タフガイのプルエバ
俺は素麺を茹でずにバリバリ食う男だ。俺は元々タフに生まれついてるからそれができる。
粉末スープも粉のままいく。冷凍食品も凍ったまま食う。下着は三日替えない。俺は自分の糞が便器についてても気にせず個室を後にする。俺は預金残高を見ない。定期を買わない。髪を拭かない。
過去や未来を考えない──これがタフネスの鉄則だ、わかるか。俺の暮らしはこれまで、鉄みたいな強度だった。
だがある日、俺の秩序は壊された。
きっかけはネットで偶然目にしたファン小説。問題はその主人公だ。そいつときたら、生い立ちから外見から何から不気味なほど俺そっくりだったのさ。俺の鉄の肝が冷えるくらいに。
俺は漫画のキャラじゃない、パンピーだ。どちらかと言うと不潔で粗暴で投げやりな方。俺が小説になる訳はないから、自分の正気を疑ったね。
でもその主人公、なか卯でカツ丼しか頼まないところも、タンクトップしか着ないところも、サブスクに入らないところも俺そのものでさ。俺がよく使うスーパーや馴染みのパブ、通ってた小学校、飲み仲間なんかも出てくるし。まったく、衝撃だった。驚異的ディティール。完全に俺なんだよ。
関連タグを見ると、俺らしき男が登場する投稿が他にも19,900件はあった。どうやら俺は人気らしい。俺が色んなヤツと恋愛してて、エロいのもあった。おい、笑うんじゃねえ。
この伏せ字で検索してみな。ほら、俺っぽい絵やら何やら大量に出てきたろ。さらにビビるのは、俺との組み合わせで一番人気の相手でね。ヤツの名はミチタカ。実在の友だ。借りた金を絶対返さないし、やたら人の物を盗むが、いいヤツだ。まさかヤツとはね。
一体何が起きているのか。俺は必死に考えた。そしてこの騒動について、一つ心当たりを思い出した。
それは半年前、俺が熱帯ジャングルで運命の祈祷師と出会い、己のタフネスを確かめるために「斃腕の試練」に参加した時のこと……。
続く