マガジンのカバー画像

ヘドロの創作

49
フィクションの創作です。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
ヘドロの創作 2024/8/4

ヘドロの創作 2024/8/4

 (承前)
 猫に近い姿をした魔族は、キジ太郎一行をなにやら薄暗い森のなかに案内した。魔族は、チャチビと同じく、しっぽの先だけが蛇のような形をしていて、どうやらこの形質を持った魔族はエリート魔族であるようだった。
 ミケ子がしきりにキョロキョロして怯えている。キジ太郎は「大丈夫だよ」と言って手を握ろうとしたが、鋭い爪で反撃されてしまった。
 さきほどからミケ子は鼻筋にシワをよせて、ずっと「フゥー…

もっとみる
ヘドロの創作 2025/3/2

ヘドロの創作 2025/3/2

 【猫の喫茶店(承前)】

 マスターこと灰猫のヨシムネは人間の家でぐうたらして、すっかり風邪がよくなった。
 シロップを飲まされたりキャットフードに薬をかけられたりしたものの、まあそれで治るならいいか……と思っていたし、人間の家はあったかいし、何一つ不満はなかった。猫は人間が思うよりずっと賢いのである。
 こたつに入ってぬくぬく過ごすのは快適だった。猫世界はまだ寒い。体調を万全にしてから帰ろう。

もっとみる
ヘドロの創作 2025/2/23

ヘドロの創作 2025/2/23

 【猫の喫茶店】

 喫茶「灰猫」のマスターは鼻風邪を引いた。しじゅうグスグス鼻を鳴らし、しょっちゅうくしゃみをし、目やにが出て、「ああこれはまずいな」と自分でも思った。
 猫世界の猫の医者よりなら、人間世界の獣医のほうがよっぽど腕が立つのだが、猫としては人間世界の獣医というのは基本的に行きたくないところである。猫は獣医が嫌いだ。無遠慮に触るし注射するし、薬を飲ませてくる。
 しかしこの鼻のグスグ

もっとみる
ヘドロの創作 2025/2/16

ヘドロの創作 2025/2/16

 【猫の喫茶店】

 ここで、この物語の大事な、しかしいままでずっと黙ってきた事実を語ろうと思う。
 この「猫の喫茶店」こと喫茶「灰猫」のマスターは、人間世界において飼い猫である。子猫のころ人間の家にやってきて、去勢され、首輪をつけられ、猫可愛がりされている猫である。
 子猫のころのマスターは、こまっしゃくれた顔をした子猫で、グレーの毛はぱやぱやとしており、人間がくれたボールを楽しくドツキ回す子猫

もっとみる
ヘドロの創作 2025/2/9

ヘドロの創作 2025/2/9

 【猫の喫茶店】

 エノコロ小路にある名画座に、インド映画がかかるよ、と名画座のもぎりのお姉さんがコーヒーを飲みつつ、マスターに教えてくれた。
 インド映画、と簡単にいうが、インドの映画産業というのはスケールが大きく、制作された地方によって、ハートウォーミングな現代ものだったり、神話に基づいた激しいアクションものだったり、作風がぜんぜん違うらしい。
 今回名画座にかかるのは、過去何度も世界的大ヒ

もっとみる
ヘドロの創作 2025/2/2

ヘドロの創作 2025/2/2

 【猫の喫茶店】

 マタタビ市も節分である。エノコロ小路商店街では豆まきが行われていた。
 毎年恒例のこの豆まきは猫世界の伝統に則って行われ、福は猫本人たちが招くので「鬼は外」しか言わないことが知られている。
 豆まきに使うのは大豆で、猫世界のスーパーに節分の時期にいくと10粒程度を一つのパックに入れたものをいくつか包装したタイプの、片付けが簡単な豆が売られている。
 マスターたちは近くに住んで

もっとみる
ヘドロの創作 2025/1/26

ヘドロの創作 2025/1/26

 【猫の喫茶店】

 ある日、マスターがぼんやりとテレビを観ていると、子猫のころマスターが好きだったテレビアニメ「大きめロボ・ニャンダム」の続編映画が公開される、という話が流れてきた。
 マスターはおもわず、誰もいないのに「ほう」と食いついてしまった。
 どうやら最新作がテレビで放送される前に、テレビで放送される第3話までの内容を映画に仕立てたもののようだ。「大きめロボ・ニャンダム」は第1作しか知

