石楠花 直

どっぷり昭和の売れない物書き屋だす。 本にならなくても多くの方に作品を読んでいただきたく登録しただす。 宜しくお願いしますだすなー。

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マガジン

  • KIZUNAWA

  • 石楠花直のものがたり集

    石楠花 直(しゃくなげなお)です。 子どもが主人公の小説を書いてみました。クリエータの皆さん是非読んでください。

  • 天国へのmail address

  • 『野菜大王』と『文具大王』

    細かく投稿した小説をマガジンにしてみました。是非一話からお楽しみいただけると幸いです。もうすぐ最終回になります。

最近の記事

【小説】KIZUNAWA㉚        2区 失速・テツよしっかりしろ!

 哲夫はゼッケンのピンを外していた。 (哲夫! 君は、責任感が強いから、何時も無理をする癖があるぞ。辛かったら仲間を頼って良いんだぞ。三キロを舐めるなよ。頑張れ! 中村哲夫!) 茉梨子の文字に哲夫は笑いながら頷いた。そして「分かっているんだけどなー」と心で呟いていた。   豊は胸から襷を外した。息が切れ、今にも足がつりそうで苦しい。しかし、どんどん近づいて来る哲夫の姿に力が湧いていた。 豊のスピードに合わせて哲夫がスタートを切る。 「頼む!」 叫びながら豊は倒れ込んだ。二

    • 【小説】KIZURAWA㉙        号砲・1区

       全国放送のテレビ中継がオーロラビジョンに映し出され、進行役のアナウンサー藤田(ふじた)の声が大型のスピーカーからスタジアムに響き渡った。藤田アナは、夕方のニュースで原稿に頼らずに、自分の言葉で語るメッセンジャーとして有名であり、その事がSNSで話題にもなっている。 「朝方に比べますと柔らかい風が感じられる様になりました京都市内です。午前に行われました女子のレースでは、千葉県代表の東部台千葉高等学校が初優勝をいたしました。この後、男子のレースが始まります。スタートまで五分を切

      • 【小説】KIZUNAWA㉘        それぞれのスタジアム

         クリスマスを目前に控えた祝日。京都の空に日が昇り始めた。やがて空は透き通る様に青く澄んだ朝を迎えていた。    上田北高等学校吹奏楽部を乗せた大型バスは、名神自動車道を東に向かって走っていた。吹奏楽部は前日に大阪で行われた全国高等学校吹奏楽コンクールで銅賞に輝き、上田までの帰路に着いていたのである。顧問教諭の荻原賢治(おぎわらけんじ)は、流れる車窓を見ていたが急に立ち上がると運転手に言葉を掛けた。運転手は軽く頷くと左方向へウインカーを出し桂川パーキングエリアに進路をとった。

        • 【小説】KIZUNAWA㉗        中田家の大会前夜

           中田の家では言葉のない静かな食卓を囲んでいた。明日香の元気がなくなって以来、毎日の夕食から言葉が消えていたのだ。中田は夕食が済むとゆっくりと切り出した。 「明日香! お爺ちゃんが今お世話をしている、長野県代表の上田北高校が高校駅伝全国大会を走るんだよ」 「フーン。それがどうかしたの? 私には関係ないもん」 明日香は自分の殻に閉じ籠り、聞く耳を持たない。 「そのチームに西之園達也さんと言う選手がいてね、この方は明日香と同じ様に全盲の選手なんだよ」 「えっ?」 「西之園さんも小

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        記事

          【小説】KIZUNAWA㉖        桜井さんの大会前夜

           桜井は、逞しく成長して行く達也を見つめていた。仲間を信じて胸を張る達也と包み込む仲間たち、そして三人の指導者に達也は守られている事を確信した桜井はレセプションルームを後にした。そんな桜井に声を掛けて来たのはホテルの女将、日葵(ひまり)であった。 「桜井さんお疲れではありませんか?」 「ありがとう存じます。女将さんは?」 桜井がそう答える。サービスのプロ同士の挨拶は分かりにくい。『今日の仕事は終わりましたのでお先に上がります。そうですか、お疲れ様でした。私も上がります』会話の

