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ヘドロの創作 2025/2/9

 【猫の喫茶店】

 エノコロ小路にある名画座に、インド映画がかかるよ、と名画座のもぎりのお姉さんがコーヒーを飲みつつ、マスターに教えてくれた。
 インド映画、と簡単にいうが、インドの映画産業というのはスケールが大きく、制作された地方によって、ハートウォーミングな現代ものだったり、神話に基づいた激しいアクションものだったり、作風がぜんぜん違うらしい。
 今回名画座にかかるのは、過去何度も世界的大ヒットを飛ばした大人気のアクション映画監督・ニャージャマウリ監督の、「ニャールニャールニャール」という映画だ。試写を観たもぎりのお姉さんによれば3時間が一瞬で終わる面白さだとか。

 そんな話をマスターともぎりのお姉さんが話していると、フレンチトーストをもぐもぐと食べていたタージ・ミャハルの大将がなにやらにっと企んでいる顔をした。

「わたし、むかしえいがはいゆうだったよ」

「!?」

「そんでニャールニャールニャールでたよ。ちょっとだけりょうりにんのやくででたよ。それでりょうりにんになったよ」

 タージ・ミャハルの大将の悪い顔に、もぎりのお姉さんもマスターも「うっそだーい」という気持ちだが、それは映画を見てみないことにはわからない。
 というわけで名画座にインド映画「ニャールニャールニャール」のかかる初日、マスターは店のドアに「臨時休業」と貼り紙をした。猫世界ではみんな自分を優先するので、わりとこういうのが許されるのであった。

 名画座は思ったより人が入っていた、というか端的に言って混雑していた。
 この名画座が混雑するというのはなかなかない。ふだんならニッチな作品を上映しているので、よほどの映画マニアしか来ないのだが、「ニャールニャールニャール」はいま猫世界じゅうで「ニャートゥをご存知か」というセリフとキレキレのダンスが話題になっている。マタタビ市で「ニャールニャールニャール」を観られるのはこの小さな名画座だけだ。そりゃ混雑する。

 上映が始まった。「サイコ・ゴアニャン」や「お風呂場シャーク」といった、ニッチすぎる映画の予告編のあと、「ニャールニャールニャール」本編が始まった。マスターは必死で、タージ・ミャハルの大将を探す。いた! 画面のわりと目立つところで料理をこしらえて、主役級のキャラクターに給仕している。
 あっ、踊り出したぞ。大将も踊っている。なかなか楽しそうだ。大将のキレのいい動きをしばし眺めてのち、ストーリーはどんどん進んでゆき、噂の「ニャートゥをご存知か」からのダンス、腕をやられたやつが足をやられたやつを肩車して戦うシーンなど、どんどん激しくなってゆく。
 最終的に悪いやつがやっつけられ、めでたしめでたし! で終わり、マスターはとてもとても満足したのであった。
 そのままタージ・ミャハルにカレーを食べにいくというインド欲張りセットをすることにして、マスターはカレーをもぐもぐしつつ、大将に面白かった、と伝えた。

「なんで俳優なんていう素敵なお仕事、やめちゃったんです?」

「えいがのなかでりょうりにんやったらりょうりがたのしくなっちゃってねー。それにえいがにでてるといえにしらないひといっぱいくるしねー」

 そうなのか。インドの個猫情報の取り扱い、恐るべし。

幸せのピンクの毛布。


 ◇◇◇◇
  おまけ

 きのう聡太くんはごっそりと昼ごはんを残した。眠かったらしい。そして夕方にはニャーニャー騒いで「はやくくわせろ!!!!」という顔をしていた。
 どうして猫は「たべないとあとでおなかがすく」という簡単なことがわからないのだろう。猫の知恵というのはどういうものなのだろうか。気になる。

「ねてもねてもねむいのよ……」


 きのうは父氏が録画した金曜ロードショーの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を観ていて、父氏にしてはずいぶん遅くまで起きていた。
 なのでいつものルーティーンなしで聡太くんは母氏の布団に潜入しに行った。たいへん大人しく寝ていたらしい。猫は不思議である。

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