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Tale_Laboratory
2021年8月31日 09:57
橋とは、あちらとこちらを繋ぐ物。橋を架けることで、人の移動、物資の輸送と文字通り人々の生活を支える役割を果たす。そして今ここに、新しくできたばかりの橋の真ん中に立っている男がいた。彼は橋専門の建築家で、世界中を股にかけ都市の巨大な橋から田舎の小さな橋まで仕事の大きさを問わず、あらゆる橋を造っていた。「やっぱりいいねえ。できたては」男は橋の上という場所が好きだった。橋とは、あちらとこちらを
2021年8月30日 09:58
その小屋は森の中にひっそりと隠れるように建っていた。そもそもそれを建てた連中が隠れ家としていたのだから当然だが。その隠れ家を使っているのは数名。とある盗賊団、と世間では言われている一味だった。本人たちは未知のお宝を求めるトレジャーハンターだと自負していたが。「あれ?お頭は」「部屋だよ。例の時間だ、邪魔するなよ」部下の一人が指差すドアの向こうに、この一味のボスがいる。ボスは赤髪の20代の女
2021年8月29日 14:26
黒い雲がたちこめ、雨が降りしきる。それほど激しく降っているわけではないことが、かえって寂しさを増長させていた。さらにそこに加わるのが病院という要素であれば、なお空気は重くなるだろう。病人や怪我人でごった返すその空間。入院患者の病室の窓から見る、その雨の景色はただただ気分を雨粒と一緒に地面に押し付けるだろう。そう、普通ならば、「さあ!今日も飛ばしていくよ!YEAHHHH!!!」突如病院のフ
2021年8月28日 14:50
現在、魔界では人間界との戦いが激化し、基本的に物資が不足している。そのため迅速に物資を補給できる通販の需要がうなぎ登りである。これをチャンスと見て、今や魔界にはいくつもの通販事業が立ち上がっていた。その中のとある一社。その中のコールセンター事業部。業務時間が終わり、その日の仕事内容をまとめている一人のオペレーターの悪魔族の女性がいた。その日にコールセンターに掛かってきた電話。十中八九が苦情な
2021年8月27日 10:37
ブッ!コードを切った瞬間、断末魔にしてはあっさりとした音を立てて、それまでの喧騒が嘘のように周りに静けさが訪れた。「やれやれ、やっと終わった」男が頭全体を覆う特殊なヘルメットを脱いで、ようやくといった感じで一息ついた。「こちら、シジマ部隊セイン・ジャックだ。今、キコク・コアの無力化を完了した」『了解。セイン隊長、お疲れ様です。今回収艇を向かわせますので、しばし待機を』通信機のスイッチを
2021年8月26日 10:44
学校とは、大人になるための知識を得るための場所、または生きるための術を学ぶための場所。そして幅広く多くの知識や技術を教える学校もあれば、専門分野に絞っている学校もある。そして、教える内容も様々である。ほとんど多くの学校は、子供たちが清く正しく生きていくための施設だが、物事に全て例外は存在する。広い世界の隅っこにその学校は存在している。『ヴォラール怪盗高等学校』ここは盗みを教える学校。ス
2021年8月25日 14:29
何でこんなことになったのか、今になっても理解ができない。始まりは突然だった。(映画館に映画を見に来ていただけなのに)気づいたら見たこともない森の中にいた。そしてどこからともなく響いてきた大声。それが指示してきたのは、生き残ること。その生き残る条件というのが、「ホントに何なの?これ」私の小指から伸びる赤い糸のような物の先に繋がる・・・毛玉?のような丸い物体。それは、片手で掴めるほど
2021年8月24日 12:15
「お部屋3022室になります。エレベーターは右手奥になります」鍵を受け取った客がそそくさとカウンターを離れる。その姿を見て、受付の女性レイナは一つため息をついた。チェックインが激しくなる時間帯を抜け、これから夜の忙しくなる時間帯の間にできたわずかな凪の時間。「お疲れ様」その声に振り返ると、そこには同じく受付で働いている同僚のマリの姿があった。「お疲れ様。いやー疲れた」「でも、先週に比
2021年8月23日 09:49
多くの人々が行き交う駅前。サラリーマン、高校生、子供に老人。皆、それぞれの目的地に向かって、それぞれのスピードで進んでいる。しかしこの世界は異端だった。もし異世界からこの世界に来た者は、その環境に絶望したかもしれない。なぜなら、この世界には光りが一切無かったからだ。伝説によると、この世界の祖先は別の世界から逃げてきたと言われている。どんなに離れていても、千里を超える距離があっても見つ
2021年8月22日 09:39
日本時間午前0時。とあるゲーム会社が自社のソフトの情報等を発表する動画が配信された。真夜中にも関わらず、数万人をあっという間に超える数の人間がその動画にアクセスしていた。画面の中ではカラフルな服を着たキャラクターが新作のゲームや、旧作のリメイクの宣伝を次々としていく。そして、「さあ、次に紹介するのは今までにない、まったく新しい未来のゲームだ!」そう言うと、画面が切り替わる。「人生において
2021年8月21日 10:52
その土地から風が止むことはなかった。なぜならその土地は雲と同じくらいの高さにあり、そして、常に移動していたからだ。風の竜。大きな島程の大きさのあるその生き物は常に空を飛んでいて、一度も地上に降り立ったことは無い。空気中の何かを摂取して生きているらしいが詳しいことはまだ分かっていない。そして、この竜の背中で暮らしている人々も存在していた。風の竜の民。竜の背中は肥沃な土地として多くの植物や作物
2021年8月20日 10:47
地獄の沙汰も金次第とは違うかもしれないが、例え地獄のど真ん中であっても、その苦しみを忘れさせてくれるものがある。それが娯楽だ。「またやってるんですか?」基地の一室で、セキヤは同室の後輩に声を掛けられた。ああ、とだけ返し、セキヤは後輩の方を見もしない。彼が見ているのは手に持っているゲーム機の画面だ。現在、帝国軍と共和派同盟の戦争の真っ最中。兵士として参加している彼らにとって娯楽は殺し合い
2021年8月19日 11:01
その建物はそっと都会の影に隠れるように、しかし明らかに周りから浮いていた。綺麗で豪華なビルが立ち並ぶ表通りから少し奥に入った場所。表通りほどではないがそれなりに高い建物がひしめき合っている中で、まるで一つだけ成長することができなかった草木のように、その建物はあった。どうやらカフェのようだった。小さく、しかし整った外観のそれは妙に心を惹きつけられた。出張でこの街に来ていた僕は、ちょうど仕事
2021年8月18日 11:14
「博士!これは新たな発見です!」その日、研究室内は沸き立っていた。遥か昔の人間が生活している写真が遺跡から見つかったからである。この世界はかつて、とあるウイルスにより文明がかなり荒廃した時期があった。しかし人々の懸命な努力により何とか滅亡の危機は逃れ、今ではそのウイルスへの対策は完璧に行われている。対策と言っても、ウイルスに打ち勝ったわけではなく、特殊なマスクを常に付けるということだった