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ヘドロの創作 2025/1/19
【猫の喫茶店】
マタタビ市はまたしても大寒波に襲われていた。
もしかして冬のあいだずっとこうなのだろうか、とマスターは思う。天気予報によれば大寒を過ぎればいくらかマシになる……という話なのだが、その大寒が果てしなく遠い。いや明日なのだけれど。
マスターは喫茶「灰猫」のまわりに積もった雪を片付けつつ、ひとつため息をついた。寒さと雪、いいかげんにせえよ。まあそこは砂漠にルーツのある猫だから仕方がない。
ひたすら憂鬱な冬と雪である、どんなに素敵な雪を歌った歌ができても好きになれない。
そんなある日、タージ・ミャハルの大将が、鼻歌をふんふん歌いながら雪を片付けているのが目に入った。なるほど、インド出身のタージ・ミャハルの大将には楽しいものなのかもしれない。まあインドというのは大きな国なので、北に行けば寒いそうだが……。
タージ・ミャハルの大将が楽しそうに雪を片付けているのを見たあと、ふと通りをみるとメザシ第一小学校の子供たちが楽しそうに、雪の積もっていないところにできた霜柱を粉砕しながら歩いているのが目に入った。
そうか、子猫にとっても冬はたのしいものなのか。
マスターは子猫のころを思い出そうとしたものの、猫の記憶力は2年だそうなので、擬人化された状態でもあまり思い出せなかった。歳をとったなあとマスターは苦笑する。
寒いなか、店内の石油ストーブとエアコンの暖房をつけて店を開ける。寒いのでお客さんはほとんど来ない。
きっとみんなコタツで丸くなっているのだ。マスターは暇を持て余していたが、客がこないならコーヒー豆を焙煎するのも無駄になってしまうし、どうしたものだろう、と天井を見る。古風な板の天井だ。
ふすん、と鼻が鳴る。
「こにちはー。さむいねー」
タージ・ミャハルの大将が現れた。いつも通りフレンチトーストとミルクセーキをご所望である。作って出すとたいそう喜ばれた。
「ふゆ、やばいねー。かぜひかないようにきをつけて」
「ありがとうございます」
タージ・ミャハルの大将は夜営業の仕込みをするべく帰っていった。そうだな、カレーも悪くない。マスターは夜、店に誰もこないのでタージ・ミャハルにカレーを食べにいった。熱くて辛くてあったまりつつ、ふと店内のテレビを見上げると、猿族の様子が映った。
猿族は雪が降るなか露天風呂を楽しんでいた。うらやましいけれど毛がペショペショになるな。露天じゃなくていいのよ。
テレビを見上げていたタージ・ミャハルの大将がつぶやいた。
「これ、そとでふろにはいって、さむくないのか」
「さあ……毛のなかのほうまでは濡れないんじゃないです?」
「そうか……おんせん……」
マスターは、「温泉旅行に行きたいなあ」と思ったが、旅行に行くのは喫茶「灰猫を」を始めたときに諦めた。いいなあ、温泉。浴槽に入らないまでも湯船のフタのうえで寝転がるだけで充分気持ちいいのではないか。
帰ったらあっつい風呂を沸かそう。それこそフタの上で満足できるくらいのあっつい風呂を。
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◇◇◇◇
おまけ
聡太くんが断固として、サプリメントのかかったパウチを拒否する。「ぼくこれいらない」というので顔の前に差し出すと「いらないってば」という顔でザカザカして、それでも差し出すと「いやだ!!!! たべない!!!!」と断固拒否されてしまう。
サプリメントは1日ぶんでおよそ100円なので、100円を毎日ゴミにしているわけで、それはもったいないのできょうから休むことにした。
おいしく食べる、というのが肝心である。断固拒否されるものを出しても虚しいのである。
まあそれでお腹の調子を悪くするようなら少し考えねばならないわけだが。
それからついでにもうひとネタ。きのうきょうとベラボーに寒かった。きのうの最低気温はマイナス14度だったらしい。早く冬よ終われ……。