ホコリの中のクソ野郎 リー(Mother fxxker in Dust, Lee)
※R-15程度の残虐な表現があります
グシャ……グシャ……。
カラスも鳴かぬ丑三つ時、薄暗い裏路地で重いサウンドが鳴り響く。
引き締まった上半身に黒いイバラのタトゥーを入れた禿頭の男が、倍は体重がある巨漢相手にマウントポジションを取っている。
執拗に食らわすパウンド。十カウントを取る者はこの場にはいない。
巨漢の顔面はさながら潰れたトマト。光の消えた目が映すは走馬灯か。
殴ることに飽きたかマウントを解除。屍とかしつつある男の側頭に止めのサッカーボールキック。壁に激突しバウンド。地面にしみる血。
「ダボが、手間かけさせやがって」
亡骸を漁り半分赤く染まった封筒を奪い、その場を去る男。
残されたのは異常なほど非情な暴力の跡。しかし朝になればカラスやネズミが綺麗サッパリ消し去るだろう。
ここは脛に傷のある者が集まる無法地帯、通称〈ホコリ〉。
驕った間抜けの行く末はボロ雑巾めいた惨めな遺体。
悪意が錯綜するこの街では、足をすくわれた迂闊者から脱落してゆく。
敗者復活はないこのゲームで生き延びる術は二つに一つ。
敵を穿つか奴隷となるか。
神も仏も裸足で逃げ出した天獄と地獄の間の牢獄。盲目の法師が悲しみを嘆き、人は愚かと悪魔が乾杯。
今日もまた地獄に落ちてゆく新しい魂。哀れな悪党の詩を覚悟して聞け。
◆
裏路地からそう遠く離れていないボロビルの三階、〈黒菊会〉の事務所に三人の男。
入り口扉の脇で仁王立ちしている童顔。窓際の事務デスクの裏で座っている目付きの鋭い眼鏡。そして、上半身を返り血で染めた禿頭。
眼鏡はデスクの上に置かれた封筒を手にして中身を確認。
開けた引き出しに無造作にしまい、代わりに札巻を取り出してデスクに放った。
「ご苦労。とっとけ」
「うい」
禿頭は怒りも喜びもせず、つまらなそうに札巻を掴みジーンズのポッケにねじ込む。
「今日はもう終わりですか?」
「ああ」
「なら帰りますわ。もう夜も遅いんで」
「ああ……おい、リー」
禿頭/リーが振り返る。
「なんですか?」
「外出るときゃ上着ろ。目立つじゃろがい」
「ハンマーの兄貴、そりゃ余計なお世話ってやつですわ」
童顔が扉を開け、立ち去るリー。
「ボケカスが……」
眼鏡/ハンマーの憎々しげな独り言は事務所内に蔓延するドス黒いアトモスフィアに溶けて消えた。
◆
ロクな家具がない狭く質素な部屋の中、粗末なベッドに寝ている女とリー。ずれたシーツの下から覗く女の裸体は艶めかしい。
カーテンの間から差す光が目にかかる。顔をしかめるリー。
シーツを跳ね飛ばして起き上がり、怒りに身を任せてカーテンを引きちぎる。騒動に気づいた女が目を擦りながら起床。
「んん……どうしたの?」
「ああ? なんでもねえよ」
「あっそう」
リーは部屋の隅の簡易冷蔵庫からビール瓶を取り出して、直接一気に煽った。
「私も飲んでいい?」
「自分で取れよ」
女は一瞬だけムッとした表情を作ったものの、言われたとおりに自分で取り出した。
「そろそろ私は帰るから、忘れる前に料金払ってもらえる?」
「そこにおいてあるから持ってけ」
「あら、いいの? ちょろまかしちゃうかもよ?」
「そしたら殺すだけだ」
「冗談よ……それじゃ、ピッタリもらってくから。ねぇ、次もまた呼んでくれる? あなたのこと気に入っちゃったかも」
「気が向いたらな」
「ええ。大抵はいつも同じところに立ってるから。それじゃ、またね」
