悼む色は赤 「人を殺すより簡単【前編】」
子供の頃から、誕生日が嫌いだった。誕生日になると陽のある内しか外へは出られない。陽がない時間に外へ出てはいけない。イノリはそれが嫌だったし、怖かった。日がぽっかりと暮れた誕生日。家の低い門扉の前に、女が立っているのだ。その女は街灯かと見紛う程に、異様に背が高い。顔の三分の二を占める大きな目も異様だった。女はイノリに向かって、間延びした声で言う。
「お母さんだよぉ お前は拾われた子だよぉ お母さんが迎えに来たよぉ」
それは絶対に自分の母親ではない、とイノリには分かってい