          【小説】KIZUNAWA㉖        桜井さんの大会前夜

          【小説】KIZUNAWA㉕        上田北高校の大会前夜

           京都雅グラウンドホテルのレセプションルームでは大会前夜のミーティングが行われていた。 「いよいよ明日が決戦の日です」 集まった駅伝部と学校のサポートメンバーに加えて、仲長、藤咲を中心に五人の上田市陸連のメンバーが揃い、一同を前に宮島が語り出した。 「……」 一同はその一言一句に集中していた。 「色々な試練を乗り越えて良くここまで頑張ってきましたね。しかし、まだ君たちは夢の途中にいます。前代未聞と言われた君たちの挑戦は、明日が本番です。でもそれは、君たち自身が決めた事です。や

          【小説】KIZUNAWA㉕        上田北高校の大会前夜

          【小説】KIZUNAWA㉔         大会前日

           四人がホテルに到着するとロビーに仲間の姿があった。 「早かったのね」 茉梨子が駆け寄って行った。 「いよいよだと思うと緊張して来たよ」 雅人が茉梨子を迎え入れながら呟いた。 「達ちゃん! これ気持ちいいから触ってみ」 太陽が豊の頭を撫で回して達也の手を豊の頭に持って行った。 「本当だ! ジョリジョリしてくすぐったい」 達也も笑った。豊はされるがままに立っていた。 「私は、玩具ではないのだよ」 真面目に独り言の様に呟いた。 「そうだよ! 空気抵抗を考えて、少しでもタイムを縮め

          【小説】KIZUNAWA㉔         大会前日

          【小説】KIZUNAWA㉓        都大路その3 手紙

           翌朝ホテルのロビーには中田が待っていた。 「おはようございます。今日のご予定は?」 中田が茉梨子に聞いた。 「スタート地点で襷リレーの練習をして、午前と午後一本ずつコースを走ります」 「昼食は何方で取られますか?」 「僕、新井金毘羅神社で食べたい!」 「達ちゃん我がまま言わないで」 茉梨子が達也の頭を突っついた。 「かまいませんよ」 中田は笑っていた。  中田の運転するワゴン車で第五中継地点に降りた三人は、一旦ホテルに戻ると言う中田を見送ると襷リレーの練習を始めた。一〇〇メ

          【小説】KIZUNAWA㉓        都大路その3 手紙

          【小説】KIZUNAWA㉒         都大路その2 金毘羅様

          見送った三人はゆっくりと歩き出した。 「少し喉が渇いた」 達也が言い出したのは六区のコース内にある神社の近くであった。 「少し先の神社で休憩しようか」 茉梨子の提案に二人は頷いた。と言うより魔女にこびを売る姿にも見えた。   中継所から一キロ弱歩くと大通りに面して大きな赤い鳥居がある。境内は通りから奥まったところにあり、高い木々に囲まれ、夏には木漏れ日で幻想的な涼しさを醸し出す静かな場所だった。 太陽は茉梨子をベンチに座らせて達也と少し離れた自動販売機へスポーツドリンクを買い

          【小説】KIZUNAWA㉒         都大路その2 金毘羅様

          【小説】KIZUNAWA㉑        いよいよ都大路へ

           達也と太陽そして茉梨子は桜井が運転する車で京都に向かっていた。二泊三日の京都合宿は雅人の提案だった。宮島先生に無理を言って三人だけ前泊の宿を取ってもらったのである。と言っても結局倉田女将に頼み込んで上田北高がキャンプを張る京都雅グラウンドホテルに無理を承知でお願いしたのが現実だった。早朝の上田を出発すると桜井の優しい運転で茉梨子以外の車中は夢の中だ。京都に着いたのは正午を少し回った頃だった。京都雅グラウンドホテルに着いた一行はびっくりするほどの豪華ホテルにやや緊張していた。

          【小説】KIZUNAWA㉑        いよいよ都大路へ

          【小説】KIZUNAWA⑳        吉本ノートが伝えたかった事

           月曜日の放課後だった。 「西之園に頼みがある」 突然言い出したのは優生であった。 「なあに?」 「疲れているとは思うけれど居残り練習に付き合ってもらいたい」 「居残り練習?」 「襷リレーの練習がしたいんだ。俺、どうしても不安で」 「分かった。僕も自信がなかったからお願いします」 事実、達也と太陽も不安であった。  達也たちは、ロード練習終了後に学校へ戻った。照明灯の下で優生たちは、まだ走っていた。達也の姿を見つけた優生が駆け寄って来た。 「悪いな! 西之園は走らなくても良い

