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DAVOS 2025|ダボス会議参加の振り返り
2025年1月、私はスイス・ダボス会議に参加し、世界のリーダーや思想家が集う場で、今後の社会・経済の方向性について多くの示唆を受けた。戦争、気候危機、AIという三つの重大なテーマが議論される中、私が特に強く感じたのは、「人間中心主義からの脱却」が、単なる思想的な提案ではなく、現実的な変革の要請として浮かび上がっているということだった。
会議の中で行われた非公開のセッション「Climate and Nature Retreat」では、「ステークホルダー」の概念が従来の「人間」主体の枠を超え、「Non-Human」すなわち動植物、山川草木、さらには人工知能(AI)をも含む視座が提案された。これは、単なる環境保護の視点ではなく、「人間の優越性(Human Supremacy)」そのものを問い直す動きであり、AIや生態系との新たな関係性を模索する試みでもある。
この視点を象徴するのが、「競争社会の終焉」という議論だった。とはいえ、それは単に「みんなで仲良く手を取り合う」ユートピアを意味するわけではない。自然界を見れば、確かに弱肉強食のように見える生態系の構造がある。しかし、その背後には、生態系全体の循環があり、ライオンがシマウマを襲う行為も、単なる「強者の支配」ではなく、持続可能なバランスの中に位置づけられる。競争原理から共創原理へ、「優越性」ではなく「役割分担」へ、人間の世界観が徐々にシフトしつつあるのでは。
この視点に立つと、「人間至上主義(Human Supremacy)」の見直しは、単なる自己犠牲や利他的な倫理ではなく、「共生における役割分担」という極めて実践的な視点として現れてくる。ダボス会議では、AIの進化によって人間が持つ知性の独占が揺らぎつつある中、「人間は何をするべきか?」という問いが繰り返し問われた。従来の「創造性」や「倫理」といった回答を超え、むしろ「自然やAIとどう共生するか」という視点が新たに求められていると感じた。
ダボスでの議論を振り返ると、私が「供養」というテーマを探究してきたことと深く結びついていることに気づいた。供養とは、過去を悼むだけでなく、そこに「区切り(punctuation)」を打つことで新たな関係性を結び直す行為である。この「区切り」が意味するものは、「終焉」ではなく、「新たな展開」への契機であり、人間中心主義の終焉もまた、単なる否定ではなく、新たな時代の幕開けとして捉えるべきものなのかもしれない。「区切り」としての供養は、人間中心主義の終焉と新たな世界観の展開において、一つ重要な役割を果たすのではないか。
ダボス会議を通じて、私は「Humanity」という概念自体が転換点を迎えていることを実感した。それは、人間と他者(他の生物、AI、さらには無生物も含めた存在)が共に役割を担い合いながら、新しい関係性を築いていく時代への移行を意味しているのではないか。人間の知性や倫理が唯一無二のものとして君臨する時代が終わり、多層的な共生の原理へと向かう流れが、ここダボスの場で確かに感じられた。
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今年は武蔵野大学の100周年プロジェクト「カンファ・ツリー・ヴィレッジ」の締めくくり年度でもあり、これまで行ってきた対話の成果が国際社会でどのように受け入れられるのか、色々な人に語りかけて、感触を確かめる機会にもなった。
19 Jan (Sun)
チューリッヒ空港に着。空港からチューリッヒ駅を経由して、ダボスへ。空港からこの時期WEFが運行するシャトルバスも出ているが、セキュリティやその他様々なアクシデントにより渋滞に巻き込まれることも多いため、安全を期して電車を利用。電車からの眺めは、湖を経てアルプスの山を抜け、スイスらしく美しい。
VR Meditation Sessionのリハーサルのため、会場入り。WEFのテックチームであるGlobal Collaboration Villageと、VRを使って明後日からのセッションに備えて準備をする。
私のホテルはKlostersという、Davos市内からシャトルバスで30分以上かかる、比較的遠いエリアに設定されていた。ここから毎朝、早起きして通うのはなかなか大変だ。
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20 Jan (Mon)
