盛夏に何を想う【掌編小説】
DVDには「昭和-戦禍の記憶-」というタイトルが付されていた。去年99歳で亡くなった祖父から受け継いだものだ。
一人灯りを消して祖父の記憶に初めて触れてみる。画面にはテレビニュースで観たような人殺し合いが映し出されていた。僕は思わず目を背けた。でもやっぱり観なくてはいけないような気がした。フト「責任」という赤字で書かれた二文字が頭に浮かんだ。
先達から受け継ぐ責任。誰かが語り継がなくてはならない責任。
それは重いのか、軽いのか。誰も背負ったことがないから分からないのか。欲しいのか要らないのか。捨てるのか残すのか。
いや、遺すのだ。歴史を二度と繰り返してはならない先人達の財産を。
気がつけば、画面いっぱいに映された奇妙な赤字は全ての残酷な映像を掻き消していた。
急に有名女性タレントの化粧品のコマーシャルが流れた。
「これであなたも生まれ変わる」
僕はややイラつきながらも、女性タレントのまばゆいばかりの笑顔に魅了された。さっきまで映像を観てつらい思いをしていたのに別のことを考えてしまった。まるで死ぬような脅迫観念から逃れられたが、自分が無責任な人間に思えた。こんなにも自分が屑だと思ったことはない。
明朝5時。
僕はひとり何を想う。
一体、何を継いでゆくのか。
窓から朝陽が見える。
映像は美しく終わった。
祖父を思い出し、思わず涙を流した。
誰かに御礼が言いたくなりひざまずいた。(祖父なのか、いや祖父ではなかったかもしれない)。
【了】