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#小説 記事まとめ

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#恋愛小説

【小説】時間の概念と隣町のコロッケ (サラとの1か月間~13日目~)

前回までの話 1. 傷に触れない (サラとの1か月間~6日目~)  冷蔵庫の奥底には、しおれたプラムが転がっていた。  路肩でしゃがみこむ老婆のように萎れていて、冷たい。指先に力を入れると、自らの役割を思い出したかのように、薄皮の割れ目から汁を吐き出す。 甘い香りが鼻先に漂う。  過去に付き合った女性を思い出した。  顔や名前は覚えていないのに、彼女の香りだけは思い出せる。時の流れは不思議だ。自分勝手で横暴だけど、たまに優しさを示す。 「この前、主任が言っていたよ。この世で

クラクションは霧の中で 1話

(睦月十六歳 朔十一歳 零六歳)  兄の名前は睦月といい、弟の名前は零、私の名前は朔という。睦月、朔、零、という名前は別に三人合わせて一月一日零時の年の始め、と意図してつけられたわけではなく、単に兄は一月に生まれたから、私は一日に生まれたから、弟は零時ちょうどに足の先まですぽんと抜けたから、という至極安直な理由でそれぞれ名付けられた。  私たち三人はちょうど五つずつ歳が離れていたので私が五歳で零が生まれた時、五年後には妹が生まれてくるものだと(つまり子供というのは五年毎

【掌編小説】花言葉

 PCの画面右下の数字が17:00になって、僕の研究者としての人生は終わった。  はあ、と思わず小さくため息が漏れる。のろのろと机の上を片づけて黒いリュックを背負った。  この研究所で非常勤研究員として勤務するのは今日までだ。この席には、明日から僕より若くて将来有望なやつが座る。 「お疲れ様です、失礼します」  なんとなく周りに向かって小さく声をかけると僕は席を立つ。誰からも返事はなかった。 「お、お疲れさん。今までありがとうね」  挨拶のために事務室に顔を出すとPCに向

【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第19話 黒飛竜の鱗3

第19話 黒飛竜の鱗3 「父様。その方々は?」 寝台に横たわっていた少年が、その上に身を起こす。 「客人のカミュスとテラだ」 「初めまして。ハクロンと申します」 見かけは、父と言った長であるリュウコクとそう変わらない。 特徴的なのは、髪の一部が白く抜けていることだ。今まで見たこの集落の住人に同じような特徴を持つ者はいなかった。 「彼らが、そなたの病状を診てくれることになった」 リュウコクがハクロンの隣に立って、その頭を優しく撫でた。カミュスヤーナがリュウコクに軽く

【小説】バージンロード vol.1「ソウ」

ブログなるものを始めてみた。 大学生の彼氏、ソウが写真ブログを始めたことがきっかけだった。 ただのブログでは面白くない。 男女逆転したブログにしよう。 ソウの呼び名はハニタン。 ハニーたんから来ている呼び名だ。 毎日のソウとの出来事を男視点で描いていく。 それは意外に楽しいものであり、刺激的で毎日楽しかった。 ブログ友達も何人かできた。 みんな私を男だと思って接してくれる。 元々女女しているのが苦手だった私には、それはとても心地よいものだった。 ソウとの

[1分小説] あの日の恋

大事なことは、いつだって小声で囁かれる。 「俺たち、もう終わりにしないか」 青井くんは、何食わぬ顔でポツリと言った。 ようやく人だかりがはけた学生食堂。 そのテーブルのひと隅に、彼と私は居た。 空になった皿を載せたトレーが、カランと音を立てる。 トレーと共に立ち上がった青井くんが告げた「もう終わりにしないか」という言葉は、 提案、というよりはすでに採択された決議のように、とても静かに私の頭上から降ってきた。 「……終わり?」 「うん、別れよう。そろそろ」 中庭に

『翠』 33

 つい先日会ったばかりだというのに、というより、職場では毎週のように顔を合わせているのに、麻倉さんが隣にいるという現実が、まるで夢のなかで起こっていることのように、素直に受け入れることができなかった。  もちろん嫌という意味ではない。  スラッとした繊細な体つき、今にも折れそうなほど華奢な骨格、思わず抱きしめたくなるような背丈、触りたくなるほど艶やかなセミロングの栗毛。ここが電車の中や不特定多数の人が利用する公共の場でなくて、ほんとに良かったと、心の底から思ってしまう。