日本でも親しくさせてもらっているChristian Schmitの招待により、New Civilizationに関するラウンドテーブルに参加。12名ほどの多様な参加者と、これからの文明に関する議論。AI研究者、気候変動研究者、NPOなど、多様な参加者
午後、毎年恒例の、Klaus Schwabを囲んでCivil Society Community Meetingに招待されて参加。参加者は30〜40名。宗教者や先住民族代表者を含む、市民社会の多様なステークホルダーが特別に集う場所。労働者団体の代表が、AIによって仕事を奪われることへの危機感を表明していたのが印象的。
夕方、ダボスのオープニングセッションが、大ホールで。今年の「クリスタルアワード*」に、日本から建築家の山本理顕さんが選ばれていた。
* Crystal Award:深い繋がりと洞察と共に、包括的な変革を起こし未来創造する文化リーダーに授与される。夕方、世界の様々なステークホルダー(政府、メディア、企業、NGO など)の信頼度を25年にわたり定点観測してきた「Edelmanトラストバロメーター」の記念レセプションがあったので参加。EdelmanのCEO Richard Edelmanさんにご挨拶した。
夜、泊まっているホテルの近所に、中国人の友人夫妻がシャーレ(スイスの山小屋)を借りているというので、お邪魔する。
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21 Jan (Tue)
この日の朝からVR metitationセッションがスタート。しっかり準備して書いたスクリプトをナレーションとして読みながら、VR空間でファシリテーション。終了後、VRヘッドセットを外した参加者と、感想をシェア。初日は人数が少なく5名程度の参加だったが、評判は良かった。
Faith in Action Community Meetingに招待されて参加。今年から新たに作られた、屋外に臨時に設置されたトレーラーハウスにて会議。10名ほどの参加者で、かなりFaith in Actionの今後の展開について、突っ込んだ議論。WEFからは、コミュニティをリードしているDavid Sangokoyaが参加。
* Faith in Actionについてはこちらもご参考 >>
2024.2.14「先住民に問う、真に新しいもの」
大和証券の面々とのディナー。その後、「Social Dilemma」のTristan HarrisとLaurie Erlamとの会合に顔を出す。
22 Jan (Wed)
朝の瞑想。順調に進む。参加者は7〜8名。
スイス・ジュネーブに拠点を置くNGO「International Bridges to Justice(IBJ)」代表 Karen Tseが毎年開いている、ダボス庁舎を会場に平和を祈るイベントに参加。イスラム教、ユダヤ教、キリスト教、多様な宗教者がそれぞれに祈りを捧げる。仏教からは私が参加し、お経を読んだ。
* 昨年の様子はこちら>>
2024.1.24「ダボスにて@世界経済フォーラム 2024 -Faith in Action:信頼の再構築へ」
Voices of Change: Harnessing Wisdom to Respond to the Climate Crisis、というミーティングに招待されて参加。気候危機に対してどのような対応ができるのか、多様なステークホルダーでの議論。私は、それぞれの宗教や精神的伝統における人間と自然との関係性についてより深く研究することの意義について発言した。
Young Global Leadersの友人であり、バチカンとのつながりの深い、Mark Vlasicの誘いで非公式の「High Tea」に参加。4名のYGLの友人たちとのパネルで、意見交換。公式プログラムとは違う砕けた雰囲気で、良かった。
Global Shapers(世界経済フォーラムに組織される20-30代の若者コミュニティ)の話を聞く。Davosでどんな心持ちで過ごしたらいいのか、アドバイスなど。
恒例のJapan Nightに参加。日本食が人気なので、毎年大盛況。
23 Jan (Thu)
朝の瞑想。だんだん人が増えてきた。10名ほど。無事に終える。VRの扱いにも慣れてきた。
昨年から親しくなったPlamen Russev が開いているWebitという世界の起業家ネットワーク団体の、起業家プレゼンピッチイベントに同席。オープニングで一言、コメントする。8名ほどの起業家が、それぞれ3分ほどでプレゼン。
同じく昨年から親しくなったモンテネグロの「ミッキー」(Milojko Spajić)首相と30分、懇談。モンテネグロの多様なスピリチュアリティなど。仏教に関心があるようだった。
