Q字路/遠い女/Booker Little
間借り喫茶の屋号は『Q字路』という。
もともとは『遠い女』で、さらにその前は『深煎珈琲 Booker Little』だった。
何故か昔から、3文字の屋号の店に惹かれていた。荻窪『邪宗門』、『寄港地』、西荻窪『物豆奇』、『三人灯』、高円寺『七つ森』、富士見ヶ丘『慶珈琲』、国立『書簡集』、日暮里『友路有』、新橋『紅鹿舎』、盛岡『羅針盤』、新花巻『山猫軒』、山形『煉瓦家』、名古屋『びぎん』、京都『六曜社』、岡山『折り鶴』、長崎『タロー』等々。
『Q字路』はラテンアメリカ(現代)文学とラテンアメリカ(現代)音楽と深煎ネルドリップの店である。
以前の『遠い女』はその文脈で、フリオ・コルタサルの短篇のタイトルから勝手に拝借した(なんかとっつきづらそう、言うの恥ずかしくなってきた、そもそも俺男だった、という理由で結局変えてしまった)。
『深煎珈琲Booker Little』は阿佐ヶ谷時代、ジャズバーを間借りしていたときの屋号である。当時はレコードと短篇集の店としたり顔で銘打って、ジャズのLPばかりをかけていた。そして偏愛していた短篇集をカウンターに並べ、ひとりで悦に入っていた。
もちろんトランペット奏者のブッカー・リトルからとった名だが、ちょっと(Little)本読み(Booker)という洒落を仕掛けたつもりでもあった。
珈琲一杯ぶんの時間と短篇集は相性が良いし、そこにLPがあれば尚良し、という気持ちだった。そして全体的な語感と字面も気に入っていた。
しかしいまの台東区の物件では設備上、レコードはかけられない。ならばいっそ、フォルクローレに基づいたラテンアメリカ現代音楽に特化しようと考えた。2000年代以降の音源が多いためか、そもそもレコードでのリリースが少ないのだ。CDかサブスクに限られるなら、むしろそっち方面に舵を切ろうと思った。そしてラテンアメリカ文学・音楽の店というのは、もともといくつか考えていたコンセプトのひとつでもあった。そうしてまずは『遠い女』と名付け、その後『Q字路』に改めた。
『Q字路』という名前には特に意味はない。
なんとなくかっこいい、そんな言葉ない、何屋かわかんない、その程度の理由である。しかしこの名前も自分では気に入っているし、いまの物件にも合っているような気がする。
路地裏の謎喫茶。
T字路でもY字路でもない、髭の生えた袋小路。
迷路じみたどん詰まり。
輪廻に生じた横路。
なんでもいいんだけど。