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『「いいね!」戦争』を読む(6) 「市民レポーター」に敬意を表する件

▼前号では、『「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』の第3章から、3つのキーワード、「クラウドソーシング」「市民レポーター」「オシント革命」を取り出した。

今号は「市民レポーター」について。適宜改行。しかし、2019年6月29日現在で、まだカスタマーレビューがついていない。不思議。

▼「市民レポーター」というのは、「命がけ」の場合がある。

ソーシャルメディアを使って、既成メディアが報道してもカネにならないと考える地域を取り上げる〉(114頁)人もいれば、〈報道するには危険すぎる場所のニュース〉(115頁)を取り上げる場合もある。

前者の場合は、ペンシルベニア州のシーリンズグローブという町の、なんと9歳の女の子の話。これは、命はかかっていない。しかし、すごい子がいたものだ。

▼後者の場合は、本書で取り上げられた人の多くは殺されている。

たとえば、メキシコ政府と民兵組織と麻薬カルテルの「麻薬戦争」の話だ。

▼ちなみに、メキシコの麻薬戦争を描いた傑作小説として、ドン・ウィンズロウ氏の『犬の力』を紹介しておく。未読の人には、「面白い小説が好きな人なら、必読だ」と訴えておきたい。

下記のアマゾンURLでは「3980円」というバカバカしいぼったくりの値段になっているが、クリックしてみればもっと安く買えることがわかる。「渾身の」とか、「魂の」とかいった表現は、あまり使わないが、『犬の力』には使いたくなる。メキシコの麻薬汚染は、最悪だ。

▼『「いいね!」戦争』で紹介されているメキシコの勇気ある市民レポーターは、タマウリパス州で「フェリーナ」という名前で活躍した女性だ。活動の幅を広げてしまったため、個人情報が漏洩してしまい、殺された。フェリーナは内科医だった。

▼もう一つの例は、「イスラム国」と戦った市民レポーターたちだ。

シリアのラッカで何が起きていたのか、〈国際的メディアの中で、この恐怖による支配を記録・報道する者は1人もいなかった。〉(117頁)イスラム国はプロのジャーナリストを殺すからだ。

〈そこで自分たちの街が破壊されている状況を伝えるべく、市民17人が結束した。その手段がオンラインネットワーク「Raqqa Is Being Slaughtered Silently」(ラッカは静かに虐殺されている)だった。

それは報道であると同時に抵抗でもあった。彼らの信念は、あるメンバーによれば、「真実を伝えること」がISISの武器よりも強力だと証明することだった。〉

▼このくだりを読んでいて、筆者は涙が出た。

〈彼らの仕事は信じられないほど危険で、ISISは絶えず彼らと彼らの愛する者を見つけ出そうとした。ネットワークの立ち上げ直後、ISISも対抗して「They Are the Enemy So Beware Them」(やつらは敵だから気をつけろ)という番組の配信を始めた。

記者とその家族だとISISが主張する人びとがカメラの前で行進させられ、木に吊されて処刑される様子が映し出された。その後、「Raqqa Is Being Slaughtered Silently」がこれらの処刑について報じ、遺憾ながらISISが殺害したのは別人だと指摘した。

結局、ネットワークのメンバーのうち10人が見つけ出され殺害された。

ルキア・ハッサンという女性の市民レポーターはISISの警察に拘束されて処刑される直前に、急いでフェイスブックに投稿した。

「やつらに首を切り落とされてもかまわない。あたふたもしない。屈辱の中で生きるよしまし」。

彼らの勇気と新規性を称えて、2015年の国際メディア自由賞が贈られた。〉(117-118頁)

▼本書は、言われてみればそのとおりだが、言われないと気づきにくい法則について指摘している。

〈ソーシャルメディアは市民、ジャーナリスト、活動家、反体制派の戦闘員の区別を消し去ってきた。(中略)往々にして全部同時に行うことも可能だ。〉(118頁)

第3章より後の章で取り上げられているが、こうしたメディアの「激変」は、人間の「脳」に明らかに未聞の影響を与えている。

しかし、ソーシャルメディアが、人間のつくりだす「表象」に、そして「表象」をつくりだす「脳」に、どのような影響を与えるのか、まだわからない。わかるのは、何十年も経ってからだ。

▼2005年にダン・ギルモア氏の名作『ブログ 世界を変える個人メディア』(朝日新聞社)を読んだ時、すごい時代が来たんだなと興奮したものだ。

こんなに短期間で、あの時の興奮が遠い時代の話になるとは思いもよらなかった。ちなみにこの『ブログ』も、下記のアマゾンの表記ではなぜか11580円という悪質な値段が出ているが、中古で1000円弱で買えるのでご安心を。(つづく)

(2019年6月29日)

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