ウクライナの友人、Nataliaと対話。戦争が終わったら掃除をしよう、という話など。
YGLの友人、Martin Brunckoと1on1対話。AIと人間性についての話題など。
21日に出会ったLaurie Erlamと1on1対話。これからのHumanityを模索する様々な取り組みなどについて意見交換。
YGLの友人、シンガポールのPenny Lowが主催するマインドフルネスイベントに、30分だけ参加。トークとお経を読み、意見交換。
WEFの公式ポッドキャストの収録。コングレスにあるスタジオで、30分、色々と話す。
公式参加ではないが、周辺イベントのためにダボスへ来ていたオードリー・タンに出会い、武蔵野大学のポッドキャスト収録。会場はGaviにお借りした。90分、非常に濃い時間だった。
夜はFaith in Actionディナーに参加。40名ほどの参加者の中、8名ほどが途中でスピーチ。私もスピーカーとして、Faith leaderにとって今必要なアクションについて話した。
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24 Jan (Fri)
朝の瞑想。最終日になって、皆が少しゆとりが出てきたのか、大勢の参加者があり、行列ができた。キャパシティを超えてしまったため、参加できない人も。だんだんと人が増えるセッションだったので、WEFとしても成功だったようだ。良かった。
午前中、去年から誘われるようになった、アジェンダに載っていない秘密の?朝の特別なリトリートに参加。他のセッションと違い、公式プログラムでありながら、コングレスの外で開かれるものであり、時間も3時間半と長い。ファシリテーターは、クラウスシュワブの娘でありYGL、そしてWEFの職員でもある、Nicole Schwab(osara 創設者)。彼女は以前から一貫してスピリチュアリティと自然をテーマに活動しており、今回初めて、ステークホルダーに「non-human」の要素を入れたワークをやった。これはWEFの公式プログラムとして、初めての瞬間だったのではないだろうか。最後はヨーヨーマが3曲、チェロ演奏をしてくれた。
クロージング前、David Rodinと再会。たまたまその場にユダヤ教のラバイがいて、テフィリンという道具を用いてDavidに祈りの儀式をしてくれたので、それを眺めた。とても興味深い。
Farewell Lunchでダボス会議がクローズ。毎年恒例、山の上にあるSchatzalpという元々は療養所だったホテルにて、ビュッフェランチ。アルプスの山々を眺める絶景。かつて、療養所の人々も癒されたのだろう。
3時間かけてシャトルバスでチューリッヒ空港へ。空港からロンドンに飛ぶ。
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25 Jan (Sat)
ロンドンからオックスフォードへ移動し、ローマン・クルツナリックとケイト・ラワース夫妻の自宅を訪問、滞在。数時間、ドーナツエコノミー、グッド・アンセスター、AIと気候変動についてなど、幅広く議論。
ケイト・ラワースに、武蔵野大学のポッドキャストの収録をした。
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26 Jan (Sun)
ローマン宅で、オックスフォード近隣の識者が集まってのブランチ会。私がダボスを経て考えていることや感じたことなどをスピーチしてから、意見交換。オックスフォードという土地柄、集まる人たちにインテリが多い。
バスでロンドンの空港へ。
*
VOICE MEMO from DAVOS 2025
声の記録は Voicy にてお聴きください!
【DAY1】
今年もダボスへ/"新しい文明"をめぐる人間・自然・AI/市民社会メンバーの集い/25周年のEdelman
【DAY2】
朝のVRメディテーション始動/宗教者コミュニティ"Faith in Action"の動き/文化とソーシャルジレンマ
【DAY3】
祈りの会/ラウンドテーブル "Voice of Change"/Japan Night
【DAY4】
起業家コミュニティ"Webit"プレゼンイベント/モンテネグロ首相と再会/WEF公式podcast収録/オードリー・タンと初対面・対話収録
【DAY5】
未来人との非公開リトリート/ダボスでも山川草木悉皆成仏 "non-human" の流れ/イギリスへローマン・クルツナリック&ケイト・ラワースに会いに
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