「駅のほそみち」あお

人に生まれた「誕生日」があるように、駅にも開業した原点の日がある。そんな開業記念日に魅せられた筆者の、駅を訪れて記念の入場券を買う旅模様と人々の想いを綴るノンフィクション「駅のほそみち」紀行です。ぜひどなたにもご一読いただければ幸いです。

「駅のほそみち」あお

人に生まれた「誕生日」があるように、駅にも開業した原点の日がある。そんな開業記念日に魅せられた筆者の、駅を訪れて記念の入場券を買う旅模様と人々の想いを綴るノンフィクション「駅のほそみち」紀行です。ぜひどなたにもご一読いただければ幸いです。

マガジン

  • 「神カレ絵日記」チロル 【アーティスト 森月チロル】

    水彩アートやイラストなど、心癒される優しい世界観ながらも、力強い作品を生み出すアーティストとして活動されている、『森月チロル』さんの ほのぼの恋愛マンガを綴るnoteです。 その他の活動については→ https://profile.ameba.jp/ameba/8-chirol-8

最近の記事

12月17日 市川大門駅(山梨県)~地域みんなで駅づくりを~

【年度末と年始の多忙で、旅の道のりを記すのが遅れており、読者の皆さまには申し訳ない限りであるが、気長にお付き合い頂けると私としても幸いである。暖かい世界が広がる春に入っているが、旅の思い出は、晩秋から冬に入った昨年12月17日である】 朝5時に始発電車に乗った私は、ひたすら夢の中を彷徨い、多摩の山々から降りてくる澄んだ空気と突然のホームのアナウンスに目を覚ました。東京の端、中央線の高尾駅である。 乗り継いだ甲府行きの6両の電車は意外なことに多くの乗客で賑わいを見せていた。休

    • 12月25日 松山町駅(宮城県)~クリスマスにみちのく歴史ロマンを感じる~

      12月24日土曜の夜、彼女と横浜の夜景を見た後、私は東京駅のバス乗り場へとやって来た。 2022年のクリスマスはカレンダーが土日に当たり、穏やかな天気の関東は人出も多かった。ディズニーランドの道路渋滞を受けたバスは30分遅れで発車したが、北への道は順調で、翌朝は15分も早い4時45分に仙台駅へと到着した。 今日は東北本線の松山町駅の開業記念日を訪れようと思う。意外なことに、クリスマスの開業記念日の駅は全国に多く、ここ数年のクリスマスの私は駅と誕生日を祝うようなことばかりし

      • 12月15日 塩尻駅(長野県)~空気澄む 清々しい朝に~

        12月15日早朝5時、松本駅のお城口に夜行バスは到着した。長野県中部の中心都市である松本は1日を通して乗降客で賑わいを見せているが、さすがに平日の早朝では町も眠りについていた。 駅の温度計は-2度を指していて、もちろん寒いわけだが、ただ寒いだけではなく、ひんやりとした空気は透明感と清々しさが肌から伝わってきて、北アルプスのもたらす魅力とも言えよう。 ぽつりぽつりと人が集まりだして、松本駅から出発した始発電車に乗り、まだ夜の明けぬ6時3分 塩尻駅に降り立った。 標高700

        • 新年ご挨拶と創作アーティストのご紹介。

          【年始に新型コロナウイルス感染後、ようやく落ち着いて参りました。メッセージ投稿を頂いた皆さま、ありがとうございます。ご返信が遅れまして申し訳ありません。】 新年あけましておめでとうございます。 昨年より執筆を始めました「駅のほそみち」紀行ですが、おかげさまで旅行記事まとめにご紹介して頂くなど、皆さまにご覧頂ける機会も増え、関わって頂いた全ての皆さまに大変感謝しております。ありがとうございます。 「開業記念日」を大切に駅を旅するという、私なりの心に秘めた想いを貫いた旅も4年

