり来るかもしれない。私の家ではゴーレムと呼んでいる。
ゴーレムの作り方は至極単純だ。
まず器を作る。器の形は特に決まりがあるわけではないが、我が家ではオーソドックスに人型となっている。
人間そっくりの見た目に、魔力を流す回路を組み込む。この大元の回路こそ代々伝わる秘密事項なのだ。その回路を元にアレンジを加えることで器に様々な個性を持たせることができる。
そして次に器に流す魔力となる燃料の封入だ。
これに採ってきた魂が使われる。
と言っても、魂の欠片を一つ入れたくらいじゃゴーレムは動かない。
だからこれを混ぜるのだ。魂同士を混ぜる調合。これがゴーレムの品質を決める最後の要素だ。
これがなかなか奥が深いもので、良い魂と良い魂を混ぜればいいというものではない。
美味しいシチュ―に美味しいケーキを混ぜればさらに美味しくなるのかと言ったらそうではないように。
「ねえ、おじいちゃん。いつになったら本格的な魂調合の実践させてもらえるの?」
まだ私は魂の調合に関しては書物での勉強と簡単な基礎しかやらせてもらえていない。ああしたい、こうしたいというアイデアはたくさんあるのに。
「まだまだじゃな。お前は器作りはそれなりにいいが、魂の調合の前に、まず魂の見極めがなっとらん。ほれ、お前が集めてきたもん、見たところCランクばかりといったところじゃな。ヴァルハの森ならAランク相当も珍しくなかろうに」
「え!?Aランク入ってないの?一個も?」
私の問いに祖父はただ首を縦に振るだけだった。
「今回は結構自信あったんだけどなあ・・・」
正直かなりテンション下がる。でも祖父はそんな私の気持ちなどお構いなしに、
「ほれ、じゃあ次はヨモツ洞窟じゃな。あそこにもいい魂が漂っておるぞ」
次の注文を付けてくる。
「・・・少しは孫を慰めようとか思わないわけ?」
「慰めたところで、ゴーレム作りの腕が上がるわけじゃないからの」
確かに。私も同情されるのは正直好きじゃないし。
「分かったわよ。行ってくるって。でも、前から言ってるけどさ、この道具もうちょっとどうにかならない?」
そう言って私が手に取ったのは、魂を採るための捕獲道具。ただ見た目は子供が持つ虫取り網にしか見えなかった。
「それが我が家に代々伝わる由緒正しい道具なんじゃよ」
何百何千と繰り返されてきた、同じ質問と同じ答え。
変わることはないと知りながら、私は小さくため息が出た。
「じゃあ行ってきまーす。今度は活きのいいの採ってくるから」
私は再び出発する。自分の道を作るための欠片を手にするために。

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