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常に怪異の傍で暮らす人たちは、それなりの術を心得ている。 これは、そんな一端が垣間見える話。 【スリッパを履け】 小学校時代、誰しもクラスに一人は裕福な友人がいたのではなかろうか。大きな家に住み、広い玄関には獣皮の敷物がひかれている。そんな家だ。 現在50歳近い吉田さんが小学校の頃というから、昭和も終わり頃の話。当時栃木県に住んでいた彼の級友にも御多分に漏れず金持ちの友人がいた。名前はAくんとしよう。 Aくんの家がどのくらい金持ちかというと、ブラウン管のかなり大
夢を見ていた。見知らぬ場所で長く付き合っている彼女と手を繋いで歩いている。空を見れば、澄んだ青空に形の良い雲が流れていた。風は暖かく近くの飲食店の良い匂いを運んでくれる。すれ違う人達は笑顔で、それを見ていると胸が温かくなり、二人は自然と笑顔になってしまいそうだった。 しばらく歩いていると、見覚えのある顔があった。彼は確か、高校の同級生だ。穏やかで物静かな彼は唯一の友達と言える存在だった。そんな彼がこっちを向いて手を振っている。思わず彼に近寄り、話しかけようとした。しかし、
第19話 黒飛竜の鱗3 「父様。その方々は?」 寝台に横たわっていた少年が、その上に身を起こす。 「客人のカミュスとテラだ」 「初めまして。ハクロンと申します」 見かけは、父と言った長であるリュウコクとそう変わらない。 特徴的なのは、髪の一部が白く抜けていることだ。今まで見たこの集落の住人に同じような特徴を持つ者はいなかった。 「彼らが、そなたの病状を診てくれることになった」 リュウコクがハクロンの隣に立って、その頭を優しく撫でた。カミュスヤーナがリュウコクに軽く
私の頭に、変なものが生えてきた。 にょきにょきにょきにょき、生えてきた。 あなたの頭にも、あるかもよ。 「ん? なに?」 それに気づいたのは、本日は晴天なりって繰り返し言いたくなるような、カーテンから元気いっぱいの太陽光が入ってくる朝だった。 鎖骨あたりまで伸びた私の髪は、朝起きるとぐちゃぐちゃに絡まっているから、毎朝、洗面所を占領して髪を丁寧にとかす。その朝も、女子高生の命である髪を整えていた。 そのときだった。頭頂部で、ブラシが何かに当たった。 「ん?」
見上げた天井は、どこか虚ろで、今までも、これからもずっと変わらないのかななんて思って眺めていた。少し湿った空気が辺りを漂う土曜の昼下がり。 なにかするにも、ままならず、ずいぶん前に撮った六本木の写真をインスタのストーリーズにアップする。たかだか200人くらいのフォロワーのための虚しい作業に、いつものように後悔をする。ものの数分で3つのいいねがついて、そのあとパタっとなにもなかったように、めくるめくフィードが更新されていく。 この虚しさにもだいぶ慣れてしまった。虚しいだけ
山の麓の小さなお店。 レモンケーキしかないお店。 だけどここには、いろいろなところから 多くの人がやって来る。 レモンケーキに使うたまごは ご近所にある養鶏場のあかりさんが 毎朝、採れたてのたまごを持ってきてくれる。 今日も両手いっぱいのたまごを抱え あかりさんがやって来た。 「つぐみちゃーん、卵持ってきたよ」 「あかりさん、いつもありがとうございます!」 「こちらこそ。そういえばつぐみちゃん、 市内にお店を出店する話、断ったんだって?」 「はい…声をかけて頂
ブログなるものを始めてみた。 大学生の彼氏、ソウが写真ブログを始めたことがきっかけだった。 ただのブログでは面白くない。 男女逆転したブログにしよう。 ソウの呼び名はハニタン。 ハニーたんから来ている呼び名だ。 毎日のソウとの出来事を男視点で描いていく。 それは意外に楽しいものであり、刺激的で毎日楽しかった。 ブログ友達も何人かできた。 みんな私を男だと思って接してくれる。 元々女女しているのが苦手だった私には、それはとても心地よいものだった。 ソウとの