女は男を誘うために作られた服を身にまとい、部屋にそぐわない真っ赤なヒールを履いて部屋を後にする。
リーはけだるげな表情で空になったビンを窓の外から投げ捨てる。
外で野良犬が吠える。
〈ダスト〉の空と同じ灰色のカーゴパンツをはきおえたタイミングで携帯電話が鳴った。
「起きてたか?」
「はい。仕事ですか?」
「喧嘩じゃい。得物持って事務所に来い」
切れる電話。凄みのある表情に変化。餌を前にした獣のように舌なめずり。
部屋を見渡し、女の飲んだ瓶を手にすると、烈火のごとく部屋を飛び出した。
◆
リーが事務所を訪れたときには、昨夜の二人以外に五人の血気盛んな若衆が集まっており、どいつも神経質そうに手に持った獲物を弄んでいた。
まず昨夜もいた童顔がリーに気づいた。
「兄貴、リーが来ました」
「おう、来た……? なんじゃそのビンは」
「あん? これは得物ですが」
「それがか? ……得物ちゅうたら──」
事務デスクの縁に勢いよく叩きつけられるビン!
弾け飛ぶ破片。突然の出来事に童顔は顔面蒼白。
周りの者も息を呑み身体を固くする。
顔色一つを変えないリーとハンマー。
またたく間に一触即発のアトモスフィア。
「……こりゃなんじゃ」
「いえ、使い物になることを証明しようと思いましてね。どうですか?」
「わりゃ、いちびるのもええかげんにしとけよ。おお?」
「……なにがですか? 俺、何か間違ったことしとりますか? 兄貴が得物もってこい言うから、俺はステゴロが一番得意ですけど、兄貴の顔立てな思ったんで使えそうなの持ってきたんですけどね」
二人の間でバチバチに飛び散る火花。リーの背中のイバラが震える。
先に緊張を解いたのは兄貴分のハンマー。
「……ッチ、後で掃除しとけよ」
「うい」
「よし、全員聞け。今朝、うちの〈栄養士〉がうちのシマでバラバラにバラされていた。ご丁寧に死体の脇には爆玉愚連隊からの手紙が添えられとったわ。──おう、ペトラ。これを皆に聞こえるように読み上げい」
ハンマーが紙をデスクの上に投げた。童顔/ペトラがそれを拾い上げた。
「はい。読み上げさせていただます。『拝啓、黒菊会のボンクラ諸君。俺たちからのプレゼントは気に入ってもらえたかな? それともショッキングすぎてブルっちゃったか? まあどっちでもいいんだけどよ、そろそろあんたらのシマをいただこうと思ったんだよね。俺たちのほうがうまく使えるって話よ。で、手始めに工場をいただくことにしたからさ。同じようになりたくなったらさっさと事務所畳んでね-。アデュー。爆玉愚連隊より』以上です」
「ワシらも舐められたもんよの……」ハンマーの額に血管が浮き出る。「……あのクソガキ共!」
ハンマーが金槌をデスクに振り下ろす! 真ん中から真っ二つに割れるデスク。
「舐められてますね、それでいつまで俺達はこうして手をこまねいているんですか?」
「今、若いのにボケ共の巣を探させとるとこ──」
一人の若衆が勢いよく入ってきた。
「兄貴! 奴らのアジトがわかりました!」
「おっしゃ。いっちょ、血の雨降らせにいくかのう! 一人残らず皆殺しじゃ!」
「そうじゃ!」「ぶっ殺してやる!」「黒菊会舐めんなよ!」
金槌片手に立ち上がるハンマーに呼応するように殺気立たせる若衆たち。
◆
夜は多くの人で賑わう繁華街も、昼前となれば行き交う人の姿はなく閑散としている。
毎晩、愛やぬくもりを求める奴らが訪れる〈プロミネンス・ラブ〉も営業時間外。普段なら野良犬一匹近寄らない。
