最近の記事

5minutes before

「どこで間違えたんだろうな」 答えが欲しかったわけじゃない。ただ呟いただけ。 街で一番デカい病院の中の、暗く、狭い部屋。 どこかわからない。やつらから……いわゆるゾンビとでも言えばいいのか……生きてる人間に襲いかかり、食いつき、殺し、食いつかれた人間もやつらの仲間になって、数を増やして襲いかかってくるバケモノどもから逃げて逃げて逃げて、行き着いた先がここだった。 「ごめんな」 「いいよ」という許しを期待したけど、そんなものは返ってこなかった。 謝罪の声の先にいる俺の妹は

    • 優しい世界の水泳コンクール

       明日は水泳コンクールがあるから、私たちはプールの底に沈んでいる。  全身を覆う、ひんやりとした冷たい感触。  緩やかにはためくセーラ服のスカート。  ゆらゆらと揺れている屈折した光。  時折息を吐くと、空気の泡がふわふわと水の中を昇っていって、とても幻想的だ。  水は優しいから、人が溺れないように空気をくれる。  でも、人を浮かべてくれるほど優しくはないから、クラス投票で選ばれた私たちがプールに入って、水の中に私たちの優しさを染み込ませている。  私たち——五人。  25メ

      • O・D

        「一番指名の多い女はね、イク演技が上手い女なの。だからあんたもすぐ指名入ると思うよ」  同棲している彼女の言葉が不意に思い浮かんだのは、丁度私が逝っていたからだろう。  いや、いた。というのはおかしいか。  私の意識はまだある。ということはつまり、逝っている最中だということだ。現在進行系で。  「くそ、くそ、くそ」  「よくも、このヤロウ」  「ざけやがって」  汚い言葉と共に降ってくる足の裏。鉄製の厚い靴底。  それが私の顔を踏みつけている。  ひしゃげた鼻。