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金澤流都
2024年8月4日 09:38
(承前) 猫に近い姿をした魔族は、キジ太郎一行をなにやら薄暗い森のなかに案内した。魔族は、チャチビと同じく、しっぽの先だけが蛇のような形をしていて、どうやらこの形質を持った魔族はエリート魔族であるようだった。 ミケ子がしきりにキョロキョロして怯えている。キジ太郎は「大丈夫だよ」と言って手を握ろうとしたが、鋭い爪で反撃されてしまった。 さきほどからミケ子は鼻筋にシワをよせて、ずっと「フゥー…
2024年12月1日 06:42
【猫の喫茶店】 12月になった。 マタタビ市はすっかりクリスマスムードだ。スーパーマーケットではケーキやごちそうの予約チラシが配られ、みんなまだ先だというのにクリスマスクリスマスと騒いでいる。街をあるけば讃美歌・ジャズ・ポップス問わずクリスマスソングが鳴っていないところはないという感じである。 そもそもマタタビ市においてクリスマスは「人間の家に帰ると人間がチキンを分けてくれるめでたい日」
2024年11月24日 06:44
【猫の喫茶店】 マスターは仕事が昼の仕事がひと段落して、昼ごはんを食べた後一休みしてマタタビキャンディをなめよう、とポケットに手を突っ込んだ。 ……なにかがポケットでひっかかっている。なんだ? 飴玉なんか入れたから引っかかったのか? 引っかかっているものをマスターは無理やり引っ張り出した。 引っかかっていたのはスマホであった。バッテリーのところがパンッパンに膨らんでいて、百均の手帳型ケー
2024年11月17日 06:24
【猫の喫茶店】 マタタビ市にも外国猫観光客がずいぶんと増えた。マスターは店の窓の外を歩いていく外国猫観光客をぼんやり観ながらコーヒーを淹れていた。 外国猫観光客は明らかに地猫であるマスターたちとは違う見た目をしている。異様に大きくてもふもふだったり、独特のマーブル模様だったり、手足が短かったり、耳が折れていたりする。最近ではマタタビ市の猫にもそういう容姿の猫はいるが、それでもマスターのよう
2024年11月10日 06:31
【猫の喫茶店】 喫茶「灰猫」のマスターはネットショッピングというのをやったことがない。マスターは初老と中年の中間くらいの歳だが、いままでネットショッピングで「これが欲しい」と思う品物を見たことがなかった。 だがある日、なんとなくスマホでニュースサイトを眺めていたら、とても素敵なコーヒーカップとソーサーのセットが激安、という広告を見てしまった。激安ということはもしかしたら粗悪品では、とも思っ
2024年11月3日 06:18
【猫の喫茶店】 喫茶「灰猫」にすごいお客がきた。今をときめく大文豪、ソーセキ氏である。 ソーセキ氏は喫茶「灰猫」の隣にある出版社まで出向いたついでに、灰猫でナポリタンをすすり、コーヒーを飲み、たいへん満足して帰っていった。ちょっとミーハーなところのあるマスターは、色紙にサインをお願いし、いただいたサインを壁に飾った。 それを見ていた何人かの常連が、ソーセキ氏はまたくるのか、とマスターに
2024年10月27日 06:56
【猫の喫茶店】 マタタビ市はすっかりハロウィンの気配である。 街のいたるところにカボチャのランタンが灯され、コウモリのモビールが飾られている。ドクロやゾンビが街を埋め尽くし、若い猫たちが楽しそうにしている。 正直マスターにはハロウィンのなにがいいのかよくわからない。ガヤガヤうるさいし、本来の子供たちが楽しむイベントという趣旨から外れている気がする。とにかくマスターにとってハロウィンは「よ
2024年10月20日 06:52
【猫の喫茶店】 猫世界はずいぶんと寒くなった。マスターが朝「灰猫」の鍵を開けると、店内は冷え切っていて、おもわずくしゃみが出た。 風邪をひかないように気をつけなきゃな……とマスターは自戒しつつ、営業の準備を始めた。天気予報によるときょうは一日冷えるらしい。きっとアツアツの紅茶がいっぱい出るだろう。常連なら裏メニューの「ホットのミルクセーキ」を注文するかもしれない。これはプリンになる寸前を飲
2024年10月13日 06:49
【猫の喫茶店】 喫茶「灰猫」は出版社のビルの日陰にある。出版社は子供の読む絵本から漫画雑誌から高価な学術書まで、たくさんの本を毎日作って売っている有名で大きな出版社だ。 だから喫茶「灰猫」には出版社に原稿の持ち込みに来た漫画家の卵が溜まっていたり、小説家が原稿を書くという名目でケーキを食べていたり、本を出す有名な学者が編集者と打ち合わせをしていたりする。 さて、きょうは編集者の茶虎の猫
2024年10月6日 06:31
【猫の喫茶店】 たまには喫茶「灰猫」のマスターも休まねばならぬ。 ある日、客が途切れた間に、マスターは近くにできたインド料理店「タージ・ミャハル」に行ってみることにした。評判がよくてお客がひっきりなしに入っている店だが、そろそろランチ営業のラストオーダーらしく、お客は主に吐き出される一方だ。 インド料理店に入ってみると、さわやかなスパイスの香りが鼻をくすぐり、壁に貼られた極彩色のタージ・
2024年9月29日 06:28
【猫の喫茶店】 喫茶「灰猫」のマスターは珍しくにんまりしていた。 そう、ずっと欲しかったエスプレッソマシンを手に入れたのだ。 なぜずっと欲しかったのかというと、喫茶「灰猫」のマスターは昔イタリニャに旅行して、本場のエスプレッソを飲んだのであるが、それがなかなかおいしくて忘れられなかったのである。 圧力をかけて抽出するコーヒーは、試しに飲んでみるとキリッと濃い。イタリニャの喫茶店で教わっ
2024年9月22日 06:21
【猫の喫茶店】 きょうは「ショートケーキの日」だ。 毎月22日はショートケーキの日である。なぜならカレンダーを見ると上に15、すなわちイチゴが乗っかっているからだ。 喫茶「灰猫」ではショートケーキの日に、ケーキやパイを全て割引して提供している。マスターのユーモア……なのだが、これを狙ってケーキを食べにくるお客さんが少なくないので、ちょっと店の経済を圧迫している。 マスターの手作りするケ
2024年9月15日 06:32
【猫の喫茶店】 マタタビ市はすっかり秋の風情だ。 ちょっとした街路樹の根本なんかで、鈴虫やコオロギが鳴いている。秋っぽい風も吹き、空は明らかに夏のそれとは違う雲が浮かんでいる。日が暮れるのも早くなった。 そんな中、喫茶「灰猫」のマスターは、お菓子を試作していた。マタタビ市のはずれにある農園の直売所で、リンゴや洋ナシやサツマイモやカボチャをどっさり買い込み、それをお菓子にしてメニューに加え
2024年9月8日 06:40
【猫の喫茶店】 きょうはマタタビ中央通りにある「十二支入らなくてよかった神社」の秋祭りの日である。 この神社は、猫が十二支に所属せずに済み、12年に1回の当番をやらないで済んだことを記念する神社である。猫的にはそれはすごくすごくめでたいことだ。 まあそのかわり猫族は招き猫なるキャラクターにされ、金運だ千客万来だときわめて世俗的なご利益を求められているのだが。 お祭りでは大きな山車が何