ヘドロの創作 2024/8/4
(承前)
猫に近い姿をした魔族は、キジ太郎一行をなにやら薄暗い森のなかに案内した。魔族は、チャチビと同じく、しっぽの先だけが蛇のような形をしていて、どうやらこの形質を持った魔族はエリート魔族であるようだった。
ミケ子がしきりにキョロキョロして怯えている。キジ太郎は「大丈夫だよ」と言って手を握ろうとしたが、鋭い爪で反撃されてしまった。
さきほどからミケ子は鼻筋にシワをよせて、ずっと「フゥー……」と怒りと怯えを露わにしていた。クロ美がぽんと肩を叩いて、精神安定の魔法をかけたら、ミケ子はすんと鼻を鳴らした。
「こちらです」
それは唐突に現れた古城であった。
「猫族は我々魔族と和平を結びたいとお聞きしました。その交渉に、魔族も応じようと思います」
なんと。魔族の上層部にも情報がいっていたようである。ここまでの旅路は無駄ではなかったのだ。
古城の中に通された。猫には仕組みのわからない、美しい灯りや、華麗なモザイクタイルの床、その上に敷かれた赤いじゅうたん。なにもかもが豪華絢爛で、猫の王の城にも匹敵するのではなかろうか。
通されたのは議会でも開くような、立派な椅子がたくさん置かれた部屋だった。椅子にかけるように言われ、フカフカの椅子にかける。気持ちよくなって眠たくなったが寝てはいけない。
向こうから魔族の貴族と思しき、立派な身なりの魔族がぞろぞろと入ってきて、椅子に次々かけていく。
長と思われる立派な身なりの魔族が笑った。
「初めまして。私が議長です」
「初めまして……キジ太郎と申します。こちらは仲間の、クロ美とシロベエとシャム蔵、それから魔族……の人に預けられた猫のミケ子です」
「ああ……あの実験に抗ったという。資料は読んでいます」
(単刀直入に言う。魔族は猫になにを望む。金か? 名声か? 権力か?)
「猫族と我々では、そもそも欲しいものが違うのだと思います」
「欲しいものが違う……どういうこった?」
議長は黒豆のような鼻を光らせた。
「魔族は猫族のように飲み食いする必要もなければ、金や権力にも興味がない。ただただ、知識が欲しいのです」
「知識……ですか」
ええ、と議長は頷いた。
「猫の子を改造し続けたのも、データをとるためです。どう改造すれば強い魔族になるか、どう改造すれば賢い魔族になるか……その実験も、もうあらかたやり尽くしました。猫族と、知識のやり取りができれば、それで満足です」
「それなら、王も飲んでくださるのでは?」
クロ美がキジ太郎をちらりと見る。
「……僕らは王の名代などではありません。僕らが決定することでないのです。いちど王のところに持ち帰っていいでしょうか」
「もちろんです」
議長は頷いた。
「ところで、僕たちが保護した魔族の子……茶トラの子はどこにいるのですか?」
「ああ、あの子ですか? 魔族が猫に育てられるとどうなるか、というデータを取ったあと、魔族の高等学校に入りましたが、何度も脱走するので退学になって……いまは南の荘園に幽閉されていますよ」
「よし。南に向かって王に話を伝える。そしてチャチビに会いに行く!」
キジ太郎は力強くそう言った。(つづく)
◇◇◇◇
おまけ
聡太くんのキャットフードを増やしてから、父氏や母氏がトイレを片付けるタイミングが多くて、なかなかその立派なUNKOを拝めていなかったのだが、きのうトイレを片付けてその立派なUNKOを拝んだ。すばらしく立派だった。
聡太くんはキャットフードが増えたからか水を飲む量も増えて、毎日コペコペ水を飲んでいる。まさか急にご飯を増やして糖尿になったか? と思ったが、もし急にご飯を増やしてそういう病気になるなら獣医さんも「ちょっとずつ増やして」などとおっしゃるだろう。なにも言われなかったのだから大丈夫なはずだ。
というか水を飲むのはいいことなのだ。コペコペ飲むのはきっと健康の証だ。いっぱい食べていっぱい飲んで、元気でいてほしい。