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フランス語

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アルタニアンのダルタニアン(『三銃士』アレクサンドル・デュマ)

アルタニアンのダルタニアン(『三銃士』アレクサンドル・デュマ)

『三銃士』の原書より。前書きを読んでいておどろいた。

ダルタニアンは d'Artagnan だったのだ。

「ダ」の d は前置詞の de だったのだ。

ダルタニアンは、南仏にある地名「アルタニアンの」という意味だったのだ。

「銃士ダルタニアン」といえば聞こえはいいが、いわば「東京もん」とか「関西人」などと言っているようなものだ。

つまり例えば「私は秋田出身の己斐です」をフランス語で言うと

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苦しみが ぐるぐるめぐる ルサンチマン【フランス語】ressentiment

苦しみが ぐるぐるめぐる ルサンチマン【フランス語】ressentiment

NHKオンデマンドで観ていたら、聞き捨てならない発言があった。

「ルサンチマン」が苦しみを繰り返すという意味なのは、「ル」がついているから?

「ルサンチマン」はフランス語で le sentiment だから、「ル」はただの定冠詞では?

と思って調べてみたら、ressentiment (憤り・嫉妬)だった。

私もだいぶいい加減だ。

確かに接頭辞 re- には「繰り返す」の意味がある。

西

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なんかめんどくせーやつら【インド・ヨーロッパ語族?】〇〇が✕✕でないのは、△△が✕✕でないのと同じだ(ソポクレス『オイディプス王』)

なんかめんどくせーやつら【インド・ヨーロッパ語族?】〇〇が✕✕でないのは、△△が✕✕でないのと同じだ(ソポクレス『オイディプス王』)

エディプス・コンプレックスの由来にもなったオイディプス王の物語より。

オイディプスが、ポリュポスが実の父ではなかったことを知る場面より。

比較級を使った「〇〇が✕✕でないのは、△△が✕✕でないのと同じ」という言い回し、学校ではクジラ構文なんてものを習ったりもするが、フランス語にも似たようなものがあるのね。

ドイツ語にはコウモリ構文とでも言えるものがあることは以前書いた。

というか、この岩波

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愛する者の死は慰めになりうるのか【フランス語】immense allègement(ソポクレス『オイディプス王』)

愛する者の死は慰めになりうるのか【フランス語】immense allègement(ソポクレス『オイディプス王』)

エディプス・コンプレックスの由来にもなったオイディプス王の物語より。

オイディプスは、父親のコリントス王ポリュポスが死んでいたと知って喜びながらも、母親がまだ生きていることが不安だという。

ご存じない方のために念のため説明すると、オイディプスは父母を憎んでいたわけでは決してない。

アポロンに予言された通りに、自ら母親を犯し父親を殺してしまうよりは、父も母も死んでくれていたほうがいい。亡くなっ

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めぞん一刻のレゾン・デートル【フランス語】la raison d'être(『ファーブル昆虫記』)

めぞん一刻のレゾン・デートル【フランス語】la raison d'être(『ファーブル昆虫記』)

家族でも仕事仲間でもないフンコロガシが、赤の他人のフンコロガシの仕事をなぜ手伝うのかをいぶかしむファーブル。

こんなところ、というとファーブル先生に失礼かもだが、フンコロガシの行動についても使えるのである、「レゾン・デートル」は。

いっとき、「アフフヘーベン」とか「ゲシュタルト崩壊」とかいう言葉をサブカル文脈で使うのが流行ったが(いまも?)、「レゾン・デートル」は、なんだかよくわからない動きを

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ないしょ話【フランス語】tête-à-tête(アラン・ディーン・フォスター『エイリアン』)

ないしょ話【フランス語】tête-à-tête(アラン・ディーン・フォスター『エイリアン』)

映画『エイリアン』のノベライズの仏訳版より。冒頭、メンバー紹介が終わり、船に起きた異変についてのミーティングが始まろうとする場面。

本文中の(1)はテキストにある注で、同じページの枠外に "(1) En français dans le texte. "(原文ではフランス語) とある。

つまり、この本は英語の原作を仏訳したものだが、この tête-à-tête (英語に定着したフランス語の言い

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古典の名訳にメスを入れる試み【フランス語】scalpel(『ファーブル昆虫記』)

古典の名訳にメスを入れる試み【フランス語】scalpel(『ファーブル昆虫記』)

名作『ファーブル昆虫記』より。いっぴきのフンコロガシがフンを転がしているところへ、別のいっぴきが途中から手伝いにやってくるのを見て、ファーブルは、労働のあとの分け前はどうなっているのか心配する。

