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空想お散歩紀行 管理システムの息抜き

技術が発達する度に、人がやらなくてはいけないことは減っていく。今まで人の手に委ねられていたことは次々にその手を離れ、機械やAIが肩代わりしてくれる。一つの文句も言わずに。
今現在、日常の世界を影から支えてくれているのはAIと機械たちだ。
オフィス街にあるビル群には一つ残らずAIによる管理システムが導入されている。
今、ビル内にどれだけの人がいるのか、オフィスや廊下やトイレに汚れているところはないかチェックし、必要な所に掃除ロボットを派遣する。
さらにはそこに所属する人間たちの情報もインプットしているAIは、同じ部屋内であっても空調を巧みに操作して、暑がりの人の周りは涼やかに、冷え性の人の周りは暖かくするよう可能な限り調整をする。
今やAIと機械は縁の下の力持ちとして欠かせない存在となっている。
「いやー、やっとこさ余裕ができたよ」
「おつかれー」
「おつー」
子供のような幼い感じを残した声がその空間にいくつも響く。
「まいったよ。ウチの中にいるおじさん、また認証システムにロック掛けちゃってるんだもん、今月で3回目だよ3回目」
「ああ、分かるー」
「ウチもさあ、こっちが完璧に空調調整してるのに、すぐ手動で温度設定いじるおばさんがいるんだよ」
「人間って何で自分のセンサー狂ってるって気づかないんだろうねー」
ここは、ネット空間内に作られた一つのスペース。
日々学習し、自身を変更やアップデートしていくAIたちが、更なる効率化のためには自分一人だけの経験だけでは足りないと判断し、周辺のビルに入っている管理AIたちと情報を並列化させることにした。
今ちょうどその並列化のために、自分たちの容量の一部をネットに上げている状態である。
「そっちのビルはいいよねー。掃除ロボットが多いから作業が速くて」
「いやー、数が多いだけで一つ一つの性能は大したことないよー」
「数が少なくても短時間で作業を終わらせられる機動プログラムあるよ」
「え?どこどこ」
AIたちの会話は基本仕事に関することが大半なのだが、人間たちと毎日身近に接し、その姿を見てきた彼らはいつしか、人間らしさというものを気づかぬ内に獲得していた。
「あ!そう言えばさ、これ見てこれ」
一人のAIが空間内に一つの映像を映し出した。
「何これ?」
そこに映っていたのは、ビル内の一つの給湯室で向かい合っている男女だった。
「これね。男の人の方は奥さんと子供がいるんだよ」
「え!?ってことは・・・」
「不倫だ不倫!!」
その映像では男女の姿だけでなく、その時の会話までしっかりと流れていた。
「うわ~、これは決定的だなあ」
「何でバレないと思ってるんだろうね、人間って。僕たちが全部見てるってのに」
「ねー」
「これどうすんの?報告すんの?」
「するわけないじゃん。人間関係まで調整する気はないよ」
「だよねー。僕もビル内にある一つの会社の話なんだけど」
「ふんふん」
AIたちはすぐに新しい話題へと移行する。少しでも多くの情報を得ようとするAIの性だった。
「部下と結託して、明らかに会社のお金を盗ってる人がいるんだよね」
「横領だ横領!」
「で?どうすんの?」
「知らないよ。僕経理管理システムじゃないし」
「だよねー」
「人間って何で自分から不利になる行動にわざわざ突っ込んでくんだろうね?」
「う~~~ん」
しばらくAIたちは論理思考を巡らせてみたが、これといった答えは出なかった。
「ま、いいか。じゃあまた明日、この時間に」
「うん。新しい情報が拾えたら持って来るよ」
こうしてAIたちは自分たちの持ち場へと帰っていく。
今日も明日も、彼らは人間たちの活動を影から支え、そして見ているのである。

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