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ヘドロの創作 2024/12/22

 【猫の喫茶店】

 猫世界もクリスマス目前である。
 マスターも子猫時代の、クリスマスの楽しい思い出というのはいくつかある。たとえばモノゴコロついて、なにかゲームやパソコンなどすごいものが欲しいな、と思っていたらプレゼントはマグカップで、たいへん落胆したこととか。
 なぜこれが楽しい思い出なのかは後で述べるとして、マタタビ市はクリスマスですっかり浮かれていた。サンタクロースの仮装をした猫やらカップルやら、とにかく浮かれている。
 面倒で先送りになっていたイルミネーションも、どうにか商店会長の独断でつけて、クリスマスの夜にチカチカと輝いている。
 喫茶「灰猫」は特にお客さんが増えるでもなく、いつも通り淡々と、というかむしろヒマだ。
 マスターは戸棚から、クリスマスにもらったマグカップを取り出した。子供用なのでちょっと小さい。それに、温めるばかりで提供する前に煮詰まってしまいそうなコーヒーを注ぐ。こくこく……とコーヒーを飲み、「ああ、おいしい」とマスターは表情をゆるめた。
 このマグカップは、マスターがコーヒーを好きになるきっかけであった。クリスマスプレゼントがマグカップで落胆するマスターに、マスターの家族は「コーヒー豆を焙煎して、挽いて、コーヒーを淹れてごらん」と言ったのだ。
 それがあっていまのマスターがいる。
 マスターは、可愛らしいマグカップを持っている姿が窓に映って、ちょっとだけ苦笑した。
 クリスマスかあ……。
 マスターも猫なのでクリスマスは「人間にチキンがもらえてケーキのクリームをなめさせてもらえる」くらいの認識である。クリスマスが本来どんな意味のある行事なのか、知らないし興味もない。
 それでもクリスマスが好きだ。
 マスターがコーヒーのおいしさを知ったのはクリスマスだ。だからクリスマスが好きだ。
 マスターはマグカップを洗ってしまう。そこにタージ・ミャハルの大将が現れた。

「さむいねー」

「きょうは冷えますね」

「くりすます? たのしそうでいいねー。いんどはくりすますやらないからねー。こーひーください」

「はい」

 マスターは笑顔でコーヒーをカップにそそいだ。

「オヨ? ゆきがふってきたねー」

「今シーズンは寒そうですね」

「ゆき、つもるかね」

「積もるでしょうねえ」

 マスターはのんびりと、子猫であったころを思い出していた。なにも考えなくても楽しかった子猫のころを。
 きょうは久々に人間の家に帰ろう。猫が人間の家から猫世界に出た瞬間、人間の世界の時間は停まる。だからいま人間の家に帰れば、前回人間の家を出たときと同じ状態の人間の家に戻れる。
 猫世界は楽しいが、人間の家にしかないたのしいこと、というのは間違いなくある。マスターは喫茶店の営業が終わったあと、人間の家につながるドアをぎいと開けた。
 その瞬間、マスターは四足歩行となり、洋服は消滅し、マスターは1匹のグレーの猫となった。ナァーンと大きなあくびをして、ストーブの前に座りこんだ。

「カリカリ食べるか?」

「ナオー」

ドヤ……。


 ◇◇◇◇
  おまけ

 聡太くんは父氏が好きだ、一方的に父氏が好きだ。父氏は聡太くんにチョッカイを出したり大きな声を出したりしないので父氏が好きだ。
 母氏の同僚の父親は、よかれと思って猫にチョッカイを出すので猫に嫌われているらしい。猫はうるさいものが嫌いだ、「にんげん、しずかにしろ」という圧をかけてくる。

 それにしても今朝は寝坊してしまった。起きたらもう6時だった。起きてきたら聡太くんはすでにご飯をもらってテーブルに伸びていた。
 日曜日の朝、えねっちけーをつけると時代劇をやっていて、きょうは雲霧仁左衛門の最終回であった。べつにちゃんと見ているわけではないが時代劇も隅っこに追いやられたものだなあと思う。
 なのでお正月の暴れん坊将軍の最新作にめちゃめちゃ期待している。上様とて構わぬ、斬れ斬れ!!!!

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