しかし今、怒れる〈黒菊会〉の面々が店先で殺気を放っていた。
「ここで間違いないんじゃろな?」
「はい、信頼できる情報筋がいうには、この店の奥に〈爆玉愚連隊〉の事務所があり、暇している奴らがタムロしているとのことです」
「ほうかぁ……おい、派手にやれやぁ!」
「応!」
ガラス扉に叩きつけられる消火斧。愚か者共に鉄槌を下さんと鈍器や刃物を手になだれ込む若衆たち。
「おーおー、元気だねえ」
「お前もはよ行かんかい!」
「へいへい。ま、兄貴はゆっくりしててくださいよ」
ゴキゴキと首と肩を回し、ガラスを踏み鳴らして赤いカーペットの敷かれたエントランスに踏み入れる。突き当りの扉は若衆によりすでにこじ開けられている。奥から罵声怒声、様々な破壊音のアンサンブル。
「楽しんでるねえ……ああ、そうだ」
廊下の途中で立ち止まり、尻ポケットからカラフルな錠剤をいくつかつかみだしてラムネのように噛み砕く。
しだいにバッキバキに見開かれるまぶた。反比例して細くなる瞳孔の中に煌々と輝く怪しい光。
その時、廊下に面するトイレから慌てた様子で駆けてくるチンピラ。粉々に破壊されたガラス扉と奥の騒動を見て信じられないといった様子。
のんきに手を挙げて挨拶をするリー。
「よー、邪魔してるぜー……へへ」
「な、なんだてめ……ク、〈狂茨〉!?」
「あー? お前こそなんだよ」
「クソッ……死ねッ!」
勢いよく振り下ろされる警棒。素早くダッキングして避けるリー。
「おー、あぶねーじゃん」
気味の悪い笑みを浮かべながら、チンピラの手首を乱暴に折る。上がる悲鳴。
「ッるせーッ!」
悲鳴を上回る声量で怒鳴り、手に持ったビンの割れた先をチンピラの横っ腹に何回も何回も突き刺す。刺す、刺す、刺す。
サク、サク、サクと軽い音と、チンピラの人間が出しているとは思えないうめき声が続く。リーは腹がズタズタになるまでひたすら刺し続けた。
最終的に大人しくなったチンピラ無造作に床に落とし、追加で止めのストンピング。割れた頭と飛び散る脳がスイカを連想させる。
「つかいにきーなこれ……。あ、それ貸してくんね?」
笑顔で割れたビンを死体に突き刺し、変にねじ曲がった手から警棒をもぎ取る。
情緒不安定なリーは、新しい得物で肩を叩きながら次の獲物を探しに奥へ向かった。
◆
「何だこりゃ」
リーのつぶやきに答える者はいない。死体は語らない体。
メインホールの中、高そうな赤いソファと大理石で作られたテーブルは、ミキサーにぶち込んだかのように切り刻まれている。
死屍累々たるありさま。人体の一部であった肉片がそこら中に散らばっている。さながらキジルシアートの展覧会。
「はしゃぎすぎじゃん? 俺の分は?」
拍子抜けしたようにつぶやくリー。足元に転がっている切り離された足先を蹴っ飛ばす。
「あら……まだ残ってた」
「あー?」
大部屋の反対側、スタッフ用の扉から隻眼の女が姿をあらわし、リーを見て首を傾げた。長い黒髪が揺れる。
人の背丈ほどもある赤く染まった鎌を右手一本で持ち、左手にはペトラの生首──断面から滴る血。
白いウェディングドレスとドレスに飛び散っている赤い血と肉片が違和感を感じさせる。
「なかなかイカれたネーチャンじゃねーか。一晩いくらだ?」
「下品ね。これだから男は嫌いなの」
「お高く止まってんねー、いいよいいよ。面白くなりそうじゃねーか」
「あいにくだけど、仕事だから楽しむ暇はないの。懺悔は地獄でしなさい」
