【24】 ついにこの日が来てしまった。自分を心底軽蔑し、嫌悪した日
例の医者から処方された新たな軟膏に期待を抱き、一週間ほど試してみましたが、状況はあまり改善されませんでした(涙)
(前の薬と、それほど効きが変わらない……。ということは、もう何をしてもダメってことか。もしかしておしりの手術とか、必要なのかな。いやいや、抗がん剤中なんだから、おしりの手術なんかしてる場合じゃないでしょうよ……)
激しい痛みとともに「今日の仕事」を終えた私は、じんじんするおしりのまま、手を洗い鏡を見ていました。
鏡の前には疲れ切った中年女がため息をついています。
(ハア……頼むから、私のからだを返してくれ!)
やりきれない怒りの気持ちが、爆発するように一挙に噴き出しました。
(おしりも全然治らないし、抗がん剤で手足のしびれも残ったまま。おっぱい失って、抗がん剤で無理やり閉経して、ホルモン剤で更年期障害になって、関節が痛くて動きもギクシャクするし、歯茎も痛い、耳鳴りはする。だいたいこの顔だって、なんなんだ。むくんで、シミだらけになって、顔にはヒゲが生えているのに、髪の毛はロクに生えてこないじゃないか……ガンになったことで、ここまで奪われなきゃならないの?? いくらなんでも、あんまりじゃないか!!!)
私は自分のカラダが損なわれてゆく悲しみに、疲れ果てていました。
何もかも、一体、どうしたらよかったの?
だって、もう、これ以上、どうしろっていうの?
なんでガンになんかなったの?
私がダメだったの?
私が何したっていうんだよ。
もう、やだよ。
何もかも、もう、疲れたよ。
もう、無理。
本当、無理。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
「あーあーあーあー!!」
「ごちゃごちゃ、うるせえな!!!!!」
そのとき、冷たい声が響きました。
「おまえ、もういい加減にしろよ! 毎日毎日、自分がガンであることばっかり考えて、私は大変、私は辛い、私ってかわいそう……ダサいんだよ、おまえは!!!」
声は止まりませんでした。
「そんなんで、生きてて楽しいかい? そういうおまえと一緒に暮らす夫は幸せかい?」
(……………………)
「大変なのは、おまえだけじゃないだろうが!」
それは、もう一人の私の声なのでした。
コロナという見えないウィルスに、多くの人が苦しみ、亡くなった人もいる。世界が緊迫してゆく日々。そんな中、恐怖と闘いながら懸命に働く医療従事者。スーパーマーケットやドラッグストアで働く方の姿。
本当はもう、大分前から気づいていたのかもしれません。
「おまえ、自分だけが悲しい、辛いって、いつまで言い続けるんだよ!」
「自分が悲しんでいる状況が、実は楽しいんだろう? 不幸せな状況が、嬉しくって幸せなんだよ。どうしようもないアホだよ、おまえは! そのまま一生死ぬまで、不幸を愛して生きてゆけ! おまえのそのダサイ生きざまは、ガンとか、健康とか、そんな問題じゃないんだよ!!!!」
醜い!
情けない!
みっともない!
もう、おまえは、さっさと死ね!
それは、私から私への我慢の限界であり、最後通牒のような感情だったのかもしれません。
母のガン闘病で落ち込み、自分のガンが判明してからも、毎日泣いて喚いて、冷静さを失ってゆく日々。無事に手術を終え、抗がん剤治療を始められたのに、今度は治療の副作用に悪態をつく日々。
いつまで経っても、立ち直ろうとせず、沈み込み、地面を這いずり回っている醜いバケモノ。
40年以上生きてきて、これほどまでに自分を嫌悪し、軽蔑したことはありませんでした。
ふと、夫の言葉を思い出しました。
母の食道がんや、私の乳がんの治療方針について、散々話して、結論を出したときのこと。
「いろいろ調べて、あらゆる角度から考え抜いて結論を出したのに、またそれを蒸し返して、悩み続けて、ぐるぐる同じところを回り続けるんだとしたら……それは、もはや悩み続けたくって悩んでるってことだよ。苦しみたくて、苦しんでいるってことだよ」
…………。
…………。
…………。
…………。
ちょっと待ってよ。
私、自分からわざわざ不幸を作り出しているの?
自分が望んで不幸になってるってこと?
まさか、そんな。
そんなわけないじゃん!!!!!!!!
幸せになろうと思って、生きているに決まってるじゃん!!
鏡の中のバケモノが、恨めしそうにこちらを睨みつけていました。
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