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松本紹圭の方丈庵

このnoteマガジンは、僧侶 松本紹圭が開くお寺のような場所。私たちはいかにしてよりよき祖先になれるか。ここ方丈庵をベースキャンプに、ひじり仲間と対話と巡礼の旅に出ませんか? …
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記事一覧

対談:オードリー・タン × 松本紹圭 〈3〉

よき祖先となるために、終えてゆくもの 紹圭 ここで、「よき祖先」になるための別の方法を考えてみたいと思います。よき祖先になるために何ができるかと問い掛けると、多くの人は、未来世代のために何を遺産として残せるかを考えます。それを考えるのは良いことですし、素晴らしいです。同時に、私たちは何を止め、何を終わらせ、次の世代に何を「残さないか」を考える必要があります。つまり... オードリー 汚染のような公害とか。 紹圭 ええ、公害とか、GDPとか。 オードリー GDPは公害の

対談:オードリー・タン × 松本紹圭 〈2〉

重要なのは「space」キー 紹圭 あなたの視点からみて、「支配」や「所有」に満ちたこの世界をどう思いますか。 オードリー そうだね。私のキーボードには、「control(コントロールする)」と「command(命令する)」があるみたいだ。「escape(逃げる)」もあるね。「shift(交代する)」もあるよ(笑) そんな風にこの世界には様々な哲学がありますが、私にとって最も重要なキーは「space(余白)」です。このキーはみんなにスペースを作り、そして他のあらゆるキー

対談:オードリー・タン × 松本紹圭 〈1〉

対談 オードリー・タン × 松本紹圭 2025年1月 スイス ダボスにて オードリー・タンと初めて会ったのは、2021年秋、『グッド・アンセスター』の出版を控え、翻訳も終盤を迎える頃だった。とあるオンライン意見交換会でご一緒する機会をいただいた。台湾の若きデジタル担当大臣として社会を創る彼女の視点や発想には目を見張るものがあったが、その日、画面越しにも伝わってくる彼女の人格の大きさと軽やかさは特別だった。 ミーティングの最後、私はこんな質問をした。「これからの人類にとって

Latest News! 2025.2.10

◉ 朝日新聞デジタル連載 「松本紹圭の抜苦与楽」(第9回) ▼ 期間限定 無料公開ページ(〜2025年2月11日 AM 9:18) ◉ 2/15(土)イベント登壇|RETURN TO NATURE

DAVOS 2025|ダボス会議参加の振り返り

2025年1月、私はスイス・ダボス会議に参加し、世界のリーダーや思想家が集う場で、今後の社会・経済の方向性について多くの示唆を受けた。戦争、気候危機、AIという三つの重大なテーマが議論される中、私が特に強く感じたのは、「人間中心主義からの脱却」が、単なる思想的な提案ではなく、現実的な変革の要請として浮かび上がっているということだった。 会議の中で行われた非公開のセッション「Climate and Nature Retreat」では、「ステークホルダー」の概念が従来の「人間」

Latest News! 2025.1.28

◉ 2/1(土)13:00〜 インタビューライブ配信|AWAKIN.org ◉ 2/15(土)イベント登壇|RETURN TO NATURE

「しょうがないな」の世界がひらく無償性と無畏施

「しょうがないな」の関係性、というのがあると思います。「しょうがないな〜、手伝ってやるか」という感覚に象徴される関係性です。たとえば友人が困っているとき、報酬があるわけでもないのに「しょうがないな」と言いながら手を差し伸べる。その瞬間、私たちは互いを、単なる記号や利害関係で結ばれた存在ではなく、「ちゃんと声を持った人間」だと認め合っているのではないでしょうか。 そのさりげない行為から、仏教の「無畏施(むいせ)」や、オーストリア出身の思想家イヴァン・イリイチの「無償性(Gra

AIと神仏習合的アニミズム

気鋭の現代哲学者マルクス・ガブリエル氏は、昨夏共にした対談の場で、哲学を「考えることを考える」営みであると語りました。「哲学」という言葉は、明治時代に西周によって「philosophy:フィロソフィー」に当てられた造語ですが、「智(知)を愛する」という原義をもつその起源は古代ギリシャに遡ります。智を愛する営み自体は、学問として確立する前、つまりはソクラテス以前より人類が連綿と続けてきたことです。 AIと共に新たな扉を開いてゆく時代、私たちに必要なのは、まさに学問の枠に収まら

供養とcritique(批判精神)

先日、武蔵野大学の「カンファ・ツリー・ヴィレッジ・プロジェクト」において、ハーバード大学のロースクールからDavid Kennedy教授を招聘し、3日間で15時間に渡る「ブッダ・ダルマと人権」に関する議論を行った。Davidさんからは、欧米の批判精神(critique)の深さを教えてもらったように思うが、そこからふと、「供養」という日本仏教や日本文化特有の行為と、西欧的な思想環境で育まれてきた「critique(クリティーク)」が、並べられる可能性があるのではないかという着想

Latest News! 2024.12.16

◉ 朝日新聞デジタル連載 「松本紹圭の抜苦与楽」(第8回) ▼ 期間限定 無料公開ページ(〜2024年12月17日AM 9:09) ▼ 有料ページ ◉ Web掲載|さくらインターネット ◉ 講師参加(2025/1月-3月)|School for Life Compath 北海道東川町で、北欧フォルケホイスコーレをモデルにした大人のための学び舎をつくる School for Life Compath 主催の連続講座にゲスト講師として参加します。 Compath <

響き合う回向の呼びかけ

願以此功徳(がんにしくどく) 平等施一切(びょうどうせいっさい) 同発菩提心(どうほつぼだいしん) 往生安楽国(おうじょうあんらっこく)  これは「正信偈」というお経の最後の一節で、浄土真宗のお寺でお経を聴く機会の多い人にとっては「あぁ、きたきた(お経もこれで終わるぞ)」と、打たれる磬子の響きと合わせて聴き慣れたお馴染みのパートかもしれません。 意味をほどけば、「ここによき振る舞いと行為をもって一切に施し、仏道に向かうすべてが安寧の世にあれますように」といった内容です。こ

Latest news 2024.11.25

◉ トークイベント(2024/11/27)|Forbes Japan/Jam BASE ◉ 登壇(2024/11/28)|都市と循環 ◉ トークイベント(2024/12/7)|龍谷大学校友会

AI時代の「正見」と新しいリテラシー

AIが生活に浸透し、人とAIが伴走しあう時代を迎えています。AIを支えるのは、人が紡ぐ膨大な言語情報を回収し、その意味やパターン、関係性から特徴(ベクトル)を読み取って、個と全体(個の知と集合知)を捉えて応答する大規模言語モデルです。 鉛筆画が徐々に形を表すように、大量のベクトルのストロークによって見えてくる物事の輪郭、姿があります。人間の営みを観察し成長するAIは、人と社会を映す鏡のようでもあります。私と私たちの「身口意」(身体、言葉、思考)に浮かび上がる世界の姿を、私た

「将来世代のための宣言」が日本仏教にもたらす変化とは

2024年9月、国連は「未来のサミット(Summit of the Future)」において、新たな一歩となる「将来世代のための宣言(Declaration on Future Generations)」を採択した。この宣言は、2030年を期限とするSDGs(持続可能な開発目標)を越えて、未来の世代への責任をいかに果たすかを真剣に考えるためのものだ。単なる目標の設定から、未来の人々が私たちの行動をどう見るかを意識した取り組みへと変わるという意味で、これはまさに過去から未来への