#掌編小説
あけました【短編小説】
※本文は1,772字。
自宅近くの寺社に一人で参拝していたら、大学時代の友人であるアキラと偶然に会った。会ったと言うか、遭遇だから遭ったと言うほうが正しいか。
アキラは4人の子供を引き連れていた。2人は自分の実子で、残り2人は嫁さんの連れ子なのだという。独り者の俺とは大違いだ。
「明けましておめでとうございます!」
両親と妹夫婦子がごった返す実家は久しぶりに賑やかだった。父は孫の顔を眺め
盛夏に何を想う【掌編小説】
DVDには「昭和-戦禍の記憶-」というタイトルが付されていた。去年99歳で亡くなった祖父から受け継いだものだ。
一人灯りを消して祖父の記憶に初めて触れてみる。画面にはテレビニュースで観たような人殺し合いが映し出されていた。僕は思わず目を背けた。でもやっぱり観なくてはいけないような気がした。フト「責任」という赤字で書かれた二文字が頭に浮かんだ。
先達から受け継ぐ責任。誰かが語り継がなくてはな
もう恋なんてしない【掌編小説】
「きいて欲しいことがある」
そうLINEにメッセージを送ってきた君の絵文字は大量の涙で溢れていた。恋なんてしなければ良かった、君から絶対に聞きたくない一言だった。
そう思い悩んでいるなんて到底想像できなかった。君はイケメンでスポーツ万能、さらには勉強も出来る。非の打ち所がない、周りの誰もが羨むほどの才能溢れる人間だからだ。君が失恋した?誰もが恋愛に絶望感を抱いて、さらには生きることすら嫌気が
いやんズレてる【ショートストーリー】(青ブラ_第3回変態王決定戦参加作品)
「わたくしカブラギ商事の葛城桂子と申します」
「はっ」
「かつらぎ・けいこです!」
「ボヘミア〜ン?」
「はあ? あっ、すみません」桂子は、言われることを分かっていつつも恥じらった。
「はあ、とは何ですか。顧客に向かってその言葉遣いは?!」
「だって、山根社長あまりにもふざけているものですから」
「・・・・・」山根は思わず黙りこくった。
「私がカツラだからって少し軽く見ていません
筋書きのないストーリー【ショートストーリー】_第五回私立古賀裕人文学賞投稿作品
「いいですか、みなさん。今日の宿題は、家族全員分の座右の銘ですからね」
教室中の皆が一斉に無口になり、状態が引き潮と化した。教師よ、どうしてくれるこの空気。
家族間のコミュニケーション不足が昨今の問題とはいえ、座右の銘を家族全員から聞き出すなんてあまりにも野暮過ぎないか。世知辛さを通り過ぎて、もう笑うしかない。
帰宅した後は自室に一人こもった。誰か話しかけてくれないかな、と考えてみてもすぐ
追憶【ショートストーリー】
拳の記憶よりも、愛の追憶は遥か深い。
ボクシング世界タイトルマッチで僅か1R59秒で惨敗を喫した松下タツヤは絶望の淵にいた。
古びた病院の個室にはユリがずっと付き添っている。両親のいない彼はユリ無しでは生きられない。この試合に勝てばプロポーズをするつもりだったのだ。そんな絵に描いたような幸せを目前にしたまさかの出来事・・・一命は取り留めたが、医師からは引退勧告を受けざるを得なかった。
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