おれは芒を持って走る。童のように、黒々とした野を駆ける。 覚えもないのに郷愁を感じるのは、もうおれしかいないから。もうこれは、どうしようもなくって、どうでもよくなってきたから。それでも走る。 本当は、この穂ひとつひとつに言葉が込められていたのだ。今はすべて燃え、焦げ、青い煙を黒い空にたなびかせている。もう何の役にも立たないのに、すがるように掴んではためかせている。 父よ、母よ、さようなら。存在しない両親に、今生の別れを告げる。水槽の中で生まれたおれたちは、けれどこの世には父母
洗面器をすっかり平らげて、人心地ついた。洗った上で残った水アカは、ちょうどよくカルシウム。消化吸収される樹脂に、胃と腸が蠕動して喜んでいる。 腹が膨れたから、上を向く。崩壊して骨組みだけの家の中から見上げる空は、電線が立ち並んでいた街並みの中にあった頃と、そう風情は変わらない。照りついた日差しの匂いが砂とともにやってくる。心地いい。 プラスチックは体内の細菌(よくは知らない)によって栄養になる。ありがたいことだなあ、食べるものはもうすっかり少なくなっている世の中だもの。