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マークの大冒険 「マークとアントニーのローマ戦線」



その頃、ローマではアントニウス率いるカエサル派とブルートゥス率いる元老院派の間で激しい内戦が繰り広げられていた。遥かなる時を超え、古代ローマに訪れた冒険家マークも、その戦火に巻き込まれていく。というか、彼は自分から巻き込まれていった。ある目的のために。


***


「おい、マーク!あの魔法みたいので何とかならないのか!」

アントニウスは苛立った声でそう叫んだ。

「ウジャトには発動待機時間があるんだ!出産後のヌウト女神が休んでいた時間だけ、次の発動まで時間がかかる。あと24分、もう少し耐れば」

「援軍の到着はまだか!後方の補助軍もどこいった!クソ使えねえ腰抜けどもが!」

「補助軍はビビって逃げかもね。それでも大丈夫だアントニー、歴史上ボクらはこの戦いで勝つことになっている」

「そんなお前の妄想に付き合えるか!俺が馬で走って敵を引きつける。敵の戦列が崩れ始めたタイミングで、お前が持ってるその魔法の眼を使え!」

「了解!けど、この戦いで勝ったらキミの顔が刻まれたデナリウス銀貨をくれよ」

「金くらいいくらでもくれてやる。勝てればの話だがな。その金でパラティヌス丘の高級住宅街にでも住むつもりか?」

「いや、研究のために国に持ち帰る。キミらがまだ知らない東の最果てに存在するジパング地方にね」

アントニウスはマークのその言葉を最後まで聞くことなく、馬に跨り颯爽と駆け抜けていった。


To be continued...


【用語解説】

マーク……冒険家。古代オリエント文明を中心にその研究・収集の旅を続けている。いつか自分も歴史に名を残す大発見をすることを夢見ている。

アントニー……ラテン語名はアントニウス。アントニーは英語名だ。マークはニックネームとしてこの名で呼んでいる。アントニウスは、かつてカエサルの右腕として活躍した優秀な軍人。幼少期に父親が処刑されローマにいられなくなり、赴いた先のギリシアでひたすら剣術を磨いた。圧倒的な戦闘能力と指揮力を持つ勇敢な戦士だが、傲慢で自慢屋な面がある。

ブルートゥス……カエサル派に敵対する元老院派の中心人物。共和政の伝統を崩そうとしたカエサルに危険性を感じ、彼を欺いて暗殺した。だが、辛いことにブルートゥスの母セルウィリアはカエサルと恋仲にあった。ブルートゥスは、信条と情の間で板挟みになりながら苦悩していた。

ウジャト……マークがクフ王のピラミッドで発見した眼の形をした護符。ウジャトは、古代エジプト語で再生を意味する。また、愛の女神ハトホルによって再生したホルスの片眼を指す。この眼よってエジプトの天空神ホルスは全てを見通すことができた。

ヌウト……エジプトの女神。エジプトの大神オシリス、セト、大ホルス、イシス、ネフティスを産んだ神の母。彼女は太陽神ラーに妊娠した子の出産を禁じられていたが、時の神トトの協力を得ることで暦をズラし、ラーを欺いて空白の五日間で我が子を産んだ。

補助軍……その名の通り正規軍を応援する部隊。主に他国や属州民から集った傭兵。

戦列……ローマ軍は規則的な列を形成して戦った。これがローマが地中海世界最強の武力を誇る所以だった。

デナリウス銀貨……古代ローマで使われていた貨幣。直径2センチにも満たない小さな銀貨だが、宗教的・政治的意匠、ラテン文字などが刻まれており、歴史資料としての価値が極めて高い。

パラティヌスの丘……都市ローマを囲む七つの丘のひとつ。裕福なローマ人たちが住んでいた高級住宅街があるエリア。

ジパング地方……太平洋に浮かぶ日本という島国。マークが住んでいる場所。安全で飯が美味い最高の地域。


Shelk 詩瑠久

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