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最近の夜はほんとう冷えますね。

夏の、夢を見るから、冬は嫌い。

布団に入って、欠伸をしたあと、意識が途絶えたかと思えば、僕は気づけば夏のプールに居る。

炎天下、虫の鳴き声、ぶんぶんホースを振り回す女の子。

この子のことは知っている。

高校生時代、好きだった女の子だ。

目の前にいる女の子のことをずっと考えていると彼女は、ニヤッと笑って


『見ててね』


と言った。

それから、ばしゃん、と音を立てて先に飛び込んだ、いつか好きだった女の子は、きゃー、と冷たそうな顔をして叫んだ。


『何してんの』

『あやって、夏が似合うかな、冬が似合うかな』



唐突に変な質問をしてくる女の子だった。


『どっちかと言うと、夏かな』

『えへへ〜、うれしい』


なんで、夏が嬉しいの?、と僕は訊ねる。

そうすると、彼女は恥ずかしそうに笑いながら、


『だって、』


彼女は、そう言ったあと、言葉に詰まる。

結果から言うと、彼女はその質問には答えてくれなかった。


『ほら、君もこっちおいでよ』と嬉しそうに呼ぶ声がして


僕は、夏のプールに、飛び込んだ。

ひんやりと冷たい水。

制服の、背中に入ってくる水。

誰が何を言おうが2人だけの世界。

あのさ、と彼女は言う。


『転校するまでに、一緒にどっか遊びに行こうよ』

『うん、いーよ』

『やったぁ。あや、お洒落していくね』

『あぁ。うん。』


これが青春だったんだな、と僕は小さく呟いた。


『忘れないでね』


そう言いながら、彼女は無邪気に笑う。

僕は、意味もなさげに、彼女の手を握る。

お互い照れた顔で、僕らは笑い合う。

それから、笑った小川さんの顔が、どんどんぼやぼやになっていって、



消えてゆく。



『あやさ』



手を伸ばしても、何も変わらない。



『ほんとは』



夢が嫌いだ。



『きみが』



夢が、嫌いだ。



『きみのことが』



夢が、どうしようもなく、嫌いだ。



『いまもーー』



夢は夢らしく、すぐ忘れてしまうから







朝、起き抜けの街を眺めていると、薄明るい夢の輪郭が浮かんできた。

さむさむ、と言いながら、僕は洗面所に足早に移動して

歯磨き粉を歯ブラシに乗せて、軽く歯を磨いた後、寝室に戻って、布団にくるまった。

さっきの、夢は、と考えてみる。

1回忘れてしまったものをもう一度手繰り寄せるのは簡単な事じゃない。

炎天下、ぼんやりと、夏のプールに飛び込んだ、というところまでは覚えている。

ただ、それが誰とだったかが、思い出せないんだ。

あの女の子の、名前は。

パヤパヤした髪、薄らと汗をかいている僕、真っ白な脳内。

何の変哲もない平日の朝、いつもより1時間早く起きてしまった。


普通の大人になんて、なりゃしないって。

高校生の頃は、本気で、そう思っていたんだ。

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