最後の大君
帯にもあるように、フィッツジェラルド未完の遺作。第六章で終わっているが、第十章ほどまでの構想があったことは、巻末のノート(覚え書き)からも伺い知れる。
時系列で著者の長篇小説を見ると、「グレート・ギャツビー」でピークをみせ、「夜はやさし」、そして本作と、下降を辿っているように僕(誠心)は感じる。
本作の主人公であるモンロー・スターはギャツビーほどの華やかさはなく、ただただ叩き上げのビジネス・マンでありアーティストだ。
キャスリーンへの恋は、死別した前妻を思い出しているし、最後は語り手の父(ブレイディー)にもっていかれてしまっている感じもある。そのあたりに良い意味で人間味を感じさせる男、スター。
スターは医師から体調に関する警告を受けながらも「疲労は時に麻薬」とし、言うことをきかない。最後は飛行機事故でなくなってしまうことになるのだが、最期の描写におけるフィッツジェラルドの思いは強い(本篇は未完、巻末のノートに記載あり)。
自身の不調、前作からの凋落、その状況の中、死の間際までここまで描き切るフィッツジェラルドを僕は賞賛する。
そしてこれを訳出してくれた村上春樹さんにも感謝します。春樹さんの訳はいつも親切であたたかい。
そして今後も僕は人生のシーンで、フィッツジェラルドさんのことを思い出すでしょう。