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名文セレクション

2020/05/11 12:00 に 旧アカウントにて投稿した記事を転載 最新順<昇順> ※2021年6月9日 更新 ***** 生きているというのはすなわち、思い出すことなのだ ***** 忠実ではないとしても、それが強烈なものであることには文句のつけようがない ***** 今夜の楽しさは、南米の齧歯動物四十匹分の皮にたまたま行きあたったおかげで生まれたのだ ***** とにかく、わたしの才能を傷つけないのが最優先でしたから ***** 細部をおろ

    • 人を助けるとはどういうことか

      本書は、即効性を期待する、主に情報提供としてのコンサルティングよりも、「プロセス・コンサルティング」(転載すると「プロセス・コンサルテーションとは、支援者が最初からコミュニケーションのプロセスに焦点を当てることを意味する」)の有用性を説いている。 また、「タイミングがすごく大事(Timing is crucial)」であったり、「与える側も受け入れる側も用意ができているとき効果的な支援が生じる」(用意できていないと逆効果にもなりうる)というメッセージも印象的だ。 考えてみ

      • 西瓜糖の日々

         いま、こうしてわたしの生活が西瓜糖の世界で過ぎてゆくように、かつても人々は西瓜糖の世界でいろいろなことをしたのだった。あなたにそのことを話してあげよう。わたしはここにいて、あなたは遠くにいるのだから。  (中略)  アイデスでは、どこか脆いような、微妙な感じの平衡が保たれている。それはわたしたちの気に入っている。  小屋は小さいが、わたしの生活と同じように、気持の良いものだ。ここの物がたいがいそうであるように、この小屋も松と西瓜糖と石でできている。  わたしたちは西瓜糖で心

        • 走ることについて語るときに僕の語ること

          『走ることについて語るときに僕の語ること』と『職業としての小説家』は、僕(誠心)が生きる上で、また仕事をする上でのバイブルのような位置づけで、走ること~は今回で5回目ぐらい、職業としての~は先日3回目を読み終えたと記憶している。 刊行順から言っても前者は「書きためていたノートから」というイメージで(それがまたいいのだが)後者はそれをもう少しカチっと固めていったもの、という感じがする。 今回は、『走ることについて語るときに僕の語ること』について。 序盤で「具体的に言おう」

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        名文セレクション

          遠い声、遠い部屋

          カポーティの小説はいくつか読んできたけれど、『無頭の鷹』での不気味さを始終醸し出しつつ、主人公は13歳の少年だ。 話の展開(展開というより描写)は後半に進むにつれてどんどんドライブ(というより訳者のいうように確かにジェットコースター)していき、ひきこまれていくというよりもむしろ突き放されていく感じを受けた。 ところが僕(誠心)の中では主人公ジョエルと、同年代の女の子であるアイダベルがいつまでも定点にあるようで、少しずつたくましくなっていくジョエルを落ち着いて見守りながら読ん

          遠い声、遠い部屋

          職業としての小説家

          これを読むのはもう3回目ぐらいになると思うけれど(文庫版で読んだのは初めて)、昨日一日で一気読みしてしまった。 長編小説に取り組むルーティン・ワークは僕(誠心)も仕事の取り組み方として影響を受けているけれど、今回は特に『ノルウェイの森』が売れてから日本国内でいやなことが重なり、そのあと自らアメリカを、世界を開拓していくあたりが特にグッときた。 この方はあくなき努力と工夫と柔軟性と、何より持続力を自ら鍛え上げた方です。さすが世界のムラカミ。ほんとにすごい。やはり僕にとっては

          職業としての小説家

          最後の大君

          帯にもあるように、フィッツジェラルド未完の遺作。第六章で終わっているが、第十章ほどまでの構想があったことは、巻末のノート(覚え書き)からも伺い知れる。 時系列で著者の長篇小説を見ると、「グレート・ギャツビー」でピークをみせ、「夜はやさし」、そして本作と、下降を辿っているように僕(誠心)は感じる。 本作の主人公であるモンロー・スターはギャツビーほどの華やかさはなく、ただただ叩き上げのビジネス・マンでありアーティストだ。 キャスリーンへの恋は、死別した前妻を思い出しているし

          最後の大君

          夜はやさし

          今では一般的とされる修正版(谷口陸男 訳)と、オリジナル版(森慎一郎 訳)を続けて読んだ。 オリジナル版の初読は3年半前にあり、えらく感動していたようだが、今回はそれほど響かず…とにかく「長い」という印象を受けた。 ちなみにその時のnoteが以下 https://note.com/seishinkoji/n/ncce7b274074d 『グレート・ギャツビー』が「離れ業」で、『夜はやさし』は「信仰告白」と著者は語っている。 下降してゆく中で、命を削って書いていたのだと思

