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猫の恩返し

猫の恩返し

「君は何処の子かい?」
 暫く寒い日が続いていたから、今日みたいな小春日和には仕事なんてやめてビールでも飲もうかーーそう思い立って引き戸を開けると、ここいらでは見たことのない白い猫が長いふさふさした毛をなびかせて寝ていた。
 俺が住んでいる家は、今時珍しい日本家屋の貸家だ。昔、大家さんが住んでいたというその家は古いがしっかりと今でも現役で使える、男やもめには十分な家だ
 その中でも一番のお気に入り

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不思議な老人ホーム

不思議な老人ホーム

 その老人ホームには不思議な言い伝えがあって、死ぬ二日前に人生の中で一番会いたい人と最後の時を過ごせるというものだった。
 その話を聞いていた私はやっとのことで、その老人ホームに入れた。それもこれも幼い頃に神隠しにあった「ちいちゃん」が忘れられなかったからだ。優しかった、可愛らしかった「ちいちゃん」会えるならば彼女に会いたかった。その為に高い入所料を払うことも、惜しくはなかった。

 そんな私にも

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一発逆転ホームラン

一発逆転ホームラン

   ―それは、突然の話しだった―
「皆さん、明日から夏休みですが…… 春日くんがお父様の仕事の都合で二学期からアメリカに行くことになりました。春日くん、こちらへ」
 呼ばれた春日くんがにこやかに先生の脇に立つのを啞然とした。 親友の優子が心配そうにこっちを見ている、私はと言えば小学三年の頃からの好きな人の突然の転校の話しに頭の中で半分パニックをおこしていた。
「こういう時に限って、日直当番だし」

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育成ゲーム

育成ゲーム

 桃子のお気に入りは、今流行(?)の育成ゲームだ。手をかけた分だけ色んなキャラクターに育って、全然あきがこない。今日も朝から
「お腹はすいてないね、もう少しでうんちが出るかな~」
 と、ゲームの育成に夢中だ。
 
 それをもう少しで四ヶ月になる、桃子の娘がベビーベットからジッとみていた……。

                               終わり

                

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千里を望む

千里を望む

随分と壮大な名前をつけたと思われやすいですが、何の事は無く高校生の時に好きだった歌手の名前と声優さんの名前をとっただけだったりする。

歌手の名前は勿論大江千里さんで、声優さんは佐々木望さんからでした。今もこのPNが気にいっているし、変えるつもりはありませんけど……あまりパンチ力が無いですよね(笑)
#名前の由来

秋桜

秋桜

―ねぇ、知ってる?コスモスの六つの花弁は宇宙の理をあらわすんだよ―

 目が醒めて、いつもの夢を見たんだと天井の白い壁が教えてくれた。その白い天井も涙でにじんで見える。
「最悪だな……」
 涙をベッドの横にあったティッシュで乱暴にふく、屑籠に投げたそれは見事にはずれて屑籠の脇に落っこちた。

 一面のコスモス畑、中学時代の俺があいつと並んで立っている。あいつ―そう、健―はいつも誇らしげに俺に言って

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女郎蜘蛛

女郎蜘蛛

あぁ、また来たの?先生って言っても結構暇なのね。

えっ!?又あの話しぃ?本当に精神科の先生って暇なの?まぁ良いけど。

 えぇ、そうよ。私が全員殺したのよ、愛しい私の恋人達。

 愛しあっている最高の瞬間に首を絞めて殺すの、皆んな

「何で……」

 って言いながら死んでいくけど、だってしょうがないじゃない? 愛した人が側にいないと不安じゃない? だから離れ無い様に一番幸せな時に殺すの。

 じ

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空の卵

空の卵

「え、何これ?」

 梅雨も半ば、憂鬱な朝に起きた私の傍にあったのは綺麗な空色の卵。推定Lサイズの卵がコロンと枕元に置いてあった、寝ぼけた頭で考える。

 えーと昨日は久しぶりにオンラインじゃ無い大学の授業を受けにいって、友達の家で少し……いやかなり呑んで終電で帰ってきて……あれ、卵が何処にも出てこない。思わずパンツをのぞきこんでしまう。

「だよねぇ~」

 私は卵が好きだ、オムレツやオムライス

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歩道橋(4)

歩道橋(4)

二週間は地獄見たいな日々だった、あれからピタッと貴文が姿を見せなくなったからだ。部活の奴らも最初の頃は

「夫婦喧嘩かぁー?」

と茶化していたが、だんだん来ない事と俺の様子が普通じゃないのがわかったらしく

「まぁ良くある事よ?カラオケで歌えば、気が紛れるかもよ?レッツ、カラオケ!」

「あぁ……そうだな、ありがとう」

でも歌っていても思い出す、貴文の笑顔、唇、それから抱き寄せた時の匂い。何で

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歩道橋(3)

歩道橋(3)

「俺が一人暮らしをしている理由は、両親の浮気と離婚だよ……最初にあの女が十年も付き合っていた男との間に子供が出来て、それで離婚になったんだけど父親の方にも付き合っていた女がいたって話しだ。両方共に再婚するから、俺は邪魔だった訳だ」

「そんな……酷い」

「そう言う訳だから、二人から金をもらってここに一人暮らしをしているんだ……結構ショックだぞ?どっちにも要らないって言われるのって」

ふと黙った

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歩道橋(2)

歩道橋(2)

あれから何ヶ月たったか、季節は夏になりバスケ部の午前中の活動が終わると必ず歩道橋の下で貴文が待っている様になった。

「おーい晃!彼女が待ってるぞ!」

「うるせー」

と言いながらも、貴文のそばに駆けていく。男子校だからかもしれないが、結構同性間恋愛にはおおらかに皆んな接して来る。何より貴文のたたずまいはそこら辺の女性に負けない位き、綺麗だった。

少し長い髪をかきあげると、切れ長の瞳はまるで引

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歩道橋

*BL色が強い作品です、嫌いなかたは気をつけて。

ただでさえ憂鬱な梅雨の合間、学校集会で一人の先生が死んだ事を知った。自殺だったそうだ、思い出して見ると線の細い優しげな……男とは思えない様な先生だった様な気がする。

その日の帰り道、部活も雨で中止になった俺は友達のカラオケの話しを断って吹き荒ぶ雨の中を歩いていた。ふと歩道橋に差し掛かると、まだ一年生だろうか?俺と同じ制服を着た男子がまるで雨なん

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恋瀬橋

恋瀬橋

これはまだ私が高校生の頃の話しなんだけどね。高校に行く道に「恋瀬橋」って小さい橋があったの。その橋には、恋人同士で手を繋いで橋を渡ると永遠に結ばれるって言い伝えがあってね。ロマンティックでしょう?

貴女には幼なじみがいる?私には隆って幼なじみがいたんだけど、突然私の親友の純子と付き合いだしたの。
でねよく純子がこぼすのよ、
「隆と手を繋いで橋を歩きたいのに、手をポケットに入れたままなの」って。

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夕立ち

夕立ち

私の名前ですか?柴田と申します。えぇ、職業は警備員をしています。

今日は私が体験した不思議な話しでもしましょうか?

その日は通行止めの仕事でした、そうです車は通れ無いと言う仕事です。相棒と仕事場に行った時、私がついた場所がいわゆる「交通事故」があったらしく新しい花やらお菓子やらが電柱に積み上げられていたんです。
(嫌な場所についてしまったな……)
と思いながらも午前中は結構車が来て、忙しい中お

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