もっとみる
ヘドロの創作 2025/1/19

ヘドロの創作 2025/1/19

 【猫の喫茶店】

 マタタビ市はまたしても大寒波に襲われていた。
 もしかして冬のあいだずっとこうなのだろうか、とマスターは思う。天気予報によれば大寒を過ぎればいくらかマシになる……という話なのだが、その大寒が果てしなく遠い。いや明日なのだけれど。
 マスターは喫茶「灰猫」のまわりに積もった雪を片付けつつ、ひとつため息をついた。寒さと雪、いいかげんにせえよ。まあそこは砂漠にルーツのある猫だから仕

もっとみる
ヘドロの創作 2025/1/12

ヘドロの創作 2025/1/12

 【猫の喫茶店】

 マタタビ市は10年に一度の大寒波が襲来し、暮らしていたり働いていたりする猫はみんなモッコモコに着膨れていた。寒い、とにかく寒い。雪もドンドコ降る。
 本当に、こんなに寒いのはマスターの人生、いや猫生では初めてだ。道路はツルッツルのアイスバーンになっている。昔の朝ドラの「ブラックバーン校長」というのを思い出さずにはいられない。
 それはエノコロ小路もそうだ。ある日マスターはいつ

もっとみる
ヘドロの創作 2025/1/5

ヘドロの創作 2025/1/5

 【猫の喫茶店】

 正月が明けて、マタタビ市はいつもの雰囲気を取り戻したように見えた。喫茶「灰猫」のマスターも、そろそろ店を開けなきゃな、面倒だなあ、と思っていた、猫なので。
 正月特番の波がおさまるまでぼーっとテレビを観ていたかったが、年末店のドアに「新年は6日から営業します」と貼り紙をしてしまったので、もう明日から営業を始めねばならない。面倒だが約束は約束だ。
 正月休みも最終日である、そろ

もっとみる
ヘドロの創作 2024/12/29

ヘドロの創作 2024/12/29

 【猫の喫茶店】

 エノコロ小路もすっかり歳末ムードである。街にはレコード屋の鍵しっぽの黒猫が選んだ指揮と演奏の第九が流れ、浮かれた印象である。
 テレビも特番ばかりになり、街はクリスマスを過ぎてすっかり年末! という感じである。
 マスターも昨晩、明日はやっと仕事納めだ……と思いながら布団に潜り込んだ。そして商店街の福引きで、一等のハワイ旅行を引き当てる夢をみた。
 夢のなかでマスターは、寒い

もっとみる
ヘドロの創作 2024/12/22

ヘドロの創作 2024/12/22

 【猫の喫茶店】

 猫世界もクリスマス目前である。
 マスターも子猫時代の、クリスマスの楽しい思い出というのはいくつかある。たとえばモノゴコロついて、なにかゲームやパソコンなどすごいものが欲しいな、と思っていたらプレゼントはマグカップで、たいへん落胆したこととか。
 なぜこれが楽しい思い出なのかは後で述べるとして、マタタビ市はクリスマスですっかり浮かれていた。サンタクロースの仮装をした猫やらカッ

もっとみる
ヘドロの創作 2024/12/15

ヘドロの創作 2024/12/15

 【猫の喫茶店】

 きょうは猫世界大河ドラマ「経典とネズミ」の最終回の日だ。
 この「猫世界大河ドラマ」というのは、人間がえねっちけーなる放送局の番組として見ている「大河ドラマ」というものを猫世界で真似したもので、基本的に歴史に題材をとったドラマを1年間放送するものだ。
 しかし脚本家もキャストもスタッフも全員猫であるため毎年猫のお腹のように少々中だるみするのがお約束のドラマ枠である。猫なので。

もっとみる
ヘドロの創作 2024/12/8

ヘドロの創作 2024/12/8

 【猫の喫茶店】

 マタタビ市はすっかり冬になってきた。冷たい空っ風がぴーぷー吹き付ける。喫茶「灰猫」を取り囲んでいるつたが風でぴろぴろ揺れる。すっかり冬だ、なんというかとてもとても気が滅入るなあ、と「灰猫」のマスターは思った。
 これでは「タージ・ミャハル」の大将はさぞかし参っているのだろうな、と様子を見にいくと、フリースやらダウンやらでモコモコに着膨れながら仕事をしていた。
 マスターが「灰

もっとみる