- 序 - フィクションにほんの少しの体験を混ぜて、黎明風味にしてみました。 - 本篇 - 深く長く覆いかぶさっていた闇が明けるころ、空は鈍い藍色を映し出す。藍々はこの空の色が好きだった。何にもなれない自分を唯一受け入れてくれる場所。藍々は、冷たい地面に座り込んで、もう何回見たかも思い出せない藍色を見つめた。はじめのうちはこの藍色を見るたびに心の隅に罪悪感を抱いた。今では後悔していない。ただただ美しい藍色だった。少し肌寒さを覚えだした秋の夜明け、藍々は混沌とした街を見
当たり前に明日がくる。そう信じて、いや、きっとそんなこと考えもせず、僕は眠りについた。そして目覚めたら、明日はきた。きたけれど、その明日で僕は、すべての記憶を失っていた。 ベッドから起き上がってまず感じたのは、記憶の有無じゃない。これが自分の体なのか、という自意識の歪み。他人の器の中にするりと入り込んでしまったような羞恥と、申し訳なさ。それが僕の意識を支配していた。 慌てて立ち上がり、鏡を探して、バスルームはどっちだ、ということが分からない。手当たり次第に扉を開けて鏡の
■ 俺は、ツイてない。 生まれてからずっと、俺にはツイてた時がない。 不遇な人生。 何で、こうなってしまったんだろう? 一日に何十回も、考えてしまう。 神様は不公平だ。 俺は、ずっとこのままの人生を歩いていくしかないのか? そうだとすれば、俺にはもう絶望しかない。 ずっと、そう思って生きてきた。 ■ 俺は中学を出る頃、家出した。もう12年前の事だ。 親父はろくでなしだった。 お袋や俺に、酔って手を挙げた。 小学生の頃、俺はいつも顔の
終電を逃してタクシーで帰るほどのお金もない。徒歩で帰るかと悲壮な決意を固めていると、こんな深夜にも関わらず古本屋が開いていた。 店名を見た。吉武書店。すぐ、大学の同期の吉武君を思い出す。そういえば彼は、おじいちゃんの後を継いで、古本屋を始めていたのだ。 あとはどうせ家に帰るだけだし、久闊でも叙しますかということでお店に入る。硝子戸を引くと、帳場に座って何やら本の値付けをしている吉武君が顔を上げる。 「げっ。北見さんじゃん」 「げっとはなんだ。終電を逃しちゃったか
スマホのアラームを止めて数分後、起き上がると大きく伸びをしてベッドを抜け出す。裸足で踏むフローリングはいつも他人行儀で、ひんやりと冷たい。キッチンでグラス一杯の水を飲んで、トーストを焼いた。お決まりの朝食を食べて、意味もなくスマホの画面をスクロールする。今日もいつも通りの休日か。窓越しにベランダを見ると、セキレイが物干し竿に止まっていた。いつも通りじゃない休日、もいいかもしれない。 私はクローゼットの奥にしまいこんでいたアイボリーのワンピースを身に纏って、いつもよりふん
おれが死のうと決めたのは先月のことだった 鏡の海を渡り、砂の星を越えてやっとのことで家に帰ったときにふとそんな気分になった おれの身体の空洞に住む鳥は言う 「やめておけやめておけ。お前はそんなタマじゃない。無理さ。言うだけさ。」 おれは本当にそうしたいんだと鳥に伝えるとやたらめったら羽ばたいて気分が悪い おれは怒って硬貨を飲み込む カツンと音がして鳥は静かになるがロボットみたいに同じ動きを繰り返す羽目になった 図書館に行って調べると 青いロブスターを食ったら安楽に死ねると
「行けたら行くみたいなこと大喜利を開催します」 「空けられたら空けとく」 「ほぼ同じだ」 「脱げたら脱ぐ」 「シチュエーションが気になる」 「解けたら解く」 「解いちゃうタイプのやつ」 「話せたら話す」 「絶妙。話しそうだけど話さないかもしれん」 「付き合えたら付き合う」 「付き合おう」 「え、うん」 「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 【あとがき】「行けたら行く」の実行確率。 「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 【自己紹介】「ふくふ