【試し読み】斜線堂有紀の恋愛短編「星が人を愛すことなかれ」

既刊「愛じゃないならこれは何」がコミカライズ決定している、斜線堂有紀さんから恋愛小説短編をいただきました。地下アイドルグループ・東京グレーテルの元メンバー・雪里は、人気Vtuberとして転生した。恋人を捨て、将来を捨て、すべてを配信に捧げる雪里が振り絞った”生”。令和の今だから生まれた最強短編、最後の1行までぜひ読んでほしいです。 星が人を愛すことなかれ  羊星(ひつぼし)めいめいになってから、時間は何よりも価値のある資産だ。一時間あればサムネイルが作れる。Shortの作

駿馬京の恋愛短編「正直者なバカを見る」

電撃文庫はじめ、ライトノベルレーベルで活躍する駿馬京さんから新作短編をいただきました。漫画原作「きみと観たいレースがある!」連載中です。心配になるくらいまっすぐな主人公が校内一の不良少女とはじめる青春。主人公の魅力が光る、ポップな恋愛小説です!! 正直者なバカを見る 1  4月。新たな春。俺にとってはスギとヒノキの花粉に身体中の粘膜を破壊される季節だ。そんな話を他人にするたびに『情緒がないヤツ』と言われる。そのたびに情緒があっても花粉の侵攻には勝てないだろ、みたいな口答

恋文の呪い | 小説

 今日はありがとう。楽しかったです。  書いているのは前日だけど、楽しかったに決まっているので。貴重な休日を私にくれてありがとう。  いまね、大学のカフェでこの手紙を書いているの。あと少しで卒業かと思うと、時の流れの速さにびっくりしてしまいます。あなたと出会ってからもうすぐ4年。あっという間でしたね。  あなたがこれを読んでいるということは、もう会わないと私から伝えることができたのでしょう。そのつもりで、あなたに会いに行きます。あなたはどうかな。  最後にふたつだけ、伝えたい

青春小説|『タイムリープ忘年会』

『タイムリープ忘年会』 作:元樹伸 第一話 忘年会の誘い  年の暮れになって、久しぶりに高校時代の友人から電話があった。年末に部活OBの忘年会があるという。平成元年の今年は、成人したばかりの後輩たちも参加してくれるらしい。 「つまりは松田も来るってことだ」  幹事を務める同期の真関くんが、電話口で含みのある言い方をした。 「へぇ」  動揺していることを勘ぐられたくなくて、気に留めないそぶりで相槌を打ってみせた。けれど僕の気持ちはすでに過去へとタイムスリップしてい

【試し読み】斜線堂有紀の恋愛小説『君の地球が平らになりますように』

恋愛小説の新作短編を斜線堂有紀さんから頂きました。……仮に、昔好きだった人と再会したとして。もしかしたらまた恋がはじまるかも? 期待は膨らむけれど、もしその好きだった人が、以前とずいぶん変わってしまっていたら……たとえば、『陰謀論』にどっぷりはまっていたとしたら……。斜線堂有紀のおくる恋愛地獄篇、開帳。12月にはnoteで掲載された作品+書き下ろしを加えた単行本が発売予定です。 斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)第23回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》を『キネマ探偵カレ

【試し読み】斜線堂有紀の恋愛小説『彼女と握手する』なら無料

クリスマスなので昨年に続き、斜線堂有紀さんに恋愛小説を頂きました!! 恋人たちの記念日にふさわしいお話を、という依頼をしたのですが……果たして。斜線堂さんの恋愛小説『愛じゃないならこれは何』発売すぐに重版もかかり、大変な好評頂いています……感謝!! 今回は、その『愛何』の1編『ミニカーだって一生推してろ』に登場する地下アイドル『東京グレーテル』のメンバーのお話……。『愛何』をもっと楽しめる一品です。刮目してご覧ください……!!  斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)第23回電撃

短編小説「LINK」

 2029年12月16日の早朝、ヒューマンズリンク ~ H&TW ~ というアプリ運営会社から、1通のメッセージが僕のスマホに届いた。 『おめでとうございます。貴方は弊社が企画・運営いたします、ツナガル・プロジェクトの参加者候補に選出されました。尚、プロジェクトへの参加は任意です。プロジェクト概要につきましては、本メールに添付されておりますPDFファイルの文書をご確認ください。参加を了承されます場合は、本日午後11時59分までにこちらのメールにご返信下さい。またこのプロジェ