今から10年前、私が中学生の時、廃ビルに幽霊が出るという噂があった。 「飛鳥パイセ〜ン」 「なんだよ」 「たこやきアタ〜ック」 そう言って後輩の美月がたこ焼きを口に無理やり入れてきた。 「ちょ、やめ、ん、あっふ」 「スキありです」 一発本気のげんこつを入れて置いた。 「やーにしても飛鳥さんの地元良いとこですね〜」 「商店街もちょくちょく閉まっていってるけどね」 「でも〜、飛鳥さんと私のラブラブアツアツたこ焼きがあればそれだけでいいじゃないですか」 「殴る
「俺、美波さんと会うの辞めようと思うんだよね。」 無言を切り裂くように彼は言う。 なんでよぉ〜 言おうとして、やっぱりやめた。 それは、安心したからなのか寂しいからなのかは分からなかった。 冷ややかな店内は、夏ということを忘れさせるくらい静かだ。 まるで、雪が振り積もって溶けることなくその場に残り帰るのも惜しい夜みたいに、店内は夏ではなくてもはや冬だった。 私は無言で割り箸をとって先程頼んだカルパッチョと、イカと蟹のトマトパスタを待った。 さっきまで寝てたもん
退屈だな、と思った。 換気扇から流れてくる焼肉の匂いに、そう思った。 左手の自動ドアはからは、店員の活気ある声が漏れ出ている。 高所からゆるやかに落下しているような気分だった。 塾が終わってから、焼肉屋の外のベンチに1人座っていた。 どうやら、今日、弟がソフトテニスで優勝したらしい。 僕はテニスがどういうものなのか分からないし、なんなら硬式と軟式のルールの違いも分からない。 ラケットも同じように見える。 弟はテニスが出来て、頭も良い。 対して僕は、運動は球技全
「あ、おるやん」 ぼそっと、呟いた。 10分休み、窓の外の旧校舎にその姿が見えた。 気がつけば、目で追っている。そんな自分が、居る。 ♦ 帰りてー、が本音だった。 上タン三人前とハラミ四人前を運んできた店員に、ありがとうございます、と伝え 山下美月の顔の方へ向き直した。 「いやー男としかつるんでへんもん俺」 くすっと笑って彼女は言う。 「ん〜、たしかに」 「たしかにちゃうわ」 そうツッコむと「ちゃうか」と言ってまた笑った。 俺の関西弁を小馬鹿にするよ
好きな人居るの? その質問をされたとき、一瞬だけ声が出なかった。 「ねえねえ、聞いてる〜?」 好きな人。その単語で、彼女を思い描く。 高一の時から眩しかった。 目で追っちゃって、好きになって。 『運動会のリレー、ペアになっちゃったね』彼女は明るく言う 練習の時、すごく楽しくて、舞い上がったのを覚える。 どうせ僕しか覚えていないだろうけど。 『まかせろ、私が一位にしてやる!!』 結果は2位だったけれど、ハイタッチするときの本当に嬉しそうな笑み。 自分でもち
消えてしまいたくなった。 「暗いんだよあほ〜」 「……先輩に何がわかるんすか」 授業をサボって誰も使ってない旧校舎の廊下を歩いていると、その人は居た。 いつも、教室に入ることなく、廊下で話す。というか話される。 けれど今日ばっかりは、そんな気分になれなかった。 「てか、なんでまた来たんだよ」 「別に、サボりたかっただけです」 「サボるったってここじゃなくていいじゃん、恋?もしかして先輩の私に恋しちゃった?」 僕は彼女を無視して、三角座りした。 廊下の壁は僕
「夜まで残ってなくていいだろーが」 机に向かう。もう夜の闇がそこまで。 受験が迫る冬。 卒業式まであと僅か。 今直面している問題は机の上のプリント。 そう、これ。 数学のテストの直し、明日の課題である。 授業が終わった後、たまたま寝ちゃって、何故かこうなった。それで、こんな時間まで後ろの席の五百城と二人きり。 起きて、ちょっと状況を整理して帰ろうとすると、五百城は引き止めてきて、勉強会しよーや、と言って聞かなかった。せっかくの部活オフなのに。 起きたら17:30
いつから?って聞かれても答えられないくらいだったと思う。 気づけば、わたしは家の中でひとりぼっちだった。 蝉の抜け殻みたいに生きてる 小さい頃から、親はめったに家に帰ってこない。 それどころか、わたしを避けている気もする。 家庭環境は限りなく最悪だった。 小学生の5年生の時から保健室登校になり、ついには学校も行かず、昼時に起きるのがお決まりになっていた。 起きれば13時頃。 冷蔵庫に入った冷凍食品をレンジでチンして、ダラダラ食べて。 それから、すこしぼーっと