        マガジン

        • 「神カレ絵日記」チロル 【アーティスト 森月チロル】
          0本

        記事

          12月11日 寒河江駅(山形県)~最上川と湯けむりの100年~

          山形県のほぼ中央部に位置する寒河江は、最上川と寒河江川の合流点に開けた扇状地に広がる町で、かつては舟運が往き来したこの町にも、大正10年には山形からレールが延びてきた。翌大正11年には同じく最上川舟運の河岸として発展した左沢の町まで開通し、現在の左沢線が形成された。 それから今年で全線開通100年を迎えたのである。100年というロマン感じる響きに誘われて、私は左沢線の旅に出た。 12月11日朝5時、まだ薄暗い仙台駅前は小雨が降っていたが、山形へ向かう仙山線に乗っていると、県

          12月11日 寒河江駅(山形県)~最上川と湯けむりの100年~

          12月1日 弘前駅(青森県) ~歴史は想いをつなぐ~

          弘前は古くから江戸幕府 弘前藩・黒石藩領地の中心地として発展し、現在でも津軽地方 代表都市として存在感のある町である。それだけに鉄道の開通も早く、日本で初めての鉄道が新橋~横浜間に開通した22年後には、早くも弘前城下で汽笛が鳴り響いている。 「狭い日本」とは言うが、それでもこの短い時間で、日本中に網の目に延びていった鉄道網をいま乗っていると、鉄道に対する大きな期待とそれを実現させようとする先人の努力に触れている気がする。何事にも常に感謝の気持ちを持っていたいものだ。 朝8

          12月1日 弘前駅(青森県) ~歴史は想いをつなぐ~

          12月1日 浪岡駅(青森県)~郷土愛~

          川部駅を後に、青森行きの普通列車は、さらに西へと進んでゆく。雪はますます深まって、車窓の世界観を全て白く包み込んだ。 それでも列車のスピードは変わらない。ふと運転席を見ると、ハンドルを握る男性運転士さんの横には作業服を着たベテランの保線員さんが微動だにせず、前を見つめている。線路の状態を確認しているのだろう。こうした鉄道員の頼もしい活躍で、列車は日々動いているのだと思うと本当に頭が下がる思いである。 11時16分 1分も遅れることなく、浪岡駅のホームに入っていた。降りた乗

          12月1日 浪岡駅(青森県)~郷土愛~

          12月1日 川部駅(青森県)~思い出は初雪に包まれて~

          12月1日朝8時、私は前夜から揺られてきた夜行バスを弘前駅前で降り立った。今日は津軽への小さな旅である。 うっすらと積もった雪に朝日が柔らかく照らしている。風流を感じるも束の間、きっぷを買い求め、ホームに降りると、みるみる厚い雲に覆われ、大粒の雪が降りしきる厳しい表情に変わっていた。とても落ち着いてホームの時刻表を読んでいられず、ヒーターが強められた、青森行きの普通列車に早々に入り込んだ。 弘前駅から2つ目、10分ほどで川部駅に到着する。奥羽本線と五能線の分岐駅であるから

          12月1日 川部駅(青森県)~思い出は初雪に包まれて~

          11月25日 海老名駅(神奈川県)~故きを温ねて新しきを知る~

          相鉄線といえば、今や大都市 横浜から神奈川県央地域を横断する生活に欠かせない通勤通学路線であるが、その歴史は相模川の砂利を運ぶ貨物鉄道として建設され、駅の複雑な誕生にも関わる、興味深い線でもある。 そんな相鉄線の全駅の開業記念日を1駅ずつ、今年の8月から旅している。 11月25日の時刻は19時、仕事を終えた私は横浜駅のきっぷうりばの前に立っていた。前日にICカードを紛失し、きっぷを買うためだ。運賃表を見上げていると、横浜から終点の海老名駅までは端から端まで18駅もあるが運賃

          11月25日 海老名駅(神奈川県)~故きを温ねて新しきを知る~

          11月23日 留萌駅(北海道)~最後の開業記念日~

          11月22日夜、私は7年ぶりに留萌駅に降り立ち、冬の訪れを感じさせる冷たい風を受けながら、町を歩いていた。駅前はもう夜になるとひっそりと静まり人の気配はなかったが、町中には祝日前のどこかのんびりとした空気と人の流れがあった。 翌11月23日 留萌駅の開業記念日である。私は朝8時に留萌駅へと足を踏み入れた。まだ改札と窓口には人がおらず静かだが、湯気もうもうと立ち込める待合室のそばスタンドには、始発列車でやってきた旅人たちが名物「にしんそば」を求めて活気づいていた。 窓口にき

