【小説】バージンロード vol.1「ソウ」
ブログなるものを始めてみた。
大学生の彼氏、ソウが写真ブログを始めたことがきっかけだった。
ただのブログでは面白くない。
男女逆転したブログにしよう。
ソウの呼び名はハニタン。
ハニーたんから来ている呼び名だ。
毎日のソウとの出来事を男視点で描いていく。
それは意外に楽しいものであり、刺激的で毎日楽しかった。
ブログ友達も何人かできた。
みんな私を男だと思って接してくれる。
元々女女しているのが苦手だった私には、それはとても心地よいものだった。
ソウとの付き合いはぼちぼち一年くらいになるだろうか、ドジっ子なソウのお陰で毎回ブログネタに欠くことはなかった。
毎日ソウのドジ話をネタに繰り広げていく俺ワールド。
ブログの名前は『俺ブログ』。
ソウもソウで、このブログを面白いと言い、楽しんでくれている。
それにしてもソウは、天然記念物のようなドジっ子で、女の子っぽい一面があり、素のまま書いても男女逆転しているとは誰も気づかなかっただろう。
ブログはそこそこ人気がでてきて、毎日五百ユーザーほどが見に来ていた。
まだまだだけどね!
さらに面白いものを探そうと、単身メイド喫茶まで足を運んだりした。
もちろん仕事が終わってからだけどね。
そうそう、ソウと私の年の差は八才。
私の方が人生の先輩だ。
ソウと知り合ったのは、とあるサイトのチャットだった。
当時はラインみたいなツールもなかったし、SNSも今ほど発展しておらず、掲示板かチャットが中心だった。
そのチャットには、彼氏候補がいたから、ソウと直接やり取りをしたことはあまりなかった。
『会おうよ』
そう言い出したのは私の方だった。
当時はかなり仕事も暇で、彼氏候補も隣の県に出向中で、時間をもてあましていた。
大親友の彼氏に会うために他県まで来ていた帰りに道を誤って、ソウの住む近所まできていたため、会おうよ、とちょっと誘ってみたのだ。
時刻は午前二時。
こんな非常識な時間にいきなり会おうよと言われて会う人間はほとんどいない。
案の定、ソウからの答えは、
『今から会うのはちょっと、厳しい』
だった。
そりゃそうだよな、と私は思い、そこから高速に乗って帰宅した。
ただ、それからはソウとチャットで盛り上がったりすることも増えてきた。
毎日三時間くらいチャットしているうちの、二時間はソウと話をしていた。
当時はウェブカメラで自分を写しながらチャットするのが流行っていて、お互いにカメラ越しには会ったことがあった。
そのうち、『会おうよ』という話になり、次の週末にソウのアパート近くまで遊びに行くことになった。
高速で一時間弱。
決して近い距離ではないが、私は妙に浮かれて会いに行った。
ソウとうまいこと合流すると、まず近くのカラオケに行った。
そのほうが最初からしゃべらなくていいし、好きなアーティストの話で盛り上がったりしやすいからだ。
ソウは……音痴だった。
私は自分の歌声に自信があったので、堂々と歌った。
ソウも音痴なのに、それがわかっているのかいないのか、堂々たる歌いっプリだった。
しかも、曲がど・マイナーな曲ばかりで、誰の歌かわからないものばかりだった。
最近の大学生はこんなもんかな、と軽くジェネレーションギャップを感じながらカラオケをあとにした。
カラオケのあと、どこに行く?という話になり、私はソウのアパート!とリクエストした。
意外にもすんなり、ソウは
「いいよ、行こうか」
と言い、私は車をスタートさせた。
1Kの狭いアパート、それがソウの住んでいるところだった。
少し雑然としている部屋。
本棚には、本がぎっちり詰まっていた。
そういえば本が好きだって言ってたな……。
私は試しに一冊手にとってみるが、興味がない話だったので棚へ戻した。
戻すにもぎっちりで、なかなか元に戻すのは大変だった。
「どうぞー」
と言いながら、ソウはコーヒーを出してくれた。
ここで、私の当初の目的である、彼氏候補焼きもち作戦を発動した。
と言っても、彼氏候補に男の子といることをアピールし、焼きもちを焼かせよう、それだけが家に来た目論見だった。
彼氏候補は、それを聞いても焼きもち焼くこともなく、完全にスルーで終わってしまった。
この日は、
「また遊びに来るね」
とだけ約束をして帰った。
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