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空想お散歩紀行 戦場の絆

地獄の沙汰も金次第とは違うかもしれないが、例え地獄のど真ん中であっても、その苦しみを忘れさせてくれるものがある。
それが娯楽だ。
「またやってるんですか?」
基地の一室で、セキヤは同室の後輩に声を掛けられた。
ああ、とだけ返し、セキヤは後輩の方を見もしない。
彼が見ているのは手に持っているゲーム機の画面だ。
現在、帝国軍と共和派同盟の戦争の真っ最中。兵士として参加している彼らにとって娯楽は殺し合いの中における唯一の救いだった。
戦いと戦いの間のわずかな隙間に兵士たちは自分だけの時間に潜り込む。
ある者は酒。ある者はギター。ある者は執筆をしたりして、少しでも過酷な現実から離れようとしていた。
そしてセキヤにとってはそれがゲームだった。
携帯式のゲーム機はどこへでも持ち運べるため便利だった。
「何やってるんですか?」
「クリーチャーイェーガー」
それは大ヒットしているゲームソフトだ。オンライン通信可能で世界中のプレイヤーと協力しながら巨大なクリーチャーを討伐するという内容だった。
「現実でも戦ってんのに、ゲームの中でも戦ってるんですか・・・」
後輩が半ば呆れた顔でつぶやいた。
「それはそれ、これはこれだ」
セキヤのゲーム内キャラ、SEKIは巨大な剣を持って、さらに巨大な生き物へと攻撃を仕掛けていた。
「現実ならこんなでかいやつに接近戦なんて無謀にも程があるけどな」
敵の攻撃を華麗に躱しながら連続で攻撃の手を叩き込む。
例え敵の攻撃を受けたとしても、現実の自分が死ぬわけではない。自分の命を考えなくてもいい戦いとはいかに楽なものか。
皮肉にも現実での戦争が、この癒しとは真逆に位置するようなゲームでさえ、彼の心を休めてくれることになっている。
「・・・よしッ!」
小さくガッツポーズをするセキヤ。今までで一番強いとされるクリーチャーを撃破し、喜びと共に安堵の息をついた。
画面内で剣を高々と掲げ勝利のポーズを決めるSEKI。
そしてその隣には同じく勝利ポーズを決める、今回の戦いを共にしたプレイヤーたちが並んでいた。
その中に一人、NABEPONと表示されている槍を持ったキャラクターがいた。
セキヤはこのキャラに全幅の信頼を寄せている。
「こいつさ、大体この時間に決まっているんだよ。だからチーム組むことも多くてさ。しかも強いから、こいついると戦いの安心感が全然違うんだよな」
まるで長年の相棒を自慢するかのように、セキヤは楽しそうに語っている。
「はいはい。ゲームもいいですけど、明日はあのイゼルラインの攻略戦なんですから。早く寝てくださいね?」
後輩にたしなめられ、へいへいとセキヤは返事をした。やはりゲームはゲーム。どんなに楽しくても現実が変わるわけではない。
それでも彼はゲームと、その中にいる友にかけがえのない何かを感じていた。

一方、その頃。
「おいワタナベ。そろそろ止めといたらどうだ?」
「ええ。ちょうど区切りがついたんで、今止めますよ」
「お前、一時間前にも同じこと言ってなかったか?」
ここはとある基地の一室。彼らもこの帝国軍と共和派同盟の戦争に参加している兵士だった。
ワタナベと呼ばれた兵士が手にしているのは携帯ゲーム機。画面には巨大なクリーチャーを倒して、武器である槍を掲げて勝利ポーズを決めている自分のキャラクターNABEPONの姿があった。
「まったく、ゲームなんかのどこがいいのかさっぱり分からん」
「先輩もやってみたらいいんですよ。戦争じゃ味わえないタイプの連帯感?みたいものがありますから」
はっきりとしない適当な答えに呆れ顔の先輩。
「協力プレイっていいっすよ。例えば、今SEKIってやつと一緒にプレイしたんすけど、こいつめっちゃ強くてめっちゃ捗るんですよ。顔も本名も分からないやつと協力するって本当に信頼がないとできないと思うんすよね」
まるで子供みたいに楽しそうに顔を輝かせていた。
「分かった分かった。とにかくだ、ゲームはほどほどにしとけ。特に明日はイゼルラインに敵が攻めてくる可能性が高いんだ。肝心な時に眠いなんて言ってみろ。承知しないからな」
はーいと気の抜けた返事。しょうがなく彼はゲーム機の電源を落とすことにした。
帝国軍と共和派同盟。例え敵同士と言えども、戦闘の合間の一時にはまた別の絆がそこにはあった。

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