          11月23日 留萌駅(北海道)~最後の開業記念日~

          11月22・23日 石狩沼田駅(北海道)~分岐点~

          広大な自然風景と歴史ロマン溢れる「北の大地」は昔も今も訪れる者を魅了してやまない。そんな地を縦横無尽に走る鉄道もまた旅情をかきたてるが、人と暮らしの変化によって次々と姿を消している。 今回は来年3月末で、形を変える留萌本線の開業記念日の旅に出た。 11月22日9時 新千歳空港、清々しい青空の下旅は始まった。雪はまだ見当たらないが、冬将軍の洗礼を受けて寒い。 アイヌ語の名残を駅名に当てた小さな駅をいくつも過ぎ、小雪舞う中を北へ北へと進んでゆく。再び青空が顔を出した12時28分

          11月22・23日 石狩沼田駅(北海道)~分岐点~

          11月15日 上毛高原駅(群馬県)~超特急いつまでも~

          「夢の超特急」として世界中に衝撃と影響を与えた日本の新幹線。いつの時代も安全を守りつつ進化を続ける技術力と熱意に感激もひとしおな私だが、新幹線駅への旅は遅れている。そんな中、今日11月15日は上越新幹線の開業記念40年という大きな節目がやってきた。 私は地図を眺めつつ旅に出た。 上越新幹線は大宮から新潟までの間に10の駅があるが、昭和57年11月15日開通時に新しく誕生したのが、群馬県の上毛高原駅と新潟県の燕三条駅の2つだ。新潟に住む知人に燕三条駅の入場券を託した私は、上毛

          11月15日 上毛高原駅(群馬県)~超特急いつまでも~

          11月10日 鮫駅(青森県)~変わりゆくもの変わらないもの~

          海に思い耽った私は、駅へと戻る。ホームに立っていると「プワーン」と遠くから汽笛を響かせて、レールの両側のススキをカサカサと揺らしながら、八戸行きが入ってきた。列車は情感で走っているわけではないが、妙に哀愁漂う。 次は鮫駅である。朝来た道を戻ってゆくが、相変わらず海は広い。やがて鮫に近づくと蕪島が車窓に見えてきた。ウミネコの繁殖地として、天然記念物にも指定された島だ。頂上には漁業の守り神である蕪嶋神社があるが、火災で焼失した拝殿は再建されていた。私が知らない変わりゆく光景であ

          11月10日 鮫駅(青森県)~変わりゆくもの変わらないもの~

          11月10日 種市駅(岩手県)~穏やかな朝~

          11月9日夜、新宿。旅は始まる。 前日は皆既食と惑星食の同時発生で各地で盛り上がりを見せた。今夜の空はと、バスの窓を眺めるが、まもなく仕事疲れの深い眠りに落ち、気づくと八戸であった。 駅前に真っ赤に色づいた もみじの樹があり、その鮮やかさにしばし足を止めるが、町は至って日常の平日の朝。行き交う学生と勤め人に混じり、急かされるように列車に乗り込む。 八戸線は太平洋沿いに青森県八戸から岩手県久慈を結ぶ。このうち海がよく臨める、鮫、種差、階上、種市の駅が98年前の大正13年11

          11月10日 種市駅(岩手県)~穏やかな朝~

          駅のほそみち紀行~誰もしていないことを始めた~

          駅が開業した誕生日を「開業記念日」と私は呼んでいる。遠い昔であっても、1年に1度は同じ日が今もやってくる。その特別な日に駅を訪問し「入場券」というきっぷを窓口で買い求める旅である。 開業記念日と駅名が記された入場券は、その日、その場所でしか手に入れることができず、ICカードの普及と合理化で、今は窓口できっぷを買うこと自体が徐々にできなくなっている。 だからこそ、手に入れたときの感動は深いが、実用性だけの一枚の紙に価値を見出し、熱を入れているのは、端から見ればまず理解しがた

          駅のほそみち紀行~誰もしていないことを始めた~