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複雑性PTSD治療の最前線:解説と問題点|STAIRナラティブセラピー

複雑性PTSDの治療として用いられているSTAIRナラティブセラピーについて解説します。この記事は国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)のWebサイトを参考にしています。

複雑性PTSDについてはソレアのnoteをご覧ください。

複雑性PTSDと愛着障害(虐待)は同じですか?|ほぼ同じですが原因が違うことがあります

※今回の記事はラジオでも視聴できます。テキストを見ながらどうぞ▼

※この記事は、ソレア質問箱【 https://solea.me/questions/ 】に来た質問を深掘りして回答したものです。心理相談などはソレア質問箱へどうぞ。

■STAIR ナラティブセラピー (*)

複雑性PTSD治療に用いられるSTAIR(ステア・ナラティブ・セラピー)は Skills Training in Affective & Interpersonal Regulation の略で、次の3つのトレーニングパッケージから構成される認知行動療法のひとつです。

  • ①感情調節トレーニング
    自分の感情に気づいて苦痛に耐え感情を調節するスキルを身につける

  • ②対人関係トレーニング
    自分の対人関係のクセ(スキーマ・パターン)に気づいて修正する。アサーティブな関わりができるようにする。

  • ③トラウマ記憶の処理
    トラウマを語っていく(ナラティブ)中で、フラッシュバックや悪夢、過剰な警戒心などのPTSD主症状を緩和させる

複雑性PTSDは通常のPTSDの症状にプラスする形で、自己形成に関しての3つの独自の症状がありました。A.感情制御の困難、B.否定的な自己概念、C.対人関係の障害がそれです。①と②のトレーニングはこの3つの問題に対応しているようです。残りの③は通常のPTSD症状に対応しています。

この心理療法は成人向けのもので米国で開発されました。集団でおこなったり、オンラインによる遠隔治療もできるそうです。

(*) Niwa M and Kato T et all, Skills Training in Affective and Interpersonal Regulation Narrative Therapy for Women with ICD-11 Complex PTSD Related to Childhood Abuse in Japan: A Pilot Study, 2022

■STAIRの問題点

PTSDに関しての新しい認知行動療法パッケージを検討するとき、それを使うときのリスクはないのかを常に検討していかなければなりません。なぜならトラウマ治療は細心の注意が必要で、それを怠ると新たなトラウマを作ってしまう可能性が大きいからです。STAIRを使うときも例外ではありません。

  • 認知行動療法は穴をこじあける外科的な治療。もっとマイルドな心理療法がいい場合もあろう。

認知行動療法は心理教育ともいいますが、トレーニングです。先生と生徒の上下関係が暗黙の了解としてあります。そのため先生にもよりますがトレーニングはきびしくなりがちです。STAIRにしても①と②は「トレーニング」と明記されているわけです。

トラウマのドアを開けるときは細心の注意が必要です。①と②をやりつつ、スキルを身につけつつ、③のセッションへ入っていくわけですが、この③をいつやるのか、どの状態でやるのか、相談者の自発的行動を促しつつ治療者はそのタイミングを待てるのか、さまざまな注意が必要でしょう。

トラウマの治療はたっぷりと時間をかけた③を行った後、①と②を隠し味でやるほうが良さそうな感じです。隠し味とは、それを行っているかどうか分からないくらいの少量を実行するということです。たとえでいうとホメオパシーのようなもんですね?。

  • トラウマは直面しないほうがいいときもある

精神科医の中井久夫先生は、トラウマに向き合わない選択肢も提示しています。下記のnoteをご覧ください。

トラウマに向き合うなんてできません|【回答】向き合う必要はありません。

愛着障害を例に考えます。

たとえば、実父・養父から性的虐待を受けていたとします。これは重篤なトラウマになります。しかし愛着障害のターゲットはそこではなく、実母による情緒的ネグレクトや心理的虐待が本丸なのです。父親の性的虐待を放置している母親側の問題が、愛着障害を引き起こしている原因なのです。つまり実父・養父からの性的虐待で複雑性PTSDを発症し、母親からの情緒的ネグレクトで愛着障害を発症しているわけです。

ですからこの場合は、父親からの性的虐待という重篤なトラウマよりも、母親からの情緒的ネグレクトを扱っていくことが重要になります。カウンセラーはここを見間違わないようにしていないといけません。複雑性PTSDのトラウマだけに目を奪われていないように。

性的虐待に向き合うなといっているわけではありません。それに向き合うことが大変ならば、あえてそれに向き合わなくても、愛着障害は回復するということです。その事実はあなたのこころの奥深くに封印したままでも愛着障害は回復することを示しています。

  • ナラティブセラピーとは

STAIRで扱うナラティブですが、認知行動療法のPE(持続的曝露療法:Prolonged Exposure)に近いものを感じます。つまりトラウマ事象を話すことに重心が置かれているやり方です。PEは精神科医によっては「治療者のいじめ」ともいう人もいるくらい、傷口に塩を塗るようなセラピーと評されることもあります。これではナラティブセラピーとは言えないでしょう。

虐待に関する治療者のさじ加減はどのくらいがいいのかを次のnoteに書いています。

虐待の証拠はマイルドに|愛着の治療には、トラウマ治療は封印するくらいがちょうど良い

わたしのカウンセリングは、愛着障害や複雑性PTSDのセラピーだけに限らず、この微妙にさじ加減していく「ナラティブ」が基本になっています。ナラティブとは何かに集中してそれを目指して話をしていくことではありません。

形が整っていない物語の断片を、少しずつ話していく、少しづつ物語の全容がほのかに見えてくる。そのくらいで物語は進行していきます。そのくらいがちょうどいいのです。これがナラティブセラピーです。STAIRで行っているのはナラティブセラピーというよりもPEに近いものでしょう。命名に偽りアリとは言いませんが、今後STAIRがナラティブセラピーに進展していくことを願っています。

以上より、STAIRの使用には十分な配慮が必要な段階であると感じます。これから多くの知見をためていくでしょう。トラウマ治療の選択肢のひとつにまで成長していくことを願ってやみません。

結論は、複雑性PTSDの治療は現段階では、従来どおり愛着障害の治療を援用しつつ進めていくのが良さそうです。

■まとめ

  • 複雑性PTSDの治療としてSTAIR(ステア・ナラティブ・セラピー)という成人向けの認知行動療法がある

  • STAIRは①感情調節トレーニング、②対人関係トレーニング、③トラウマ記憶の処理の三部構成

  • これらは複雑性PTSDの独自の症状である、A.感情制御の困難、B.否定的な自己概念、C.対人関係の障害に対応している

  • トラウマは直面しないほうがいいときもある。性的虐待の場合は、ターゲットを見誤りやすい。父親より母親。

  • STAIRはナラティブセラピーというよりも、PEに近いもの

  • 複雑性PTSDは愛着障害に準拠して治療すべき

□母子のもつれ|ラジオおやすみカフェ

今日のラジオおやすみカフェのテーマは…人間関係のもつれについて。詳細はラジオをお聴きください。

■他の助けを求めるのもいいでしょう

あなたが愛着の問題を抱えている場合は、自分の物語を十分に話せる臨床心理士などの専門家に相談するとよいでしょう。もし、いまのカウンセラーがいまいちと感じるのなら、別のカウンセラーを探しましょう。あなたにとって良いカウンセラーはあなたの一生の財産になります。あなたのカウンセリングがうまくいきますように。

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