『「いいね!」戦争』を読む(16) 「フェイクニュース」誕生の論理
▼ここ数年、ネットの中で「嘘(うそ)」が蔓延(まんえん)するスピードが、やたら速くなった。
すでによく知られるようになったある常識について、『「いいね!」戦争』がわかりやすく説明していた。
ちなみに2019年7月10日の21時現在、まだカスタマーレビューは0件。
▼MIT(マサチューセッツ工科大学)のデータサイエンティストたちが、ツイッターの「噂の滝(ルーマー・カスケード)」(まだ真偽が検証されていない話の発端)について、〈12万6000件のライフサイクルを視覚化した。その結果、偽記事は真実を伝える記事の約6倍の速さで広がることがわかった〉という。(209頁)
そして、いずれは「そうなった」のかもしれないが、「その時期」を間違いなく早めた出来事がある。
2016年、アメリカの大統領選挙だ。
▼先の大統領選では、クリントン候補を陥れるデマをめぐる「ピザゲート」が有名になったが、なにしろ、
〈(大統領)選挙後の世論調査では、トランプに投票した人の半数近くが、クリントン陣営は小児性愛、人身売買、悪魔崇拝儀礼での虐待に関与していたと信じていた〉(205頁)のだ。
あの広い国で、いったい何が起きていたのか、どれほど多くの嘘の嵐が吹き荒れたのか、上記の一文だけで少しは察することができる。
インターネット社会学者のダナ・ボイド氏いわく、
「私たちは刺激的なものに目が行くよう生物学的にプログラミングされている。つまり不快・暴力的・性的なコンテンツや、侮辱的・攻撃的なゴシップだ。用心しないと、心理的な肥満になる」(210頁)
このボイド氏の意見は2009年のものだ。しかし、2019年にこの社会に住む人々が感じている歪みを、見事に示唆している。
▼ネットの偽情報について、オックスフォード大の研究者たちは最初、「ジャンクニュース」と呼んでいた。「ニュースとしての価値」がないから、栄養のないジャンクフードにひっかけて、ジャンクニュース。
それが、「フェイクニュース」と呼ばれるようになった経緯が、面白い、というか、おぞましい。適宜改行。
〈オックスフォードの研究者らが「ジャンクニュース」と呼んだものは、まもなく「フェイクニュース」として一般に知られるようになった。
後者はもともと「真実でないことが検証可能なニュース」を意味するために作られた言葉だった。
ところが、トランプ大統領がすぐに取り入れた(就任からの1年間に400回以上使った)おかげで、「フェイクニュース」は気に入らない情報を侮蔑する言葉になった。
つまり、真実でないことを表現するのに使われる言葉までが、正確さの客観的な尺度から意見を主観的に述べるものに変わったのである。〉(210頁)
▼2016年が、「フェイクニュース」元年、といってもいいのかもしれない。だから本書は、今は人類がまったく未経験の状況に立ち入ったばかりで、情報は無数にあるが五里霧中、といったところだ、という現況を教えてくれる本である。(つづく)
(2019年7月11日)