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いつか小説になるかもしれない小話
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記事一覧

君が死んだ時

 君が死んだ時、俺は泣けなかった

 俺の頭の中には神様がいて、俺は神様の言うことを成し遂げなくちゃいけなかったから、泣けなかった。

 君は男の子で、大学生で、多分苦しい悩みを抱えていて、それまでの過去よりも俺の手をとってくれた男の子だった。

 俺は君の信頼に答えるべきだったけど、答えることは出来なかった。俺はあと一歩のところでやり逃した――いつもそうなんだ。

 君は君の神様のもとに行ってし

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だーくひーろーのはなし。

 むかしむかしあるところに、おとこのこがいました。
 たいそうくるしいめにあっている、おとこのこでした。
 おとこのこは、いつも、からだじゅういたくないところがありません。
 おとこのこは、とてもせまいへやから、でたことがありません。
 なぐられることと、ののしられることのほか、なにもしらないような、おとこのこでした。
 くるしいことしかしらないおとこのこには、けれどそれでも、いっしょうけんめいい

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トライ・アンド・エラー

  昼下がりに兄と一緒に散歩していた。

 すると、視界の端に、トラックに轢かれそうな少女が見えた。

 ――見えたので、おもいっきり少女を突き飛ばし、トラックの間に滑り込む。

 自分の体が、大きな衝撃とともに吹き飛ばされるのを感じ取った。

 中空に放り出された僕の視界には、真っ青なパーカーを着た兄が、悲鳴を上げるのが見えていた。

 まぁ、どうでもいいことだ。

 どうせいつもの、ことなのだ

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棘ある薔薇と、絵を描かない画家の話

「あたしの絵を描いて」

 ――彼女がそう言った時、僕は、まるで星の王子さまみたいだな、と思った。

 机の上に広げていた、数学のノートを閉じる。

「……悪いけど、そこまでうまくないんだよ。」

 少しだけ間を置いてから、僕は彼女にそう言い聞かせた。

 星の王子様に、絵心がないんだといった、飛行機乗りみたいに。

「でも、いつも一杯描いてるじゃない。いいでしょ。一枚ぐらい。」

 傲慢に笑う彼

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砂糖菓子の地獄

 月がきれいだったので、家出した。

 ……脈絡がないが、そうとしかいえない。

 突如としてどこかに逃げ出したい気分に駆られ、気が付けば兄に出ていく旨を告げて、電車に飛び乗っていた。

 空はよく晴れていて、家出には絶好の日和だった。ナップザックを背負って家出って年でもないし、俺は学生どころか童貞ニート三十路間近なのだが、ともかく俺のような屑にはもったいないぐらいの門出だったと思う。

 家族に

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理想の家に君はいない

 梅雨に入りたての、夕暮れだった。

 雨が降っているのを、保健室の窓からそっと眺めていた。

 コンロで沸かしたヤカンが、沸騰したのを知らせる、甲高い音を立てたのにきづいて、火を止める。

 ガラスでできたコーヒーサーバーに、お湯を注いでおく。器を温めておくだけで、味がだいぶん違うものだ。余計な苦みが少なくなる。少し温めてから、お湯を捨てて、ドリッパーと、コーヒーフィルターをセットしてから、コー

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ねこのはなし

 昔、猫がいました。

 猫は誰の飼い猫でもありませんでした。

 猫は生まれつき、自由という贈り物を与えられていたのです。

 

 その代わり、猫は誰かとずっと一緒にいることができませんでした。

 猫は自由の代わりに、孤独を支払う決まりになっていました。

 誰が決めたのかはわかりませんけれども、とにかくそういう決まりだったのです。

 猫は、それを寂しいとは思いませんでした。

 生まれて

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アクア・ルーム

 水の音がして、俺は目を覚ます。喉に何かが詰まったような心地になる。ここで目が覚めたときはいつもそうだ。

 天井を見上げれば、真っ青な水面が目に映る。天井から床まで、すべてがガラス張りの部屋のまわりを、深い水と、色とりどりの魚達が泳いでいる。

――また夢のなかに来たのだ、と静かに思う。

「おはよう。ハーブティーはいる?」

 明るい無邪気な声が届いて、俺は横たわっていたすみれ色のソファの上か

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プレシオスの鎖

ふと、目を覚ました。夢を見ていた、と思う。大切なものを失くす夢を。

そこで、ソファの上で眠っていたことに気が付いて、立ち上がる。

 そのまま、眠るために寝室に向かえば、彼女が窓のそばで本を読んでいた。

 「なにをよんでいるの?」

 「星の王子さま。――彼、貴方みたい。」

 小さな硝子のショーケースの隣に腰かけた彼女は、そういって笑って、真っ青な表紙の本を閉じた。透き通った白い膚を包む、真

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女の子と男の子とお兄さん

女の子と男の子とお兄さん

 むかしむかし、女の子がいました。

 しゃべるのが下手な、女の子でした。

 そうして、本が好きでした。

 女の子は、とにかく本が好きでした。本の中の人たちが好きでした。本の中の人たちは皆かっこよくて、暴れん坊のクラスの男の子たちとは違って気が利いているし、親切だし、心が強くて、悪いことをしていても、いいことをしていても、とにかく自分なりの筋を、ぴいんととおしていましたし、色んなことを知ってい

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君の値段

君の値段

「――俺の命を、十億円で買ってくれないか。」

 目の前の彼がそう言いだした時、ついに頭のねじ外れたかと思った。そのあとで、あ、こいつ元々ネジなんぞはいってなかったわ、スポット溶接してるんだったわ。と謎の完結を見せたのが二秒後だった。

 窓を見れば、外では雪がしんしんと音もなく降り積もっている。

「そんな金、あると思うのか。」

「思わないが。」

「だったら聞くなよ。くだらない。――っていう

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