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「将来世代のための宣言」が日本仏教にもたらす変化とは
2024年9月、国連は「未来のサミット(Summit of the Future)」において、新たな一歩となる「将来世代のための宣言(Declaration on Future Generations)」を採択した。この宣言は、2030年を期限とするSDGs(持続可能な開発目標)を越えて、未来の世代への責任をいかに果たすかを真剣に考えるためのものだ。単なる目標の設定から、未来の人々が私たちの行動をどう見るかを意識した取り組みへと変わるという意味で、これはまさに過去から未来への橋渡しである。
https://www.asahi.com/sdgs/article/15445592
2030年に区切りをつけるSDGsとは異なり、「将来世代のための宣言」はもっと先を見据え、今ここにいない人たち—すなわち未来の世代—を社会の仕組みの中で考慮すべき大切な存在として位置づけている。未来に生まれてくる人たちの声を、今の私たちがどう受け止めるか。この問いかけは、すでにビジネスの世界や社会の在り方にも影響を及ぼしつつある。
ビジネス界では「サステナビリティ」が大きなテーマとなっており、短期的な利益ではなく、長期的な視点が求められる時代が到来している。企業は、未来世代にどのような影響を及ぼすかを測定し、それを考慮した戦略を立てる必要がある。将来世代への責任を自覚するための新しい評価指標や、未来を見据えた持続可能なビジネスモデルの開発が求められるようになるだろう。そして、企業は未来の世代を新たな「ステークホルダー」として捉え、意思決定にその視点を取り入れることで、新たなビジネスチャンスを創出する可能性がある。
さて、この「将来世代のための宣言」によって、私たちが住む社会が徐々に変わり始めている中で、日本仏教も新たな展開を迎える時期に差し掛かっているのではないか。日本仏教は長い歴史の中で、法要や儀礼を通して「過去に生きた人々」を現前化し、彼らへの敬意と感謝を表現する営みを育んできた。これは、今はもう目に見えない存在に思いを馳せ、彼らを共有することで何かを成立させるという、人間にとって実はきわめて難しいことを社会的共通価値として実現してきた独自の文化であると言って良い。
「将来世代のための宣言」は、この伝統と共鳴する部分がある。未来の人々—まだこの世に生まれていないが、やがてこの地球で生活する人々—を「大切な存在」として私たちの社会に迎え入れる試みである。日本仏教の先祖供養の文化は、過去の人々とのつながりを通じて私たちのあり方を再確認し、深い敬意を持ってその存在を受け入れてきた。その眼差しを、未来の世代に向けるとどうなるだろうか。今や、日本仏教も「未来を考える」という観点から自らの視野を広げ、未来の人々にとっての「良き祖先」となることが求められているのではないだろうか。
例えば、法要に未来世代への祈りを組み込むことや、環境保護や地域社会への貢献といった持続可能な活動を通じて、未来世代への責任を果たす取り組みが考えられるかもしれない。また、寺院や僧侶が子供や若者に向けて、未来への責任や倫理観を育む教育活動を行うことで、「グッド・アンセスター」としての在り方を次世代に伝えていくことも意味を持つだろう。こうした動きが、日本仏教が今後迎えるべき新しい役割を象徴するのではないだろうか。
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