ヘドロの創作 2024/12/8
【猫の喫茶店】
マタタビ市はすっかり冬になってきた。冷たい空っ風がぴーぷー吹き付ける。喫茶「灰猫」を取り囲んでいるつたが風でぴろぴろ揺れる。すっかり冬だ、なんというかとてもとても気が滅入るなあ、と「灰猫」のマスターは思った。
これでは「タージ・ミャハル」の大将はさぞかし参っているのだろうな、と様子を見にいくと、フリースやらダウンやらでモコモコに着膨れながら仕事をしていた。
マスターが「灰猫」に戻ってくると、窓の外に雪がちらつき始めた。きれいだが寒いのでノーサンキューだなあ……と思っていると、近所の子猫たちが出てきてキャッキャキャッキャと楽しそうにしている。
次の日、マスターが「灰猫」で仕事を始めよう、とやってくると、きのう雪がちらついていたアーケードの切れたところに、小さな雪だるまが置かれていた。若干ながら積もったらしい。子猫は難しいことを考えなくてよくていいなあ。マスターはそんなことを考えつつ、「灰猫」のドアを開けた。
マスターが「灰猫」のドアをくぐり、ファンヒーターの電源を入れると、なにやらエラーコードが出た。ファンヒーターの横を覗き込むと、エラーコードの解説が書いてあったが、どうにも容量を得ない。
うーんと。このファンヒーターもだいぶ古いし、思い切って買い換えるか。マスターは壊れたファンヒーターをバックヤードに運び、家電量販店に急いだ。
師走である。猫々が忙しなく行き交っている。マタタビタウンはすっかり冬である。焼き芋ならぬ焼き魚の屋台の匂いにフラフラ行きそうになったり、クリスマスツリーのキラキラ光るオーナメントを破壊したくなったりしながら、なんとか家電量販店「ニャマダ電機」にたどり着いた。
家電量販店は家族連れでごった返していた。母猫に連れられた子猫たちが、あのおもちゃがいい、とか、このおもちゃにする、とか、楽しそうにクリスマスに欲しいものを選んでいる。見ているだけで楽しそうだが、ベテラン母さん猫は「それは高いからこっちにしなさい」と強い調子である。
猫のクリスマスのサンタクロースはプレゼントを配らない。猫だからである。その代わり讃美歌やそのほかのクリスマスソングに合わせて踊る。だから猫はクリスマスを踊るものだと思っている。
楽しそうだな。
マスターは買い物にきている若い家族を見て思わずニッコリ顔になってしまう。いいなあ。自分にもこういう若い時代があった。子猫のころはニャンテンドーのゲームやら分厚い本やら、いろいろなものを母猫に買ってもらった。
そうだな。
クリスマスに自分へのプレゼントを買ってもいいかもしれないな。マスターはチョッキンした猫なので、家族は人間の家の人間の家族だけだが、人間の家族はせいぜいチキンぐらいしかくれないので、猫世界で自分のためになにか買うのもいいのではないだろうか。
なにを買おうかワクワクして「灰猫」に戻ったマスターは、欲しいものの前にファンヒーターを買わねばならなかったことを思い出して、またニャマダ電機に戻ったのだった。猫なので。
◇◇◇◇
おまけ
すっかり冬になってしまった。寒すぎて震える。雪よどうか積もってくれるな、とばかり思う。そして見事に寝坊して起きたらもう6時をすぎていたのだった。
きのう聡太くんは茶の間で待機せず、まっすぐ母氏と2階に向かった。寒かったから茶の間にいさせるのはかわいそうではあるのだが、どんどん甘やかされて増長するのではあるまいか。
なんでも用足しに起きると聡太くんも起きて「わーい!」とやるそうなのだが、「寝るよ」と言うと寝るらしい。言葉が通じている。恐ろしや。
聡太くんは本当に人間に甘えるのが上手い。これでは甘えん坊将軍ではないか。羨ましい。