夏の、夢を見るから、冬は嫌い。 布団に入って、欠伸をしたあと、意識が途絶えたかと思えば、僕は気づけば夏のプールに居る。 炎天下、虫の鳴き声、ぶんぶんホースを振り回す女の子。 この子のことは知っている。 高校生時代、好きだった女の子だ。 目の前にいる女の子のことをずっと考えていると彼女は、ニヤッと笑って 『見ててね』 と言った。 それから、ばしゃん、と音を立てて先に飛び込んだ、いつか好きだった女の子は、きゃー、と冷たそうな顔をして叫んだ。 『何してんの』 『
――起きてる? うん ――あのさ なによ ――今日、レイちゃんとディズニー行ってた? え、なんで知ってんの? ――レイちゃんの、インスタの ――ストーリーに載ってた まじで ――ほんと? うん、行ったね ――楽しかった? うん。それはそれは。 ――そっか で、なに? ――いや、確認 あーそう ――レイちゃんのこと ――好きなの? 急になんで? ――だって ――送信を取り消しました なんだい? ――ちょっとだけ気になった
ずっと死のうと思ってた。 怒られる毎日とか、好きな映画が上映終了したとか、人間関係にうるさい上司とか、 好きだった漫画の作者が失踪したとか、大好きだった母が死んだとか、 好きだった惣菜パンが店に置かれなくなったとか、そういった小さな絶望の積み重ねが、とにかく生きづらかった。 それに、つい先日2年付き合った彼女と別れた。 自己中心的な考えってのは百も承知だけど最後まで好きになれなかった。 それでも告白されて付き合った好きでもない相手とはいえ、1人になるのはやっぱり辛
26時48分。 呼び鈴が鳴った。 夜でも暑苦しい日だった。 がちゃと音を立てて扉が開ける。 勿論君が来ることなんて分かってなかった。 「今日、いい?…」 震える声で彼女が言った。 僕の頭上に浮かぶ疑問符。 「始発で帰るから」 なんでよと僕が言う。 「浮気された…」 あ、と思った。 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ 幼稚園からの付き合いで、気づけばもう数十年になる。 クーラーの設定温度を1度下げた。 「結局あいつもクソ男やったわ」 気丈に振
もう、別れるって分かってた。 理由なんていっぱいあった。 お互いに時間が取れなくなったり、笑いの沸点が違ったり、会わなくなったり… 飛鳥が、僕の事見てないなんて分かりきってた。 「退屈、、、」 ベッドに寝転がった僕らを朝日が照らす。 『何もすることないんだから仕方ないじゃん。』 「うーん…」 なんか予定作るべきだったなぁとか一瞬考える。 でも、そんな思考はすぐにベッドに沈む。 「つまんない...」 こうなると謝るしか出来なくなる。 『つまらない男でごめん
凄惨な夏の、大嫌いなほど愛した神様へ。 ──────────────────── いつかの水族館、 思い出の中のここはつまらないほどに綺麗だった。 思い出しては嫌になって、嫌になっては思い出す。 それでも、 それでもそんなことなんて気にせずに水槽のネオンテトラはゆらゆらと尾びれを振って遊んでいる。 非日常の熱帯魚。 妙に惹かれてしまうのは僕の弱さだと、思う。 また、水槽の魚は僕なんか気にせず、 まるでそこが海かのように悠長に泳いでいた ガラスから覗く水のシ
もう届くことの無い背景。 1番愛した君へ。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 数年後。 〇〇:ドレスってやっぱり着たいもんなの? 美月:当たり前じゃん! 〇〇:へぇー 結婚式の会場選びに来ていた。 〇〇:ここ良さげだね 美月:だね! 〇〇:すっごい目キラキラさせてるじゃん笑 美月:ちょっと//恥ずかし// 〇〇:なんで顔赤くなってるの笑 ♢ 美月:新居も探さないとだねー 〇〇:だねぇ 少し明るい夜に沈黙が流れる。 だけど、それも心地
僕は公園に向かった。 公園には、 誰もいなかった。 ────────────────────── 〇〇:あれ……あの電話、誰だったんだろ… 周りには誰の姿も見えない。 僕はタイムカプセルを掘り出して、 あの日の、麻衣さんの言葉を 思い出そうとしていた。 思い出したら辛いってわかるけど。 〇〇:やべ、シャベル忘れた、 家にシャベルなんて持ってない。 手で掘るしか無かった。 〇〇:はぁ... 爪に砂が入り込む。 何回も砂をかきわけるうちに指が痛くなる。