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不思議な老人ホーム

 その老人ホームには不思議な言い伝えがあって、死ぬ二日前に人生の中で一番会いたい人と最後の時を過ごせるというものだった。
 その話を聞いていた私はやっとのことで、その老人ホームに入れた。それもこれも幼い頃に神隠しにあった「ちいちゃん」が忘れられなかったからだ。優しかった、可愛らしかった「ちいちゃん」会えるならば彼女に会いたかった。その為に高い入所料を払うことも、惜しくはなかった。

 そんな私にも最後の時が近づいてきたのだろう、満月の淡い光の中で小さい影が映った。
「ちいちゃん」
 あぁ、だけど現実は違った。私の目の前に現れたその体を、腐らせて現れたのだ。「ちいちゃん」は言う。
「あなたが私を井戸に突き落としたんじゃない」
 何で忘れていたんだろう、そうだ私が「ちいちゃん」を好きすぎて、誰の目にも触れないように井戸へ・・・・・・。

 翌日の朝見つかった老人は何故か全身びしょぬれで、だけどその表情は穏やかな死に顔だった。

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