「そりゃ残念……ッ!」
女が生首を投げつけた。リーは首を傾げて避ける。
ゴミが散らばる床を烈火の如く駆けぬけて距離を詰め、電光石火の早さで鎌を水平に薙ぐ。リーは足の力を抜いてしゃがむ。鎌が頭をかすめる。
足のバネの力で跳ね上がりアッパーの要領で警棒を振り上げるが、顎をとばす前に女が大きく後方に飛んだ。
「まさかアレを避けるなんて、驚いたわ、見た目ほどボンクラではないってことかしら?」
「ニンジャ見てーな動きだな、おい。驚いて覚めちまったよクソッ……ヤクが足んねえな」
「ならそのまま死んじゃってくれない?」
「うるせえぞ。ちょっと待ってろ」
リーはドラッグを取りだしてくちに入れようとしたが、突如、足元に転がっていたソファを掴んで身体の前へ掲げた。そこに突き刺さる手のひら大の三枚刃の手裏剣。
再び距離を詰めようとする女。だがリーが先にソファを勢いよく投げ飛ばした。
が、女は勢いを殺さずソファに飛び乗って高く飛翔。落下の勢いを鎌にのせて致命的な一撃を繰り出そうとし……消えたリーを目で探した。
生じるわずかだが致命的なスキ。この一瞬が運命の分岐点。
「へへ、やっぱニンジャじゃん」
いつの間にか女が足場にしたソファの影にしゃがんでいたリー。手には三枚刃の手裏剣。
サメのように笑い、宙に浮かんでいる的めがけて投げた。
女は空中で体制を変えながら、とっさに鎌でガードしようとした。……が、間に合わず右腿に突き刺さる手裏剣。押し殺した悲鳴。自らの血で更に赤く染まるドレス。バランスを崩し調度品の残骸に背中から落ちる。骨の折れる音。
「あったりー!」
リーは拳大の大理石の破片を掴み、ガラクタを蹴飛ばしながら距離を詰める。倒れている女に拳ごと破片を叩きつけにいくが、素早く後転した女の蹴り上げが阻む。
思わぬ反撃に無防備になるリー。後転の勢いを利用して鎌を振る上げる女。リーは反射的に距離を取ろうとしたが間に合わず、左手首から先が飛んだ!
怪獣のような雄叫び。浮かぶ苦悶と憤怒。リーの苦し紛れだが鋭い前蹴りが浅くヒットし吹き飛ぶ女。
「ガアア! クソッ! クソッ! やりやがったな! クソアマッ!」
罵声を呪詛のように吐き出し、カーゴパンツから抜いたベルトを左手首にキツく巻きつける。ポケットというポケットに荒々しく右手をツッコミあらゆるドラッグを掴んでは口に放り入れては噛み砕く。だんだんと焦点がブレ、怪しい光が灯る。
女は怒りを爆発させた鬼のような表情で立ち上がり、腿に突き刺さっている手裏剣を抜き捨てる。鎌を握りしめる両手に浮き出る血管。ピクつくまぶた。
「よくも……よくも! 殺す! 生きたまま一寸刻みでバラバラにしてやる! チクショウ! 惨めに首だけにして飼ってやる! 死ね!」
「痛エよ……クク、クヒヒ。手が痛えんダよ……血も止まらねえしヨウ。クソッ! なんで左手がネえんだよ……? あー? お前も、なンで片目がなインだよ。ヒヒヒ、メチャウケる……」
支離滅裂なことを口走りにらみ合う両者。渦巻く狂気と殺意。黒と赤。フロアの危険指数が跳ね上がる。
先に動いたのは女。
◆
左右に高速移動しながら接近。怪我をもろともしない機械めいた動き。
呆けているリーの左側から胴体を真っ二つにする横薙ぎ。怪我のせいか怒りのせいか、精細を欠いた斬撃はスウェーでなんなく回避。
「へへ……第三ラウンド。カーン」
リー、素早く体勢を戻し、恍惚の笑みで右ボディブローを繰り出す!
