山本義隆 『リニア中央新幹線をめぐって 原発事故と コロナ・パンデミックから見直す』 : 〈リニア中央新幹線〉 の狂気と災厄
書評:山本義隆『リニア中央新幹線をめぐって 原発事故とコロナ・パンデミックから見直す』(みすず書房)
まったく同感である。
本書を読んだ上で、まだ「リニア新幹線に乗りたい」などと酔狂なことを考える者は、ほとんどいまい。ましてや、高齢者が全人口の3割を占めてさらに増加中であり、全労働者の4割が派遣労働者として不安定な生活を強いられ、正規の労働者の多くもブラックに働かされ、中流が没落して「貧富の二極化」が進んでいるこの日本にあって、どうして今さら莫大な国家予算を注ぎ込んでまで、「リニア新幹線」などという「無用の長物」をつくる必要性があろうか。
ところで、冒頭に引用した発言は『日経ビジネス』誌(2018年8月20日付け)に掲載された『JR東日本の元会長・松田昌士』(P110~111)の談話である。
「リニア中央新幹線」を進めているJR東海と別会社とはいえ、松田がリニア新幹線について、まったく無知であろうはずのない。『高価なヘリウムを使い、大量の電力を消費する。』といった問題をも知悉しているJR東日本の元会長だからこそ、「リニア新幹線」が、経済的にも公共の乗り物としても、論外だと考えているのだ。
とんでもない大工事であり、いかに恐るべき自然破壊・環境破壊が伴うものなのかが、素人にだって窺えよう。
だが、トンネルを掘ったことによる影響だけではなく、これだけのトンネルを掘れば、掘り出された膨大な残土の問題も発生するわけだが、当然のことながら、そんな膨大な残土の、速やかかつ有意義な使い道など、そう簡単には見つからないだろうし、そうなれば、「一時保管」残土の山による自然破壊や、それに伴う生活環境破壊といった公害も、当然のごとく発生するだろう。補償金を払って済む問題ではないのである。
リニア新幹線は「無人運転」であり、途中の駅も自動改札でほぼ無人。車両が何らかの事故で運行不能になった時には、避難誘導をしてくれる乗務員や駅員というのが、ほぼいないと考えていい(たぶん、リモートで指示するだけだろう)。
無論、大地震で生き埋めになれば、救助なんて来ないと考えるべきだろう。すっかり骨になってから、収容される可能性はあるにしてもだ。
一一ともあれ、こんな「パニック映画の舞台にもってこい」なものを、莫大な国家予算まで注ぎ込んで、わざわざつくる必要がどこにあろう。
しかも、もともとはJR東海が自己資本でつくる計画だったものに、社長とお友達だった安倍晋三前首相が、3兆円の無担保優遇融資(特別な低金利で、しかも完成30年後からの返済)を決めたのが、この「リニア中央新幹線」なのだ。
現・菅義偉首相は、日本学術会議に関わる任命拒否問題において『推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲してよいのか考えてきた』と、もっともらしくその拒否理由を語ったが、それなら当然、この「リニア中央新幹線」など、真っ先に白紙撤回すべきではないか。
だが、コロナの第4波に差し掛かる今になっても、オリンピック開催の撤回もすらできないようでは、「リニア中央新幹線」という、無駄金を使うだけでは済まない「災厄」を撤回することもできないだろう。
もはや日本は「狂っている」としか言いようがないし、世界からもそのように見られていること間違いなしなのである。
初出:2021年4月14日「Amazonレビュー」
(同年10月15日、管理者により削除)
再録:2021年 4月26日「アレクセイの花園」
(2022年8月1日、閉鎖により閲覧不能)
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