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多田修の落語寺

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本願寺派僧侶であり、大の落語好きとして知られる多田修が、落語と仏教をテーマにしたコラムを執筆します。
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#浄土真宗

米津玄師「死神」の元ネタにも?【多田修の落語寺・死神】

米津玄師「死神」の元ネタにも?【多田修の落語寺・死神】

 ある男、仕事が失敗続きで金もなく「首でもくくろうかな」とつぶやきます。するとこの男に、死神が声をかけます。死神は男に、金儲もうけの方法を教えます。命が危なくなっている人の側にはその死神の仲間がいて、見ることができる人間はこの男だけです。死神が枕元にいたら助ける方法はないが、足元にいるなら呪文を唱えれば退散するから、それで稼げるとのこと。男はそれで金持ちになります。

 後日、最初に会った死神が男

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『愛宕山』『蒟蒻問答』【多田修の落語寺 vol.2】

『愛宕山』『蒟蒻問答』【多田修の落語寺 vol.2】

落語は仏教の説法から始まりました。だから落語には、仏教に縁の深い話がいろいろあります。このコラムでは、そんな落語と仏教の関係を紹介していきます。

蒟蒻問答(こんにゃくもんどう)わけがあって江戸を飛び出した男が田舎(いなか)に行き、こんにゃく屋の主人の紹介で、禅寺の住職になりました。修行など全くしていませんからお経はデタラメ、寺で酒盛りしていました。するとある日、旅の修行僧がこの寺へやってきて、禅

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“地獄”も、見方次第で“笑い”になる【多田修の落語寺・地獄八景亡者戯】

“地獄”も、見方次第で“笑い”になる【多田修の落語寺・地獄八景亡者戯】

  亡くなった人が三途の川を渡り、閻魔大王の下に向かっています。途中いろいろな店が並び、大黒天の米屋、文殊菩薩の学習塾、弘法大師の書道教室などがあります。その先の念仏町では、大勢の亡者が罪を軽くするために、懐具合と相談しながら念仏を買っています。いよいよ閻魔大王の裁きです。多くの人が極楽行きになりますが、医者、山伏、軽業師(サーカスのような曲芸をする人)、歯医者の4人は地獄行きになってしまいます。

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将来への備えは、早い方がいい【多田修の落語寺・茶の湯】

将来への備えは、早い方がいい【多田修の落語寺・茶の湯】

 ある商家の主人、店を息子に譲り、根岸(台東区)に引っ越して隠居の身です。現役の時は仕事一筋で、趣味らしい趣味がなく、隠居してから毎日退屈しています。そこで茶の湯を始めました。

 だれからも教わらず、おぼろげな記憶が頼りの自己流なので、用意する物も作法もデタラメ。抹茶ではなく青黄粉を買い、それでは泡が立たないので椋の皮(無患子という樹木の皮。昔は洗剤として利用されていました)を入れる始末。それを

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土用の丑の日の前に知っておきたい名作落語【多田修の落語寺・後生鰻】

土用の丑の日の前に知っておきたい名作落語【多田修の落語寺・後生鰻】

 ある隠居さんは信心深く、殺生を嫌っています。

 その隠居さんが鰻屋の前を通ると、主人が鰻をさばこうとしているところ。隠居さんが「それは殺生だ」と止めようとすると、主人は商売だと説明します。隠居さんはその鰻を買い取って川に放し、「いい功徳(くどく)を積んだ」。

 これが何日も続き、店はこの隠居さんのおかげでかなり稼げるようになりました。ところがある日、隠居さんが来ても店に鰻がありません。そこで

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「娑婆」の本当の意味がわかれば、何倍も面白い名作落語【多田修の落語寺・辰巳の辻占】

「娑婆」の本当の意味がわかれば、何倍も面白い名作落語【多田修の落語寺・辰巳の辻占】

 ある店の若旦那、お気に入りの芸者に会いに、辰巳にやってきます。店で芸者を待つ間、辻占菓子(今で言うフォーチュンクッキー)の占いを見ています。

 若旦那は芸者に会うと、「大金を使い込んでしまった。もう死ぬしかない」と、心中を持ちかけます。実は、これは芸者の本気度を試すためのウソです。芸者も心中する気はありません。店から出ると夜で、少し離れるとお互い見えません。それをいいことに、2人とも大きな石を

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人間は欲望に駆られると、道をはずれる生き物【多田修の落語寺・黄金餅】

人間は欲望に駆られると、道をはずれる生き物【多田修の落語寺・黄金餅】

 寺を持たず下谷(台東区)の長屋に住む貧しい僧侶・西念が、重い病気になります。西念は、隣に住む金兵衛に、あんころ餅を買ってきて欲しいと頼みます。
 
 西念は金兵衛を部屋から出すと、貯めていた金貨と銀貨を餅にくるんで、飲み込みます。金兵衛はその一部始終を、壁の穴からこっそり見ていました。西念は餅と金貨・銀貨を全部飲み込んで、息絶えます。金兵衛は、西念が飲み込んだ金貨と銀貨を自分の物にしようと画策し

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あの有名落語の元ネタは、これだった?【多田修の落語寺・阿弥陀池】

あの有名落語の元ネタは、これだった?【多田修の落語寺・阿弥陀池】

 ある老人の家に、近所の男がやってきました。老人は男に、こんな話をします。

 泥棒が阿弥陀池(大阪市西区にある浄土宗の尼寺・和光寺の通称)に入り、尼僧を銃で脅したら、尼僧の死別した夫は、泥棒が軍人だった時の上官でした。
 泥棒は恩人の妻に銃を突きつけたことを恥じて自害しようとすると、尼僧「改心したら善人も悪人もない。お前は誰かにそそのかされて来たな。誰が行けと言った?」。
 泥棒「阿弥陀が行けと

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「するべきこと」を見出せば、よりよい道は開かれる【多田修の落語寺・景清】

「するべきこと」を見出せば、よりよい道は開かれる【多田修の落語寺・景清】

 目の不自由な定次郎は、目が見えるようになりたいと、石田の旦の勧めで清水の観音さまに願掛けをします。欠かさず通い続けて100日目、期待したのに見えるようになりません。すると定次郎は観音さまに暴言を吐はきます。それを聞いた石田の旦那は定次郎をたしなめ、明日からさらに100日通うように言い聞かせます。その帰り、定次郎は雷に打たれます。気がつくと、目が見えるようになっていました。

 「清水の観音さま」

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