女、鎌の柄でガード。鎌から右手を離して手裏剣を投擲!
グサリとリーの胸に刺さるが、ヤクザは意に介さず左後ろ回し蹴り! しゃがんで避ける女。鎌を構える両手に力がこもる。
が、先にリーが裏拳の要領で左腕を女の顔面めがけて振った。飛び出す大量の血。目潰し!
視界を奪われた女、一瞬の状況判断で鎌を下段で固定し、その場で回転!
反応の遅れたリー。後ろに跳ぶが、凶刃が右脛に掠る!
「ッ……」
「ソコカァ!」
リー、更にバックステップ。
女は相手のかすかなうめき声を聞き逃さない。たっぷり三回転し、遠心力を乗せた鎌を投擲! 飛来する鎌はさながら円盤のよう。
「グァッ!」
鎌の柄がリーの土手っ腹を強打! 肋骨の折れる大きな音。吹き飛ばされ、ガラクタを巻き込みながらカーペットの上を壁まで滑っていく。上半身に無数の生傷。吐き出される錠剤混じりの吐瀉物。
女はドレスの袖で目を拭いて視界を回復。髪が貼りついた顔の奥の目は暗い。鎌を拾い、先端でカーペットを裂きながらゆっくりとリーのもとへ向かう。
「ハァ、ハァ、もういい、もうたくさん。お遊びは終わり、よ……」
転がっているリーの左手を足で踏み潰す。
「馬鹿なチンピラと、弱小ヤクザを殺す、痛、だけの、楽な仕事だって、聞いたのに……ッ!」
上半身を起こそうとしていたリーの顔を蹴り飛ばす。仰向けに倒れたリーの胸の傷にシューズのヒールのカカトを差し込み楽しむようにえぐる。
「どう、痛い? 死にたい? なにか言ったらどう?」
女はリーのひたいに鎌の先端を突きつける。リーは力の入らない血まみれの手で女の足を掴んだ。
「ヒ……一つ教えといて……やるよ」
「なにかしら」
ゴミを見るような目で鎌を上段に振りかぶる女。絶体絶命の状態だが、口の端に赤い筋作りながらリーは笑った。
「──どれだけ小さい組でもな……怖いぜ、ヤクザは。へへへ……」
メインホール内に響く軽い破裂音。女の額から飛び出る凶弾と脳と血。プツリと目から光が消え失せ、うつ伏せに倒れる。下敷きになるリー。
血の匂いに顔をしかめつつ、リーを見下ろす人影。ハンマーだ。手に持った拳銃の銃口から白い煙の筋が立ち上っている。
「おーおー、派手に暴れてくれたのう。まさか〈六月の花嫁〉まで殺っちまうとはのう。ええ女じゃったのに惜しいのう」
リーは片手でなんとか女の骸をどかして上半身をあげ、壁にもたれかかった。視線はうつろだが、自室でくつろいでいるような穏やかな表情。呼吸に合わせ胸が浅く上下する。
「……ドタマぶち抜いたのは、兄貴じゃないすか」
「いやいや、やったんはリー。お前じゃ。ほんま、ワレは役に立つ男じゃのう。こりゃなにか報酬をやらんとな」
リーに向けられる銃口。ニヤリと笑うハンマー。
「面白くねえですよ」
「ほうか? なら──死ねや」
ありったけの銃弾をぶち込むハンマー。跳ねる拳銃。リーの体に開く五つの穴。荒々しく血の花が咲く。
最後に小さくうめき声を上げ、リーは事切れた。
ハンマーはリーを足蹴にし、懐から携帯電話を取り出して耳に当てる。
「──ああ、どうも、ハンマーです。ええ……終わりましたわ……ええ……全員……ええ……今から向かうんで後始末のほうは……」
ハンマーは立ち去り、完全なる虚無が場を包み込んだ。