          夜はやさし

          カセットテープ・ダイアリーズ

          映画『カセットテープ・ダイアリーズ』 《解説(映画.comからの転載)》 1980年代のイギリスを舞台に、パキスタン移民の少年がブルース・スプリングスティーンの音楽に影響を受けながら成長していく姿を描いた青春音楽ドラマ。87年、イギリスの田舎町ルートン。音楽好きなパキスタン系の高校生ジャベドは、閉鎖的な町の中で受ける人種差別や、保守的な親から価値観を押し付けられることに鬱屈とした思いを抱えていた。しかしある日、ブルース・スプリングスティーンの音楽を知ったことをきっかけに、彼

          カセットテープ・ダイアリーズ

          偉大なるデスリフ

          フィッツジェラルドを順に…だけれど前々から気になっていた1冊を読んだ。 巨大な幻想の救いがたい虜…、神話が生み出す二次神話…、幻想を引き受ける「責任」というと何か重々しいが、軽快な会話で物語は進んでいく。 ギャツビーが本作ではデスリフであり、デイジーが本作ではアリスという設定。語り手キャラウェイはアルフレッド。 本作ではギャツビーとは異なり、デスリフがアリスを手に入れる…が結婚生活がうまくいかない。 デスリフはしゃべりすぎるし、愚痴を吐きまくるし、全然ギャツビーじゃな

          偉大なるデスリフ

          グレート・ギャツビー

          大晦日の夜より、1年ぶりに長篇小説を読み始め、まるで水を得た魚のようにすらすらと読み終えたのだが、僕(誠心)の過去のnote(2020年11月21日)によると、 https://note.com/seishinkoji/n/n9081e6b3e7d6 今回で『グレート・ギャツビー』を読むのは4回目らしい。 また、本作の刊行は1925年だけれど、書き始めはちょうど100年前の1924年。おぉ…。 さて4回目はどんなことを感じたか…ややネタバレになるけれど書いてみようと思いま

          グレート・ギャツビー

          ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集

          【出版社Webより】 三十代にして迎えた不遇の時代。困窮のなかにあって、その筆致は揺るぎなく美しい。バラエティ豊かな短編小説と秀逸なエッセイ。最後の十年のベスト作をセレクト。 ***** 短篇集『冬の夢』が、『グレート・ギャツビー』に続いていく「プレ・ギャツビー」であるとすれば、本作は『夜はやさし』に続いていく「プレ・テンダー(Tender is the night)」ということができそう。一方、エッセイの方の『壊れる』3部作は、『夜はやさし』の後に書かれた、末期のエッセ

          ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集

          冬の夢

          カーヴァーからフィッツジェラルドへ。 村上春樹訳に関しては、『グレート・ギャツビー』を3回、『マイ・ロスト・シティー』を2回(新訳と旧訳を1回ずつ)、『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』なども読んでいるので、読んでいないものを時系列で読んでいきます。 まずは『冬の夢』から。 【出版社Webより】 天衣無縫に、鮮やかに、痛切に――80年の時を越えて読む者の心を打つ、20代の天才作家の瑞々しい筆致。来るべき長篇小説の原型を成す「プレ・ギャツビー」期の名作五篇をセレク

          私たちがレイモンド・カーヴァーについて語ること

          訳者の村上春樹さんが関わったレイモンド・カーヴァーに関する著述は本当にこれで最後になる(これから刊行されなければ…)。 本書はサム・ハルパートという方がインタヴューし、編集したもの。 まず、このハルパートさんのインタヴューの傾向として、基本的には短いセンテンスで質問し、インタヴュイー(ほとんどがカーヴァーと親交のあった作家、前妻のメアリアン・カーヴァーと2人の子の1人であるクリス・カーヴァー)が多くを語るという点では良いのだが、いささか「〇〇という短篇小説は実際にあった話な

          私たちがレイモンド・カーヴァーについて語ること

          私たちの隣人、レイモンド・カーヴァー

          【著書紹介文(出版社Webより)】 密なる才能、器量の大きさ、繊細な心--。J・マキナニー、T・ウルフ、G・フィスケットジョン他、早すぎる死を悼む作家と編集者九人が、慈しむようにつづる作家カーヴァーの素顔。 ***** 村上春樹編訳の、レイモンド・カーヴァーについてのメモワール。9篇のうちの最後のウィリアム・キトリッジによるものが良かったので、一部を転載しつつ、僕(誠心)が感じたことを最後に書きます。P228~232から、「チェーホフの短篇の引用の一部(※)」→「キトリッ

          私たちの隣人、レイモンド・カーヴァー

          必要になったら電話をかけて

          カーヴァー没後十余年を経て発掘された未発表短篇集。 村上春樹翻訳ライブラリーとしては2008年が初版。 「ビギナーズ」が2010年に刊行されているけれど、これは「愛について語るときに我々の語ること」のオリジナル版であったため、愛について~と併読したため既読(8つ前の投稿)。 つまり、これにてレイモンド・カーヴァーの全作品を読破したことになる。 今回の未発表短篇5篇については、「未発表」であったがゆえに、発表されることに故人はどんな気持ちなのだろうか…ということがよぎった

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