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2024年7月の記事一覧
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 二)
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僕が入る墓(遡及編 二)
肌を切るような眩しい日差しを浴びながら、太助は肩にかけた布で頬を拭った。すでに昼過ぎだった。片手に握っている木棒の先には土の色が滲んだ鉄が地面に刺さっていた。太助はそれを大きく持ち上げると、畠の端にそっと立てかけた。畠のそばの高台に座ると、置いてある袋を開けて、ホウノキの葉に包まれた握り飯を取り出した。女房が握ってくれたものだった。湿気で海苔が萎え、飯
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 一)
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僕が入る墓(遡及編 一)
蝉の鳴き声と共に暑苦しい朝日が昇ると、僕たちは長い廊下を抜けて外へと出た。そこら中の外壁や窓は崩壊し、外から見ると久保田家の屋敷はまるで敵軍の奇襲を受けた跡のように廃墟と化していた。門の表には顔を真っ二つに切られた警察が倒れていた。もう一人はお勝手口付近で気を失っており、義父が頬を何度か叩くと目を覚ました。事情を理解できていない様子で僕たちの疲れ果てた
【短編】『僕が入る墓』(後終編)
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僕が入る墓(後終編)
門の前では警察官二人がたわいもない話をしながら呆然と満月を眺めていた。
「なんで俺たちがこんなことしなきゃならねえんだ」
「署長命令だから仕方ないだろ? それに夜勤代が出るんだから我慢しろよな」
「だってよ。俺これで三日も家に帰ってないんだぜ」
「明日は帰れるって」
「だといいけど。そもそも署長は俺たちのことこき使いすぎなんだよ」
「まあ、俺も
【短編】『僕が入る墓』(中終編)
僕が入る墓(中終編)
明美の方を見ると、うっすらと目を開けて夢を見ているように僕たちのことを眺めていた。
「明美、ママだよ。わかる?」
「ママ?」
明美は目の前の景色が夢でなかったとわかった途端、閉じかけていた目を大きく開いた。
「明美、パパだよ。どうだ具合は?」
「ちょっと、眩暈がする」
「そうか。少し水を飲みなさい」
僕は義父の言葉を聞いてすぐに自販機へと急いだ。ペットボ
【短編】『僕が入る墓』(序終編)
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僕が入る墓(序終編)
義父が太い縄だけでどうやって奴らを捕まえるのか知る由もなかった。すると、義父がその一つを手に取って僕の足元に大きな輪っかを作った。
「ここに足を入れてみな」
僕は義父の言われた通りに輪っかの中央を踏みつけた。縄は小さな積み木のようなものに空いた二つの穴を通って、その先には大きな杭が付いていた。すると、義父がその杭を手に持って引っ張ると同時に、僕の足に
【短編】『僕が入る墓』(後結編)
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僕が入る墓(後結編)
しかし後ろには誰もいなかった。
再び妻の方に視線を戻すと、真正面から突然打撃を喰らった。身体はまるで中国のアクション映画みたく綺麗に宙を舞って台所横の扉のそばに落下した。敵は大した腕力だった。俺は背中を痛めつつもゆっくりと立ち上がって敵の姿を確認しようと目を擦った。しかし、その素早さから敵はすでに配地を変え、自分の視界から消えていた。あたりを見回すも、
【短編】『僕が入る墓』(中結編)
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僕が入る墓(中結編)
部屋に戻ると、網戸のそばに腰を屈めた義父の姿があった。僕には気づいていないようで、必死にセンサーの機械を壁板のどこかに隠していた。すぐ横に生えた草の陰には一匹の足の折れたカマキリが妙な動きをしていた。僕はカマキリがあまり好きではなかった。よく見ると、バッタを捕らえて食べているようだった。バッタはすでに体の半分を失っており、生々しさが余計に気分を悪くした。