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#逆噴射小説大賞2024
『ドゥヴァン・イン・ザ・シンク』
親父が庭に池を作った。小さな池だ。穴を掘ってビニールを這わせて石で丸く囲んだ。庭のカイヅカイブキは手入れされておらず枯れていてすかすかだ。裏には三階建の鍼灸院が建っていて陽は当たらない。親父が金魚を買ってきた。多分車で十分ほど行った所にあるホームセンターだろう。金魚を放す。のら猫が喰う。また金魚を放す。俺は金魚の気持ちになってみる。水面を見る。金魚の眼は横についているからはたして水面が見れるのか
もっとみるアオモリエンバーミング
お前の墓の前で傘を掲げていたよ。ただ、辛くて何度も片手でネクタイを締め直した。お前の墓碑銘に、知らない日本人の骨が入った墓、初夏の昼下がり。とても暗かった。喪服も墓も濡れて黒ずんでいた。
お前の息子は喚いて顔はグジャグジャで、カリーナも墓にしがみついていた。二人を慰めたかったが、お前を殺した手で二人に触れるのがひどく憚れた。苛立って泥濘を何度も踏み抜いていた。やがて葬儀は終わった。たぶん、遠く
5minutes before
「どこで間違えたんだろうな」
答えが欲しかったわけじゃない。ただ呟いただけ。
街で一番デカい病院の中の、暗く、狭い部屋。
どこかわからない。やつらから……いわゆるゾンビとでも言えばいいのか……生きてる人間に襲いかかり、食いつき、殺し、食いつかれた人間もやつらの仲間になって、数を増やして襲いかかってくるバケモノどもから逃げて逃げて逃げて、行き着いた先がここだった。
「ごめんな」
「いいよ」とい
カントリー・マアムが食い残せねえ
パソコンデスクに蟻が、集っていた。俺はしかめ面をしながら机の上のファンタをごくりと飲んで、いや、違うだろ、この場合ファンタは原因であって。予想は当たっていて、ほぐした葡萄の果肉のようなほろ苦い感触が俺の口の中を席巻した。果肉入りファンタってあったよなと思いながら俺は込み上げてくる胃液ごとごくりと飲み干した。この数日間で俺は嘔吐という生理現象に順応した。蟻だけじゃない、この家は色んな生き物との共生で
もっとみる墨黒屋敷の夜、からくり骨人形の夢
火付盗賊改として京正は、外道の手で燃やされた黒色の灰に沈んだ長屋を、毎晩の夢に出るほど見てきた。
だが墨黒屋敷だけは未知なる脅威であった。
いま、詰所に戻り、長谷川平蔵を前にしても、己が生きた人間のまま帰還できたのか、既に死に、生霊となり化けて出てしまったのか、ぼんやりとしてはっきりしない。
鈴虫は、静かに鳴いていた。
今夜は京正にとって、いちばん凍える夜だった。
「気ぶりの南蛮女に惑わさ
御座へと落つ #逆噴射小説大賞2024
淡い光に包まれた立方体が、濃紺の海中を下降していく。立方体の周りを、魚の眼と下半身を持つ女たちが取り囲んでいた。彼女らは側面に小さく開いた窓から中を覗き込んでは、下卑て不快な笑みを中の男たちに投げかけていた。
「深度1000を越えました。此処から先は文字通り、光届かぬ世界です」
カランはズレた眼鏡を直しつつ、努めて冷静な口調でもう一人の男に語りかけた。
「サミア殿、貴方の協力なくては『方舟』
おれたちは意外に脆い
洗面器をすっかり平らげて、人心地ついた。洗った上で残った水アカは、ちょうどよくカルシウム。消化吸収される樹脂に、胃と腸が蠕動して喜んでいる。
腹が膨れたから、上を向く。崩壊して骨組みだけの家の中から見上げる空は、電線が立ち並んでいた街並みの中にあった頃と、そう風情は変わらない。照りついた日差しの匂いが砂とともにやってくる。心地いい。
プラスチックは体内の細菌(よくは知らない)によって栄養にな