          【小説】KIZUNAWA⑳        吉本ノートが伝えたかった事

          【小説】KIZUNAWA⑲        休日・上田市陸上連盟

           限られた時間は残り一週間になっていた。駅伝部部員とサッカー部・陸上部の部員に集合が掛かったのは金曜日の放課後の事である。 「明日の土曜日は駅伝部の練習を休みにします」 宮島は村田の了解を取ったうえで部員に告げた。 「休んでも大丈夫でしょうか?」 雅人が不安そうに聞く。 「張り詰めた糸は切れやすいものです。残り一週間です。心と体を休めて日曜日から再開します」 宮島は雅人の肩に手を置いて「君たちは頑張り過ぎです」と言った。 「それと、京都入りは木曜日にします。現地コースを二日間

          【小説】KIZUNAWA⑲        休日・上田市陸上連盟

          【小説】KIZUNAWA⑱        牛丼の戸沢家・無口な親仁の一言

           戸沢家の店内は静まり返っていた。白いコックコートに黒のエプロン姿の親仁はやはり無口で腕を組んで窓の外を見ていた。「京都に戸沢家さんはないからね」遠くに、キコキコキコ、茉梨子の自転車は何時もの声を響かしていた。 「あの子たち、全国高校駅伝競走大会に出場するんだって」 「……」 「長野県予選でキャプテンを失って、諦め掛けた出場を救ったのが視覚障がい者の彼なんだってさ」 「……」 「凄いよね? 諦めないで襷を繋げられると良いね」 久美子は叔父の隣で独り言の様に呟いた。 「……」

          【小説】KIZUNAWA⑱        牛丼の戸沢家・無口な親仁の一言

          【小説】KIZUNAWA⑰        京都のコースをイメージしろ

           ロード練習初日の夜、達也たちが家に戻ると窓から明かりが漏れていた。「桜井さんが帰ってきているよ」 太陽が達也の肩を叩いた。 「本当?」 「照明が点いているからね」 二人が玄関を開ける。 「ただいま!」 元気に叫ぶ。 「お帰りなさいませ」 桜井の優しい声が帰って来た。 「今日の夕食はハンバーグでございます。もう少し時間が掛かりますので先に入浴を済ませて下さい」 桜井はそう言うとフライパンのふたを一度持ち上げた。とたんに辺りは美味しい香りに包まれた。 食事が終わると桜井は四角い

          【小説】KIZUNAWA⑰        京都のコースをイメージしろ

          【小説】KIZUNAWA⑯        ロード練習開始

           横川と原子は河山駅前にいた。駅前交番では八木巡査が腕を組んで彼らを見据えていた。 「原子!」 横川はバイクのエンジンを切ってヘルメットを取ると言った。 「どうした?」 原子もヘルメットを脱ぐ。 「今年のクリスマス、京都に行かないか?」 「ツーリングか、京都は遠いぞ」 「ああ、だから」 「メットを改良しろってか?」 原子はヘルメットを軽く叩いていた。 「出来るか?」 「無線を繋いでスマホに連動させれば、走行中の会話は簡単だしナビも共有出来る」 「難しいかな?」 「簡単だよ。い

          【小説】KIZUNAWA⑯        ロード練習開始

          【小説】KIZUNAWA⑮         護られなかった正義

            校長室でそんな攻防や宿の問題で教師たちが奮闘していた事など駅伝部員たちは知る由もなかった。達也たちは引田からもらったテザーの長さを一〇センチメートルに調整してトラック練習を続ける。 テザーの長さが一〇センチメートルより短くなると失格になってしまう。だからと言って長くすると達也と太陽の息が合わなくなる。そこで走る時は一〇センチメートルに、それ以外は最大の五〇センチメートルへと調整する事にした。新しいテザーはストッパーが付いていてその調節が容易に出来る優れものであった。茉梨子

          【小説】KIZUNAWA⑮         護られなかった正義