冬の夢
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カーヴァーからフィッツジェラルドへ。
村上春樹訳に関しては、『グレート・ギャツビー』を3回、『マイ・ロスト・シティー』を2回(新訳と旧訳を1回ずつ)、『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』なども読んでいるので、読んでいないものを時系列で読んでいきます。
まずは『冬の夢』から。
【出版社Webより】
天衣無縫に、鮮やかに、痛切に――80年の時を越えて読む者の心を打つ、20代の天才作家の瑞々しい筆致。来るべき長篇小説の原型を成す「プレ・ギャツビー」期の名作五篇をセレクト。
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これまた訳者と好きな作品が異なるのであるが(こういうことが多い)僕が圧倒的によかった(おもしろかった)のは「リッツくらい大きなダイアモンド」。
リッツというのはリッツカールトンのこと。それほど大きなダイアモンドの山を所有する(というのか)富豪についての「おとぎ話」。
5篇それぞれの前に訳者解説が少しだけあるのだが、先にそれを読んでもうてるというのもあるのかもしれんが、始終ブレーキが効かず方々に暴れている印象なのだが、対照的に描写がとても丁寧で美しく、麗しく、かっこよく、これでもかと書き切って進んでいく感じが特異。フィッツジェラルドの技、ということらしい。訳者も訳者でどこをとっても相性抜群ですね。すばらしい。
ところでこれはコメディーなのか。「富裕層に対し批判的と受け取れる」ということで雑誌には掲載されなかったようなのだが。「一生懸命書いたのに…」と落胆しているフィッツジェラルドもよいではないか。
序盤でヘイディス(ギリシャ語ではハーデス、黄泉の国)という町の名前が出てきたり(これは「地獄」を示すことも中盤明らかに)「セント・マイダス校(架空の学校。ギリシャ神話のミダスより。拝金学院といったところ)」が出てきたり、おちょくり具合がじわじわと。
主人公はこのリッツダイアモンド保有者の息子と大学で知り合い、いそいそとついていくところから物語がはじまるのだが、いろいろあってリッツダイアモンドの保有者は窮地に立たされることになる。まぁこのへんからの展開もずいぶんとおもしろいし(思わず吹き出してしまった)、最後までフィッツジェラルド、手をぬきません。
短篇とはいえ90ページぐらいあるのだけど、この1篇を読むためにこの短篇集を買う価値、あります。
ちなみに「プレ・ギャツビー」というだけあって、確かにそれぞれギャツビーの断片断片という印象はある。しかしギャツビーの印象が強烈であるためか、それぞれの印象は僕としてはやや薄い。
…というよりも、今年は短篇小説と詩しか読んでいないので(オブライエンさん、ペイリーさん、カーヴァーさん)そろそろ長〜いのが読みたいというのもあるんだけどね…。
時系列でいくと次が『グレート・ギャツビー』なのだけど、それは記念すべき(?)新年1冊目としてとっておいて、対して「ポスト・ギャツビー」である『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』を先に読もうと思います。(来年は逆に長篇小説しか読まないかも)
今年はきっとそれで読み納めです。
※なお、先月刊行された『フィッツジェラルド10傑作選』に新訳や訳し下ろしはありませんでした。