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12月1日 川部駅(青森県)~思い出は初雪に包まれて~

12月1日朝8時、私は前夜から揺られてきた夜行バスを弘前駅前で降り立った。今日は津軽への小さな旅である。

うっすらと積もった雪に朝日が柔らかく照らしている。風流を感じるも束の間、きっぷを買い求め、ホームに降りると、みるみる厚い雲に覆われ、大粒の雪が降りしきる厳しい表情に変わっていた。とても落ち着いてホームの時刻表を読んでいられず、ヒーターが強められた、青森行きの普通列車に早々に入り込んだ。

弘前駅から2つ目、10分ほどで川部駅に到着する。奥羽本線と五能線の分岐駅であるから乗り降りも多いかと思ったが、雪のホームには数人が待っており、列車から降りたのは私ひとりであった。
階段を渡って出口へ向かう私の姿を見て、初老の駅員さんが事務室から改札口に立った。
寡黙な駅員さんは「ありがとうございます」と一言伝えると、私の、きっぷの発券にとても丁寧に対応して頂いた。多くを語らずも、慣れた手つきで理解のある駅員さんの姿は印象的だ。駅は一人勤務のようであった。

川部駅は、明治27年の開業当時の駅舎が今でも使われている。128年という長い歴史のある木造建築は、屋根や壁は張り替えられ、色は塗られ、窓はアルミサッシとなって、手を加えられているが、雪国ならではの急傾斜な高い屋根と横に長い堂々としたつくりは飾り気はないが、実に立派で荘厳である。
人の人生よりも長い駅舎はどれほどの人生模様を見てきたのだろうか。
そんな駅も来年の春には終止符が打たれ、改築されることが決まっており、今日は最後の開業記念日なのである。

暖かいストーブに当たりながら物思いに耽っていると、今から12年前のできごとも思い出される。東北新幹線の新青森駅開通を記念して「MY FIRST AOMORI」キャンペーンが展開され、青森の小さな駅で働く青年駅員の日常とはかない恋模様を描いたドラマCMが制作された。その青年駅員というのが私と同学年であった 三浦春馬くんであり、小さな駅が川部駅であった。
短い映像ではあったが、今この場所で、あのときの風景が見えてくるような錯覚を覚える。改札口に立ってきっぷを集め、窓口のガラス越しに「新幹線の開業は12月です」と笑顔で答えていた。もう彼の姿も、そしてこの駅舎も思い出の中でしか見ることができないのは悔やまれる。

「雪がすごいので、列車が遅れていないか心配で」と待合室に地元の女性が姿を見せた。私が定時の列車に乗ってきたことを伝えると安心したようで、「この辺りは冬はかなり積もるけれど、今年は遅い初雪で一気に降った」のだという。そして「来年には駅員さんがいなくなるみたいだから…」と。
どこかそんな気はしていたのだが、「ああ、やはり改築と同時に無人化されるのか」と確信に変わっていった。

ホームではいつの間にか除雪作業が始まっていた。列車がやってくると全員が手を止めて、列車に向かって敬礼して迎えていた。安全確保の為の作業行程ではあるが、頼もしさと力強さを感じながら、私は川部駅を後にした。

川部駅(かわべ)-明治27年12月1日開業 開業128年

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