空想お散歩紀行 魔界通販コールセンター
現在、魔界では人間界との戦いが激化し、基本的に物資が不足している。そのため迅速に物資を補給できる通販の需要がうなぎ登りである。
これをチャンスと見て、今や魔界にはいくつもの通販事業が立ち上がっていた。
その中のとある一社。その中のコールセンター事業部。業務時間が終わり、その日の仕事内容をまとめている一人のオペレーターの悪魔族の女性がいた。
その日にコールセンターに掛かってきた電話。十中八九が苦情なわけだが、それを彼女は改めて社内の定められた書類に書き記していた。
本日のお客様の声、その1
『人間の軍隊に対抗する戦力を手軽に補強するため、【ゾンビ300体セット】を注文しました』
ゾンビ300体セット。一度死んだ魔物を魔導技術によってゾンビとして再利用するというエコ商品として発売されている。
『商品が届いたのですが、300体のうち何体かは、腕や足、目玉が欠けていました。不良品が混ざっていました』
丁寧な口調として書かれているが、これはあくまで会社に報告するための書類だからこうなっているのであって、実際はもっと強い口調でクレームを言われている。電話越しに何度も謝った記憶がまた甦ってきた。
「いや、ゾンビじゃん。最初から腐ってるじゃん。そりゃ少しは欠けててもしょうがないでしょ。そういうもんでしょ」
彼女は電話口では言えなかった言葉をここぞとばかりにつぶやいた。
本日のお客様の声、その2
『人間の拠点の砦を攻めるために、【組み立て式ゴーレムキット】を購入しました』
本来造るのにいくつもの手順が必要なゴーレム。それをいくつものパーツに分けることで、いつでもどこでも好きな場所で組み立てることができる商品だ。
『しかし、組み立てるのに1ヵ月掛かってしまい、出来上がったころには既に砦の戦いは終わっていた。返品したい』
「知らん!そっちが不器用なことなんてこっちは知らん!」
自分で報告書を書きながら自分でツッコんでしまっていた。
本日のお客様の声、その3
『戦闘の状況を覆すべく、【呪いの術式魔法の書】を注文しました』
魔法を封じ、任意のタイミングで発動させるための魔導書はいくつもある。呪いの書はその中でもオーソドックスで一年を通して売上が好調な商品である。
『商品が届いたので早速使ってみました。そうしたら、周りにいた味方が呪いで全滅してしまいました。後から説明書を読んだところ、敵がいるところで使うと書かれていましたが、そもそも説明書が必要な商品なんて不親切だと思います。説明責任を求めます』
「説明書を読めッッッ!!!」
溜まりに溜まったものが思わず決壊した彼女。その後、大きなため息をついて心が落ち着いてから、
「やめようかな、この仕事」
力のない笑みで天井を見つめながら、誰かに言うでもなく、ただぼやくのだった。
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