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ヘドロの創作 2025/2/23

 【猫の喫茶店】

 喫茶「灰猫」のマスターは鼻風邪を引いた。しじゅうグスグス鼻を鳴らし、しょっちゅうくしゃみをし、目やにが出て、「ああこれはまずいな」と自分でも思った。
 猫世界の猫の医者よりなら、人間世界の獣医のほうがよっぽど腕が立つのだが、猫としては人間世界の獣医というのは基本的に行きたくないところである。猫は獣医が嫌いだ。無遠慮に触るし注射するし、薬を飲ませてくる。
 しかしこの鼻のグスグスぶりでは喫茶店の仕事は務まらない。常連のみんなに「人間世界で休んできなよ」「風邪は怖いよ」などと声をかけられ、仕方なくマスターは猫世界出口へとぼとぼと向かった。

 猫世界の出口は、いつも猫でごった返している。世の中にはきちんと猫世界と人間世界を往復して暮らしている猫もいるのだ。
 マスターのように猫世界にずっといるのは少数派である。マスターは猫世界出口を出て、人間の家の押し入れから人間世界に戻ってきた。

 人間世界においてマスターは「ヨシムネ」と呼ばれている。人間の言葉ではっきり知覚できるのは自分の名前、「ゴハン」「ちゅーる」「ダッコ」くらいだ。
 すぐ人間に捕まって、「ヨシムネ、●●●●」と話しかけられた。そのままキャリーバッグに入れられて、獣医のところに連れていかれた。
 獣医でマスターはレントゲンを撮るなり体を調べられ、目やにを拭かれ、注射され、薬が出た。
 その次の日も獣医に連れていかれた。また注射され、顔を拭かれ、マスターは「解せぬ」と思った。

「ヨシムネ、●●●●」

 どうやら可愛がられているらしい。
 注射されたせいか鼻が通るようになってきた。そして腹が減ってきた。
 マスターは人間の家でちゅーるをうまうまと食べながら、コーヒーの味を夢想した。コーヒーが飲みたい。猫世界で飲んでるやつ。

 ある朝、人間がコーヒーを沸かしたので、匂いだけでもとマグカップに近寄る。すうーっと匂いをかいでみたら、それは猫からしたら小便の匂いだった。
 思わず手が砂をかく動きをする。人間世界のコーヒー、こんな匂いなのか。猫世界で毎日淹れていたものとぜんぜん違う。でもそれは猫世界だからそう感じていただけで、もしかしたらコーヒーというのはそもそもそういう匂いなのかもしれない。

 マスターは与えられたキャットフードをもぐもぐと食べながら、人間の様子をうかがった。
 大きいのと丸いのと小さいのと、人間は猫世界の猫のように後ろ足で自由に歩き回り、自由に過ごしている。
 人間を見ていると、なんというか戯画的だなあ、とマスターは思う。漫画みたいな動きをしている。
 人間の世の中で少し暮らしてみようかな、とマスターは人間を見つめる。少なくともここは働く必要はない。ぐうたらしていても悪いことがない。
 人間の様子を見て暮らすのも悪くない。
 マスターは当分人間世界で暮らそうと決めた。

「よのかおをみわすれたか!!」


 ◇◇◇◇
  おまけ

 きのうちょっと知り合いと話す機会があった。知り合いは猫があまり好きでないらしく、何度猫はトイレを勝手に覚えてちゃんと用を足すのだ、と説明しても信じてもらえない。
 きのうはその信じてもらえない理由がわかった。知り合いが子供のころ、知り合いの家で飼われていた猫が布団に入ってきて粗相したのだ、という。
 それはどう考えても猫らしからぬ行動である。それは猫が膀胱炎だったのではないだろうかと思った。それともずいぶん昔、昭和の話だそうだからいまのような清潔な猫トイレというものがなかったのかもしれない。
 我が家では聡太くんが粗相したところを見たことはないし、たまちゃんも膀胱炎になったときしか粗相しなかった。やっぱり知り合いの家の猫は膀胱炎かなにかだったとしか考えられない。
 その知り合いは猫にいいイメージがないらしい。まあしょうがない。猫のよさは分かる人だけ分かればいいのだ。

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