もしかすると、これから新居を構えるカップルなのではないかと考え、解剖してみる(注1)が、多くの場合、同性であることが判明する。

おそらく上の訳文を読まれた方のほとんどが、「メス」を「雌」と誤解されたの

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Tue. (火曜日)という表記を見るたびに、フランス人は死のイメージを抱いたりするのだろうか。

テーベの市民たちよ!フランス人たちよ!韓国人たちよ!中国人たちよ!ドイツ人たちよ!関西人たちよ!【フランス語】apprendre(ソフォクレス『オイディプス王』)

テーベの市民たちよ!フランス人たちよ!韓国人たちよ!中国人たちよ!ドイツ人たちよ!関西人たちよ!【フランス語】apprendre(ソフォクレス『オイディプス王』)

自分が父を殺し、母を娶ったことを知らずに、犯人探しをしている悲劇の王オイディプスは、妻(母)の弟クレオンに謀反の疑いをかける。

apprendre には「教える」と「習う」の意味がある。一つの単語が逆の意味を持つって、ややこしくないか、フランス人たちよ。

しかも不特定の人を表す on を主語にした文は、受け身で訳すこともある。教えたのか教えられたのか、こんがらがらないか、フランス人たちよ。

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ロブスターはエビというよりザリガニ、ザリガニはカニじゃなくてエビ【フランス語】homard

ロブスターはエビというよりザリガニ、ザリガニはカニじゃなくてエビ【フランス語】homard

語彙を増やそうとして観ていた動画の例文。

「オマール海老」って、ロブスターのことだったのか!知らなんだ。

もしかしてこれは、「サハラ砂漠のサハラは砂漠のこと」「チゲ鍋のチゲは鍋のこと」に並ぶ重複表現なのではないか?

と色めき立ったのだが、調べてみると、ロブスターはエビじゃなくてウミザリガニだった。

つまり、ロブスターことオマール海老は「ウミザリガニエビ」だから、重複はしていなかった。残念。

【フランス語】 langue de chat(ラングドシャ)の発音に関する一考察

【フランス語】 langue de chat(ラングドシャ)の発音に関する一考察

ブルボンのプチシリーズの新CMのニュースを見ていて、「ラングドシャ」が気になりました。

まず後半の「ドシャ」のアクが強くて、あまりかわいくありません。de は前置詞ですから、もっと控えめでいいと思います。

 langue [lɑːŋg] も、アクセントは前にありますから、「ラング」と言うより、口を大きめにして、「ロン」くらいがよいでしょう。

代替案として、出だしを強めにして上品に「労働者」と

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『エイリアン 8人目の乗組員』【フランス語】Le Huitième Passager

『エイリアン 8人目の乗組員』【フランス語】Le Huitième Passager

映画『エイリアン』(1979)ノベライズのフランス語版より。

恥ずかしながら、ノベライズというと、家で簡単に映画を見ることができなかった時代(いつの話だ)に、その代替物だったという印象がいまだにある。

メディア・ミックスの歴史を全否定するかのようで申し訳ないが、味気なかったり、世界観を壊すような小説化作品をいくつも読んできたのもまた事実だ。

今作もそれほど期待していなかったのだが、初っ端から

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パスタソースは女性なのか?【名詞】sauce

パスタソースは女性なのか?【名詞】sauce

小説を書くのに下調べや事実確認は必要だが、重要なのは「本当っぽさ」だとスティーブン・キングは言う。

ここで驚いたのは、ちゃんと読めてるのか不安になるが、パスタソースの代名詞に her をあてている点だ。

国や船、車を she と言うことはあるし、ペットに it でなく he や she を使うことはあるが、パスタソースは初めて見た。

調べてみるとフランス語の sauce は女性名詞なので、そ

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ある語学好きの日常〜ア・デイ・イン・ザ・ライフ〜【フランス語】gaffe

ある語学好きの日常〜ア・デイ・イン・ザ・ライフ〜【フランス語】gaffe

さる公務員の失言のニュースを観ていて、ふと英語ではどう報道されているのかと調べてみたら、失言は gaffe と訳されていた。

なんだか GAFA みたいだ。GAFA とは、すでに死語かもしれないので一応説明しておくと、世界で最も影響力が強いとされる Amazon, Apple, Facebook, Google の頭文字を取ったもので、関連書が2019年にビジネス書大賞を受賞している。ほかにもF

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